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提案

 手にもっていたレーザー銃を、背負っていた遠距離戦仕様レーザーライフルに持ち替える。

 ゲームのときと同じマップなら、ある程度は敵の出現パターンを覚えている。

 右側の無人の民家から出てくるゴブリンの姿を視認するべく目を凝らせば、パワーアーマーを着る前には全く見えないであろう位置にゴブリンの姿が見えた。


「ゴブリンの姿を確認、狙撃します」


 そう言って隊の皆に伝えたあと、手にもったライフルを構えてゴブリンに狙いを定める。


 パワーアーマーを着ている間だけ、ステータスがいろいろなことに反映されていると知ったのは、三度目の出撃のときだった。

 例えば遠くの小さなものが正確に見えたり、レーザー銃を撃ったときの的中率が上がっていたり。

 二度目まではそういったことを確認している余裕がなかったが、三度目のときにそれを確認した。


 そして敵についても三度目の出撃でわかったことがある。

 出現パターンも同じなら、敵の行動パターンもゲームのときに非常に近いのだ。


 ゴブリンが警戒するように立ち止まり、周囲を確認するタイミングで、構えていたレーザーライフルのトリガーを引く。

 紫色をした光線は、銃口から発射されると一直線にゴブリンの頭に向かい、それがゴブリンの頭に当たると、ゴブリンはその場で灰になった。


 この武器は初めての給与と、それまでに得ていたクレジットを使用して購入した。

 レーザー銃の上位互換であるレーザーライフルと、遠距離戦仕様レーザーライフルではリロード時間と威力が違っていて、連射の出来る通常のレーザーライフルと一発の威力が高い遠距離戦仕様のどちらにするかでしばらく悩んだけど、知っているマップや任務内容なら、ゲームと敵の出現パターンがほとんど変わらないことを考えて遠距離戦仕のもの様を選んだ。


 遠距離から一方的に敵を仕留めれば危険も少ない。

 ゲームでも隊の仲間が死ねば、生き返ることはなかったけど、自分が直接的に接する人の生死とゲームのキャラクターの生死では感じる重みが別物だ。安全策を取ることは悪いことじゃないだろう。


「敵の消滅を確認」


 事前情報通りならこれで終わりのはずだ。構えていたライフルを下ろして近藤さんの任務終了の報を待つと、程なくして「敵の殲滅を確認した」と頭に響いた。




 本気で戦うと決めてから一月が経った。その間に発令された任務は今回を含めて三回。

 その全てが遭遇戦であり、ゲームのときに序盤に発令されたことのある任務だった。

 僕はそれらをゲームのときの知識を活かして、最短で終わらせた。

 隊の皆に、僕がゲームとして遊んでいたときの知識をもとにした提案を受け入れてもらうためだ。


 ゲームでは三年目の終わりの日に、支配率というパラメーターの数値によって、どのエンディングになるかが決まって、支配率が低ければ低いほど良いエンディングになった。

 この支配率は進軍戦や防衛戦、作中に起こるイベントによって増減し、最終的に支配率5%以下で終えることが出来ればグランドエンディング、人類の勝利エンドが待っていた。

 僕が目指すべきは、その人類の勝利エンドだ。けれど、これはゲームのときであってもかなり難しい、厳しい条件だ。


 まず進撃戦と防衛戦では殆ど失敗が許されない。そして節目などに起きるイベント任務でも最良か、それに近い結果を出さなければならない。

 一人ではどうにもならない任務もあるし、僕の言うことを信用し、連携してくれる味方が必要だ。


 しかし、僕にはそんな全面的な信用を得るのに必要なコミュニケーション能力が足りない。

 ゲームでは選択肢の中から選べばよかった会話も、ここでは自分で全て考えなければならない。

 相手が僕のことをどう思っているか、表示してくれるような機能もない。

 そんな状況で、僕のことを全面的に信用してもらえるような、そんな信頼関係を自分から働きかけて構築することは僕には不可能だ。


 そこで僕は考えた。コミュニケーションではなく、結果を出すことで信用してもらえるようになるのではないかと。

 結果として僕は三回の任務において、おおよそ半分の敵を単独で倒した。隊の皆からの評価も多少は上がっているはずだ。


 ゲームでは防衛戦と進撃戦が始まる三か月目まであと少し。

 今ならまだ、失敗しても取り返しがつく。つけられる。


 そこで僕は反省会の終わりに一つ、提案することにした。


「すいません、最後に一ついいですか?」

「次の任務、作戦を僕に任せてもらえないでしょうか?」

「小隊長は今まで通り、ヴィルヘルムで構いませんし、僕もヴィルヘルムが適任だと思っています」

「ですが現場での作戦については、僕に一任してみて欲しいのです」


 ゲームのときの知識を活用して、僕が皆の行動をある程度、決めることが出来れば、任務の達成は比較的楽なものになる。

 敵の出現位置や動きを予測出来るのだから、それを基にして動くように提案すれば、奇襲も一方的な狙撃も可能というわけだ。

 ただ、実際の戦闘中の指揮では、ゲームの知識を活用出来る場面はそれほどない。

 緊急時の判断ではヴィルヘルムとそう大差ない判断しか出来ないだろうし、何より僕にはヴィルヘルムのように人を纏めたり、導いたりすることは難しい。


「あー、俺は構わないが、理由を聞いてもいいか?」


「信用してもらえるかわかりませんが、僕には敵の行動をある程度、予測することが出来ます。ですから、それを基に作戦を立てるのも難しくありません」

「ただ、細かな指揮や人を導く力には自信がありませんから、小隊長として動くには僕は適任ではないと思います」

「これがこの提案をした理由です」


「私はいいと思いますよっ! 野上さんの最近の戦果は凄いと思いますし!」


 ヴィルヘルム以外で一番に声をあげたのは茉莉ちゃんだ。

 ここにきた初日のことを思えば、僕の提案に賛成してくれるなんて、と感慨深い。


「私も構いません、東条さんの言うこともありますから」


「……私も」


 次いで、津組さん、皆本さんと賛成してくれる。それを見ていた御堂も「好きにしてくれ」と投げやりに賛成してくれた。


「皆がいいなら、最初に言った通り、俺にも異論はない。じゃあ次は作戦を航に任せてみるか」


 その後は誰からも特に何もなく、反省会は終わった。

 

 正直、提案が断られる可能性は高いと思っていた。

 リビングで会えば少しは会話をするようになったとはいえ、親しくなったといえるのはヴィルヘルムだけだ。

 それでも賛成してくれたということは、自分が思っていたよりも周りからの僕の評価は低くなかったと、少しは自信をもっても良いのだろうか。

 そんなことを自室で思いながら、僕はベッドの上で眠りについた。

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