サブヒロインに攻略されました
夕暮れの河川敷、川沿いの野原には僕と彼女の姿があった。
「そっか、そっか、つらかったんだねぇ……」
「うんうん」
彼女に手渡されたハンカチで、溢れ出る涙を拭う。
このハンカチを渡されてしばらく、僕は彼女にいろいろな泣き言を言っていた。
彼女はそれをずっと、隣に座って聞いてくれている。
茶髪のポニーテールの、ジャージに身を包んだスポーツ少女といったいでたちの、この女の子こそが僕が探し求めていたサブヒロイン、高橋 みなも だ。
ゲームでは泣いているのは彼女の方だった。主人公はそれを慰める側だったはずだ。
それが今はどうだ。僕が泣いていて、彼女がそれを慰めている。
これではまるっきり立場が逆じゃないか、どうなっているんだいったい。
そんなことを頭の片隅では考えながらも、目からは涙が、口からは愚痴のような泣き言が止まらない。
「僕は頑張った、頑張ったんです。でも、皆のことにまで考えが至らなくて……」
「大丈夫、みんないつかはわかってくれるよ、今だけ、辛いのは今だけだから、ね」
「だからほら、そろそろ泣き止んで、顔を上げて!」
「いつまでも男の子が泣いてちゃ、恥ずかしいよっ!」
僕の背中をぽんっと、軽く叩いて彼女が立ち上がる。
必死で涙を止めながら、彼女の方へと顔を上げるとそこには微笑んだ彼女の姿があった。
あぁ、彼女が、高橋 みなも こそが僕のヒロインだ。彼女はサブヒロインなんかじゃない、僕のメインヒロインだ。
夕日を背景に、こちらをみて笑う彼女の姿は一枚の絵のようで、僕は感動と胸の奥で小さく疼く何かを覚えた。
「……ぷっ、あは、あははははは」
けれどそれは一瞬のこと、僕の顔を見て彼女は笑いを堪えきれなかったかのように笑いだす。
僕はそれにむっとしながらも立ち上がると、それを見た彼女が
「ごめん、でもほら、ひどい顔だよ」
そう言って謝って、小さなショルダーバッグから手鏡を取り出し、僕に見せてくれる。
そこには、たしかに涙でぐちゃぐちゃになった平均よりちょっと下な僕の顔があった。
「たしかに、これはひどい」
「あははっ……でしょ?」
気づけば自然と涙が止まっている。
いろいろと溜まっていたものを吐き出したことで、心が軽くなったような気分だ。
「うん、もう大丈夫そうだね」
「あ、そうだ! 名前とか聞いていい?」
「私はみなも、高橋みなも」
「僕は野上、野上 航です」
「あの、ありがとうございました。おかげで何かスッキリした気がします」
「ハンカチは洗ってお返ししますね」
「いいって、あげるよ! ほら、記念にさ!」
「それじゃあ、私は明日もこの辺りを昼から走ってるからさ、また良かったら話そ、ねっ!」
「じゃあね!」
そう言うと、恥ずかしくなったのか、彼女はその顔を赤くしながら走って去っていく。
高橋みなも、高橋みなもかぁ……。明日も話そう、かぁ……。
彼女に貰ったハンカチを片手に、ぼうっとした頭で、彼女が見えなくなるまで僕はその場に立ち尽くしていた。