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サブヒロインを探せ

 窓から差し込む朝日を浴びて目を覚ます。

 晴れ晴れとした日差しに、朝の爽やかな空気。

 鼻をくすぐる春の香りは、心を豊かにしてくれる。


 なんてことは一切ない。


 僕の心はどんよりとした曇り空。

 起きて早々に胃の痛みを感じて、今日からの生活に憂鬱になる。

 思えばこの世界に転移してきてからこちら、ここにきた初日以外では男としか話していない。

 初日の自己紹介の場と、誘われたその日の夕飯の席。

 二回だ。半年間で二回しか女の子と会話していない!

 いや、自己紹介の場では会話をしてもらえなかった。つまり一回だ!


 ゲームでは主人公の周りには沢山のヒロインがいて、どれにしようか選り取り見取りだったというのに。

 主人公と同じ立ち位置にいる僕の周りには訓練校の鬼教官と、僕の尻を狙う男と、ヴィルヘルムしかいなかった。

 どういうことだよ! 僕が、僕が主人公なのに!


 そこで僕は考えた、どうすれば女子と仲良くなれるかを。ギャルゲーのような体験が出来るかを。

 前日の出来事のせいで、同じ隊の皆との仲は壊滅的。

 マイナスから始めるのは顔面偏差値が平均から少し下の僕には高いハードルだ。


 ではどうすればよいか「パンがなければケーキを食べれば良いじゃない」という名言を思い出す。

 僕もそれに則って、ヒロインがダメならサブヒロインと仲良くなれば良いじゃない、と考えよう。


 おあつらえ向きに、初陣が終わってすぐに起こせる、サブヒロインが出てくるイベントが一つあることを思い出した。


 "河川敷の女の子"と題されたそのイベントは、河川敷で泣いている女の子を、主人公が何度も慰めて立ち直らせるイベントで、イベントの最後には彼女から手作りのクッキーとラブレターのような手紙を貰うことができる、心温まるイベントだった。

 

 僕もゲームの主人公として、彼女を慰めて立ち直らせ、最後にラブレターを貰うんだ。


 そう決心した僕は、河川敷に向かうべくコソコソと宿舎を出た。





 河川敷に着いた僕を待っていたのは、雲一つない青空と、ゴミ一つ落ちていない川、人っ子一人いない野原だった。

 そう、ここには僕以外に誰もいない。ゲームではいるはずのサブヒロインの存在は影も形もない。


 今までのイベントは基本的にゲームと同じだった。ステータスに関しても、初陣に関してもゲームと違いはなかった。

 しかし、ここにきてまさかのサブヒロインがいないとは、いったいどうしたことだ。


 ゲームでは彼女は、憧れていた人が死んでしまったと言ってここで泣いていたはずだ。

 いや、待て、ゲームでは河川敷の一部を切り取ったマップだった。

 つまり、ここはゲームで主人公が訪れていた場所とは別の場所だったのではないだろうか?

 なるほど、そうに違いない。

 となれば、僕がやることは簡単だ。

 探せばいいのだ、サブヒロインを! 僕にラブレターをくれるサブヒロインを!




 結論からいえばサブヒロインはいなかった。

 河川敷にいたのは野良ネコのノラくらいで、他には虫くらいしか見ることはなかった。


 河川敷の川の前に座り、川面に映る夕日を見る。

 僕っていったいなんなんだろう。神様はどうして僕をこんな糞みたいな世界に連れてきたんだろう。

 希望のギャルゲー生活を夢みて頑張って、ヴィルヘルムを助けるために頑張って、それで得たものは胃痛だけ。

 考えていたら涙が出てきた。


 腕でゴシゴシと溢れる涙を拭っていると、背後からハンカチを差し出された。水色の花柄のハンカチで良い匂いがする。

 驚いて、ハンカチを差し出した手の主の方を見ると、そこには今日ずっと僕が探していたサブヒロインがいた。

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