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プロローグ

 ゲームの世界の中に入るっていうのは、ゲーム好きにとっては夢のような出来事だと思う。

 自分の部屋で寝ていたはずの僕が、そんな夢のような出来事に遭遇した理由は今でもわからない。


 気づけば僕は知らない部屋の二段ベッドの上段にいて、下段には見たこともない少年が腹をだして寝ていた。

 これはいったいどういうことだと僕は二段ベッドから下りて、寝ている少年を起こして事情を聞けば、ここは訓練校の寮で僕達は前線で戦う兵士になるためにここにいるのだと教えてくれた。

 眠そうに目をこすりながら「寝ぼけすぎじゃないか?」なんて言って、また寝始めた少年を横目に、僕は自分に何が起きているのかがわからなくてその場で呆けた。

 しかし時間は僕が落ち着くのを待ってはくれない。

 日が登り始めた頃に同室の少年が起きて、僕は彼に促されるままに朝の準備をして、何もわからないままに流されるように動いた。

 

 訓練校の訓練は過酷という一言では表せないくらい酷いものだ。

 三十キログラムの荷物を背負わされて、二十キロメートルも走らされたり、やたら細かい部品で構成された銃の解体、組み立てをさせられたり。

 教官は鬼のように厳しく、口も悪くて「俺を呼ぶときは言葉の前と後にサーとつけろ!」だとか「お前達は便所の糞にも劣るクソムシだ。わかったかクソムシども!」などと言ってくる。

 たまに褒められるときですら「お前、家にきて俺のケツをファックしていいぞ!」なんて言うものだから、僕はもうなにがなんだかわからない。


 そんな辛い訓練校生活も気づいたら半年が過ぎた。


 この半年間の間に訓練校の座学や同室の少年、同期のみんなとの話で僕はゲームの世界に転移したのだと知った。

 しかし僕が知っているそのゲームには、こんな訓練校での生活はない。

 宇宙からの侵略者であるエイリアンとの戦いを描いたゲームだったけど、ゲーム内容自体は同じ小隊の仲間達と恋愛をしたり友情を育んだりしながら人類の勝利を目指す、はっきりいえばギャルゲーのような内容で厳しい訓練なんてしていなかった。

 どうやら僕はゲームが始まる前のタイミングで、この世界に来たということらしい。


 どうして僕がこんな目に合わなくちゃならないんだと、ふてくされたこともあったけど、正式に小隊に配属されればゲームのときのようなギャルゲー生活が待っているはず。

 同期のみんなと励まし合いながら、そのことだけを希望に僕は今日までを過ごした。


 そう、とうとう訓練校を卒業して、小隊に配属される日がやってきたのだ。

 もう同室のアホに「俺、もう男でもいいや」などと言われて、襲いかかられる心配をしなくてもいいのだ。

 体育館で壇上の偉い人から一人ずつ辞令を受けた僕達は、それぞれ小隊の宿舎へと移動するために体育館を出る。

 それから僕達は輸送車が待っている学校の正面玄関に向かったところ、道中で待っていた教官が声をあげた。


「この俺から便所の糞にも劣る貴様らに最後の命令だ! 死ぬな。死ななければ明日がある。死ななければ次がある。お前達に私から与える最後の命令は生きることだ。わかったな貴様ら!」


「サー! イエス! サッー!」


 半年間の訓練の結果、体に染みついた習慣で条件反射的にその場で敬礼する。

 そしてそのあと、何を言われたのかを理解して目に涙があふれてきた。


「赤い紙も私が青だといえばそれは青だ! わかったな!」

「今の貴様らは便所のクソを拭く紙以下の存在だ! それを自覚しろ!」

「さぁ、早く俺のケツをファックするんだ!」


 そんな汚い言葉で僕達を罵っていた教官が、そんなことを言うのだ。誰だって泣いてしまう。僕も泣いた。


「では行け! これからの貴様らの健闘を祈る!」

 

 いつの間にかゲームの世界にいて、それからいろんなことがあった。つらくて投げ出したくなる日々だったけど、思い返せば悪いことばかりではなかったような気がしてくる。

 未だ現実感がそれほどないけど、それでも僕はここに生きている。夢を見ているだけかもしれないけど、それでも生きている実感がある。

 これから小隊の宿舎へ行けば、僕が夢に見ていた日々が始まるのだ。死と隣り合わせだということ以外は、僕の理想に近い日々が待っているのだ。

 振り返っている暇はない。僕のドキドキギャルゲーライフはこれから始まるんだから!

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