4-3 遂に始まる勉強生活は、魔術から
【得意属性】
一般的にはそう言われているが、正式名称は【特異属性】
マナ生成の過程に置いて、通常生成出来るのは無属性のマナだが
五人に一人の確率で無以外の属性のマナを生成する魔術師がいる
そういう魔術師を【属性持ち】と言う事がある
さらに属性持ちは、その生成出来る属性の魔術が優れている傾向がある
故に得意属性とも呼ばれているのだ
今から始めるのが、そういう属性持ちかどうかを確かめる検査だ
「(あまり知られていないが、生まれつき魔力総量が高いという者が属性持ちになりやすい傾向にある、ルカなら可能性は十分高い)」
ありとあらゆる情報の元導き出された事実だが、論理的な根拠が不足している可能性の俗説でもある
「さっきは魔道具を使いましたね、今回もそういう物を使うんですか?」
「あぁ、そうだ、だが本来そういう使い方をするものじゃないんだが...これが一番分かりやすいだろう」
そう言って俺は腰に下げた鞘から一本の剣を抜く
「先生、それは...?」
「【魔剣】と呼ばれる魔道具だな」
魔剣とは、魔術のような能力を備えた剣型の魔道具
今回持ってきたのは、【特定の魔力を込めることによりその特定の魔力属性による現象を引き起こす】という能力を持った魔剣だ
この魔剣の能力の定義は曖昧だが、火属性のマナなら剣が火炎を纏ったり、土属性なら、形状変化が出来るといった具合だ
「得意属性を生成出来る者はただ発する魔力にも属性が宿る、これを手に持って魔力を注げば、それ相応の属性の効果を発揮する」
魔剣をルカに差し出す
「なるほど、普通に持ってさっきみたいに魔力を発するだけでいいんですよね...うわ、重っ」
受け取ったものの、真剣の重さに耐えきれず、持ち手だけを手で持って刀身が地面に突き刺さる
「やはり重いか、そのままでいい、さっき見たいに魔力を発しろ、あとは魔剣が持ち手を通じて刀身へ魔力を送る」
そういう構造になっている
「分かりました」
ルカは目を瞑り、手に力をいれ始める
ふと注意を逸らすと、母親がこちらを見ていることに気づく
真剣な眼差しで、自分の子供の行く末を見守っている
「(魔力量に優れているという才能だけではなく、属性持ちならさぞかしいい魔術師になるだろう。そうすれば、表情に乏しいあの母親も笑うだろうか)」
自問自答をしているうちに、ふと風が吹き荒れる
無属性で溢れた空気ではなく、風属性を含んだ空気が
魔剣から流れていた
俺は予想通りだと言わんばかりの顔で頷き、母親も笑顔でこちらを見ていた
だが、その母親が突然顔をしかめた
同時、いや、母親よりも僅かに遅れて、俺も顔をしかめさせる
風が吹き荒れる中、水滴が飛び散っている
風はどんどん強さをましていく一方
剣からは水滴が現れ、落ちていくのが見て取れた
二属性持ち
そんな言葉が思い浮かぶ
もしそうなら、こいつは...
だが、突如現れた冷気に、思考が停止する
「!?」
剣から滴り落ちていた水は、冷気と共に凍りつく
そればかりか、水滴が落ちた地面までも、凍り付き始めたのだ
「ルカ!」
我に帰った俺は、半端反射的に叫ぶ
ルカがそれに驚き目を見開くと共に、発していた魔力が飛び散る
冷気は止み、凍りついていた地面も元の状態へ戻っていく
「は、はい?何か、悪いことしましたか?」
「...この魔剣はこめた魔力属性相応の現象を発動させる物だ、だが、得意魔力というのは【基本の五属性】しか生成しない...なぜ【氷】属性の魔力を込めれた?」
「え...?」
ルカはなにも分からないと言った顔でこちらを見てくる
「...氷属性は【派生·混合錬成】と言った技術で、水と風属性のマナを混ぜ合わせて作る派生魔力だ。お前はその技術を扱えるのか...?いや、そうではないのだろうな」
母親は口を手で覆い、とても驚いている
後ろにいるメイド長も同様だ
無属性から属性を錬成する技術も教えていないのに、派生錬成が出来るわけがない
それに最初は、風のマナを力を、のちに水のマナの力を同時使用していた
つまりはルカは二つの属性のマナを生成出来たのだ
それを踏まえ考えうるものは
「魔力体質、虚無魔法、【自動錬成】...!」
自動錬成は、錬成という技術を要することなく、属性のマナを取り込めば魔臓内で勝手に混合し、派生魔力を作り出す、滅多にお目にかかれない、レアな虚無魔法だ
ルカが【二属性生成】と言うこちらもレアな虚無魔法を持っているのも明らかだ
と言うことは、ルカはとてもレアな虚無魔法二つを持ち、魔力量も常人の倍を持つ
紛れもない【天才】と言うことだ
「確かに、加護や呪いを前世から受け継いで増えていくケースもあるが...」
これは...計画をもう一度練る必要があるな...
「先生、もう一度やってみたいんですが、いいですか?」
「ん?あ、あぁいいぞ」
「ありがとうございます」
ルカはまた目を瞑り、魔力を込める
冷気を発する魔剣とルカを他所に、俺はマリアの元へ向かう
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一部始終を見ていたマリアにも
ルカが常人の倍ほどの魔力総量を持っていること
ルカが得意属性を二つ持っていて
自動で氷属性を錬成出来ること
詳しく説明した
「私の子供が...良かった」
良かったの意味は検討が付きにくかったが、なにも取り柄のない普通の子供ではやはり現状の打破には事足りないんだろう
「下民から産まれたのにも関わらず、このような才能を持っているなんて事は周りの貴族をさぞ嫉妬するでしょう」
マリアは頷く
「えぇ、そうですね...」
そこで提案をした
「ルカのこの才能...俺達だけの秘密にするというのはどうでしょうか」
「...嫉妬を避けるために、力を隠すんですか?」
「はい、嫉妬に駈られた有権者なんて奴らは何をするか分かりません、ルカを利用したり、ルカを拐ったりする賊も出ましょう、これ以外にも様々な危険性が出ます」
「なるほど...」
「この事実を知るのは、ルカとその家族と私だけと言うことにしましょう。執事とメイド長にも一応知ってもらいます」
メイド長は後ろで頷く
「でも、その他にはどう説明すれば?」
「魔力量が少し高いとでも説明すれば言いと思います」
「分かりました...シルヴァ様、ルカの事を周りに秘密にすることは、本当に良いことなんですね?」
少し間が空く
「...俺自身の経験の元、その危険性を排除したまでです。子供を想って考えるのなら気をつけてください。【行きすぎた力は不幸を呼ぶ魔術】なんですから」
俺の目は、マリアでもルカでもメイド長でもない。虚空を見つめていた
「...!シルヴァ様、マリア様!ルカ様が...!」
俺とマリアは同時にルカのいた場所を見た
「...シルヴァ様、あれは一体どういう...!」
マリアは青ざめた顔で問う
だが俺は淡々と答える
「...魔力切れですね」
ルカは倒れていた
というより、眠っていた
俺はルカを持ち上げた
「魔力切れは疲労感の末昏睡状態に陥るだけです、心配ありません...先ほどの話は、夕食時にでも話しましょう」
マリアはホッとしたような顔で承諾の意味で頷く
「それにしても、魔力が切れるまで魔力を込め続けるなんて...何を考えてるんだ」
というか常人の倍ほどもある大量の魔力が込められた魔剣は
案の定完全に氷の結晶の中に閉じ込められていた
取り出すの苦労するなぁ...
【錬成】
空中に存在する無属性の魔力の質を変え、基本の五属性(火 水 風 土 雷)の魔力を作る技術
さらにその五属性の魔力を組み合わせて、氷や光のような属性を作る技術がある
同じ属性を組み合わせても、組み合わせる割合で出来る属性が変わってくる
2等級魔術から学ぶ技術である