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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~  作者: 神崎 創
第一章 メスティア軍の決起・アルセス解放戦 編
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 9) メスティア軍動く~ハルカのささやかな誤算

 衆議で意見の一致をみるや、即座に行動を開始したメスティア勢。

 ドボス軍が態勢を立て直す前に迅速に攻め、軍容を立て直す暇を与えしめないように事を運ぶのが狙いである。

 最初の目的はアルセスの街の攻略、そしてドボス軍を握っている裏切り者ダムを倒す。アルセスを押さえれば、この島そのものがメスティアの手に帰したも同然となる。


「どうか、この世界を魔族の手からお救いください!」

「アリス王女様とメスティアの皆さまに、精霊エティシアのご加護があらんことを!」


 村人たちに総出で見送られてアルセア村を出発したのは、王女アリスを中心に総勢十二名ほど。

 主戦力は護衛兵リディア、流剣士ウォリス、重装歩兵ベック、それにマリスとノア姉弟。

 援護の役割を担う弓士はマーティとニナに加え、村の狩人ジェイ。五十歳近くとずば抜けて年長だが、弓の腕は確かである。また、土地勘もあるため道案内にもなる。かつてはアルセスで暮らしつつアルセアと行ったり来たりしていたが、ドボス軍の侵攻によって戻れなくなっていたのだった。

 あとは世話役として侍女ヘレナと村の娘サラ。彼女らは兵として戦うのではなく、主に食事の用意や傷の手当を行うのが役割である。

 そして――ハルカ。

 丈の短いワンピース風衣装はそのままだが、金属製の簡素な装甲を胸に当て、腕には手甲をはめている。これらはかつてアルセス国王に仕えたというアルセア村の古老が譲ってくれた。羽織っている純白のマントはおばちゃん達からの贈り物である。

 かつ、幅広の大剣を背負っている。

 これはさる壮年が「代々受け継いできたものだが」といって寄越してくれたもので、剣というよりはほとんど分厚い鉄板に持ち手をつけたような代物である。だいぶ錆が浮いていて切れ味は期待できない。が、ハルカにはそれでよかった。どうも相手を斬るという行為は気が進まなかったからだ。斬るよりもぶん殴る方が気楽でいい。戦争といえど、できれば血ドバは御免蒙りたい。

 一見、可憐な少女剣士風。

 皆が口々に「似合う」「可愛い」と褒めてくれ、ちょっと照れくさかった。

 が、胸元をはじめ太腿以下素足を晒しているうえに――穿いてない。

 飛んだり跳ねたりすれば股間や尻が丸見えではないかと思ったが、贅沢は言えなかった。村の人々の厚意でやっと整えた装備だからである。

 ほかに何人か村の屈強な男達が同行を申し出たが、アリスとリディアが村に残るよう説得したのだった。この戦いで傷ついたり斃れたりするようなことになれば、例えアルセスを奪還したとしてもそのあとの復興が難しくなる。できるだけ戦力を少数で抑えるために、強襲という博打に近い作戦を選んでいるのだ。

 アルセア村からアルセスの街までは、一日半歩き通してやっと着けるほどの距離だという。

 途中に民家や集落はなく、ひたすら森が続く。道は平坦でない上にでこぼこが多いため、重たい甲冑を身に着け、かつ武器を担いでいくにはかなりきつい道のりである。体力自慢のベックですら、何度も息を整えねばならなかった。


「ドボス軍が設けた小砦が二箇所ほどあるというのは間違いないのですか?」

「ああ、確かだ。私がこの目で確かめている。――ただし、追加で築かれてしまっていたら、それはわからんよ」


 リディアが発した質問に、うむと頷いたジェイ。

 村を出て狩りをするかたわら、ドボス兵の監視を巧みにすり抜けつつ現地を調べていたらしい。さすがは熟練の狩人である。

 かつ、彼は行く手の方角をまじまじと見つめていたが、つと振り向いて


「……そろそろ、この本道から外れたほうがいい。こんなところを抜け抜けと歩いていれば、ドボスの奴等に見つかってしまう。厄介ではあるが、森の中を進んだほうがいいだろう。――なに、方角を迷う心配はない。このあたりは私の庭も同然だからな」


 そう促した。

 もっともである。

 ドボス軍の先を取るべく早々に進撃を開始したのに、発見されてしまえば元も子もない。

 一同の中でもっとも大荷物、というより武装が重厚なベックはややうんざりしたように苦笑したが、愚痴の一つも洩らさなかった。王宮に仕える正規の兵とはこういうものかと、ハルカは新鮮な驚きをおぼえていた。

 ただ、本道は大きくうねっているが、横に逸れて森へ入れば直線距離としてはショートカットになるらしい。消極的ながらメリットはなくもないといえる。

 一行は道を外れ、森へと踏み入った。

 しばらく、木々の間をすり抜けるようにして前進していたが、ある程度進んだところで、アリスにむかってウォリスが


「姫様、俺が先行しよう。ドボス兵がうろついていないかどうか、確かめつつ進むのが上策だろう。……見つけ次第、斬っちまうけどな」


 申し出た。

 なるほど、身軽で動きも軽快な彼にはまさしく適役である。

 すると、美形姉弟の姉マリスが


「では、伝令として私も行きます。何かあれば駆け戻ってきて王女様にお伝えしましょう」


 自ら進み出てきた。自分に何かできることはないか、探していたのだろう。当然スマホや無線など存在しないから、誰かが走って情報や指示のやり取りをしなければならないのだ。

 通信する道具がないのは不便だよね、と思ってからふと、ハルカはひらめいた。

 誰よりも猛スピードで行ったり来たりできる者がここにいるではないか。

 必要とあらば、木によじ登ることはできないが高く跳躍して枝の上に飛び乗ることだってできる。昨晩の戦いでは、撤退したドボス軍の動向を確認するためにそれをやっている。


「あのっ! その役、あたしが引き受けます! あたしにやらせてください!」


 手を上げると、おおっ! と唸った一同。

 皆、確かに適役であると思ってくれたらしい。

 マリスだけは申し訳なさそうに


「いいんですか? 事によっては行ったり来たり、すごく疲れると思いますが……」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。こう見えてもあたし、体動かすのは得意ですから!」


 いたって元気いっぱいなハルカの様子を見たウォリス、力強く頷いて


「なら、一緒に行ってもらおうか。ハルカは強いし、俺としても心強い」


 ハルカは口にしなかったが、消極的な理由もある。

 マリスが行ってしまえば、弟のノアが不安に思うのではないかと思ったのだ。剣の達人ウォリスが同行しているとはいえ、絶対に安全であるという保証はない。

 そうして本隊は休憩を兼ねて一旦その場で待機とし、ウォリスとハルカの二人は敵地偵察のため一足先に進むことになった。

 木の幹に隠れるようにして前方の様子を窺ってドボス兵がいないことを確認し、また少し先へ行く。

 その繰り返しである。

 ウォリスがエスコートしてくれているから、ハルカはそのあとにくっついていれば良かった。

 だいぶ進んだものの、一向にドボス兵の影をみない。

 守備兵が立て籠もっているという小砦まであと少し、という地点まで来たとき、ウォリスはふうと大きく息をついた。

 傍へ寄ってきたハルカに微笑を向け


「……ドボス軍、昨夜の戦いでだいぶ参っているようだな。俺達が小砦にここまで近づいているというのに、見張りがまるで手薄だ。こりゃあ、リディアの作戦が図に当たったな。時間を置かずにすぐ動いたのは正解だった」

「じゃあ、すぐに攻めるんですか?」


 いいや、とウォリスは首を横に振り


「明朝だな。皆、昨日の戦いに今日の強行軍で疲労気味だ。陽も暮れかけているから、無理に突っ込まなくてもいいだろうさ。全員の体力が戻るのを待って仕掛けるのが良策だろう。ドボスだって、すぐには行動を起こせまいよ」


 小砦の方を指してニヤリと笑った。「……あいつらも、かなりくたびれているからね」


 言われて気が付いたが、森の中へと差し込む陽の光が弱くなっている。

 頭上はずっと木々の枝葉に遮られていたから、空の様子がわからなかった。

 アルセアを出立したのが昼頃だったから、もう夕刻になっていると思っていい。

 目的に向かって一直線に進みつつも、きちんと周囲の状況にも目を配っているウォリスはさすがだと、ハルカは思った。ただぴょこぴょこと後を追っているだけだった自分は、空の様子すら気にしていなかった。


「さて、と」


 傍らにそびえている大きな木を見上げたウォリス。

 背負っていた剣を下ろすと


「このあたりで、ドボス軍の小砦の位置を確認しておきたい。この木に登って向こうのほうを見てみるから、ハルカはちょっと待っていてくれ」


 と言った。

 ――ああ、それなら! 

 ようやく自分の出番だと悟ったハルカは


「あ、ウォリスさん! あたしがやります!」


 言うが早いか、地面を蹴ってひらりと飛び上がった。

 背丈の四、五倍も高い位置にある木の枝に、羽毛のようにふわりと身軽に飛び乗った。

 周囲の樹木より大きく伸びているから、はるか彼方まで見渡すことができる。


「わあ、よく見えますよ、ウォリスさん! ここからずっと真っ直ぐ行った向こう側に、石積みの小さな建物みたいのが――」


 木の根元に立っているウォリスを見下ろしつつ上から声をかけようとした。

 すると彼は、手の平で眉間のあたりを押さえ、俯いている。


「あれ? どうかしたんですか?」

「どうしたもこうしたもハルカ、いきなり俺の目の前で飛び上がったりするな! 若い娘が、あられもないってモンじゃねェか……」


 一瞬、何を言われているのかわからずきょとんとした。

 が、その意味を理解した途端、ハルカの顔がたちまち真っ赤に染まっていく。

 咄嗟に、股間を隠すように両手で衣装の裾を引っ張りつつ


「やだ! 見ないでくださいよぉ! あたし、穿いてないんですからぁ!」

「見ようと思って見たわけじゃねェよ……」


 単に大事なところを見られたということよりも、よりによってナイスガイなウォリスの前でそういうはしたない行動をとってしまった自分が恥ずかしくなったのだ。

 丸二日も穿かないでいると、だんだんノーパン状態に違和感を感じなくなってしまうらしい。

 役割を果たそうとするあまり、そのことをついうっかり忘れてしまっていた。

 もう一度小砦の方角と位置を確認しつつ、ハルカは考えている。


 ――アルセスの街を取り戻したら、まずはパンツを手に入れようっと。この世界にもパンツくらい、あるよね?


 そういえば、と、ふと気になった。

 アリスやヘレナ、ニナらは穿いているのだろうか?

 もし穿いているのだとすれば、声を大にして言いたい。

 あたしに一枚くらい貸してください、と。

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