4) メスティア、魔族、その他なんとかかんとか
(はーっ。まさか、知らない世界にきてまでお風呂に入れるなんて……)
肩まで湯に沈みながら、思わずのほほんと息をついたハルカ。
厚く切り出した木の板を組み合わせた長方形の浴槽は足を延ばせるほど大きくはなかったが、それでも浸かっていれば身も心もさっぱりとしていくような気がする。
王女であるアリスのためにリディアやウォリスらが拵えたものらしいが、アリスがヘレナを救ってくれたお礼にと、湯を使うことを許してくれたのだ。そればかりか、自分が寝泊まりしている家に一緒にいるようにと言ってくれた。彼女がどれくらい偉い人間なのかハルカには想像もつかなかったが、それでも周囲から「王女」とたてられている人物である。自分の服や風呂を貸してくれるというのは、よほど破格の好意なのだろうということだけはわかる。
陽は落ち、すっかり夜の帳が下りている。辺りはどこまでも青い闇に包まれていた。
見上げれば、満天の星空。
こりゃひどく贅沢な露天風呂だわ、とハルカは可笑しくなった。
それにしても、とふと思った。この世界にも昼夜があって星もあるというのが、不思議な気がしてしまう。
スマホも自動車も高層ビルもない(多分のはなし、だが)が、人や自然の営みはかつて自分が暮らしてきた世界のそれと変わりがないのだから。
この世界がどういうところなのか、ここにいる人々がどういう境遇におかれているのか、ハルカは大まかに知ることができた。夕食の席上、アリスが詳しく話して聞かせてくれたのである。
彼女から夕食に招かれたとき、一瞬何を言われているのかわからなかった。
一国の姫君と一緒に晩ごはん!?
あたし、ナイフとフォークでご飯食べるお店とか行ったことないし! ファミレス以外……。
最初、ハルカは恐縮のあまり遠慮した。
が、まあまあというようにヘレナが
「ハルカ様。姫様はあなた様がいらっしゃってくださったことを、ことのほかお喜びなのですよ。宮廷晩餐のようなあらたまった席ではありませんから、どうぞお気を楽に」
そう言ってくれたのだ。
アリスはハルカが緊張しないように気を遣ったのか、給仕をするヘレナ以外誰も室内に入れなかった。あの忠実な護衛者リディアも傍にいない。
食事はパンのようなものにスープのようなもの、それに野菜のようなもの。
こっちの世界の料理名など知らないから、ハルカにしてみれば「のようなもの」と言うしかない。
王女の食事にしては質素すぎるような気もしたが、現在彼女は流浪の身であると聞いて納得がいった。
なぜアリスが国を追われこうした辺境の地に留まることを余儀なくされているのか。
――話は昔にさかのぼる。
メスティア王国は百年近くにわたって続く大国であり、その繁栄ぶりは比類をみなかった。
版図すればバルデシア大陸中央から東の一帯、実に広大な領土を有し、しかも大地は肥沃。代々国王が善政を布いていたことも相まって、貴族から下々の農民にいたるまで暮らしむきは豊かであった。
メスティアの反対側、バルデシア大陸西側には人間とは異なる種族がいる。
一見人間と違わぬ容姿をしているものの、耳の先が尖り体格は細くしなやか、褐色や青灰色といった色の肌をもっており、彼等は一様に「魔族」と呼ばれていた。骨格が華奢なだけに人間よりも屈強さにおいて劣る反面、運動能力では勝っている。ただし、稀に人間を上回る巨大な体格を持つ者もいるという。
メスティア王国建国よりもさらに昔、魔族と人間との間で大きな争いが起きた。豊潤な大陸中央部をめぐって奪い合いとなり、それが種族間対立に発展したのである。
十年以上にわたって続いたその戦いは人間側が勝利した。肉体の強靭さで及ばない魔族は、長年の戦いに耐えられなかったのだ。
敗れ去った魔族の人々は、土地のやせた大陸西側へと追われた。
同時に人間達は豊かな土地を手に入れ繁栄の一途を辿ったが、今度は人間同士で争いを始めるようになった。
巧みにこの騒乱を収めつつ着々と版図を広げ、巨大な王国を築いたのが初代メスティア国王ラウル。アリスの父カンタスは第六代国王である。
心の広い彼は人間から百年以上も迫害されている魔族の人々を哀れに思い、何とかして和解できないものかと考えていた。
苦労しながらも何年にもわたって努力を続けた甲斐があり、少しづつではあったがカンタスの温情に共感する魔族があらわれ始め、いずれは魔族と人間との共存も夢ではないと思われた。
ところが。
突如として大陸北西部でガルザッグなる国家が勃興し、周辺の魔族を糾合して瞬く間に巨大な勢力となった。ガルザッグ王ディノは自らを魔族の王、すなわち「魔王」と称し、人間への復讐をとなえて魔族の人々の圧倒的支持を得たのだという。
魔王ディノは大軍を擁してメスティア領へと侵攻を開始、国王カンタスのいるメスティア市へと迫った。今から十年前、アリスが六歳になった頃である。
勇敢なメスティア軍精鋭はこれを迎撃し、一進一退の攻防が繰り広げられた。
戦況に不利はなく、このまま押し切ればあるいは撃退も可であると思われたその時。伏兵は思わぬ場所に現れた。
カンタスの側近であった大臣グリーゼフがガルザッグと内通していたのである。
彼は周到にも友好関係にあった周辺諸国内部にも内通者をつくり、これらをして一斉に蜂起せしめたからたまらない。メスティアは四方に敵を受ける羽目になったばかりか、グリーゼフの策略と煽動によって反旗を翻した一部の兵が手薄になっていた城下を制圧、あちこちで殺戮の限りを尽くした。
反乱兵を城内に引き入れることに成功したグリーゼフはカンタスの側近達を次々と殺害、ついにカンタスとアリスの母である王妃アネットを捕らえ、ガルザッグ軍に引き渡した。王城を落とされたメスティア軍は一気に崩れて敗走、戦いの勝敗は決定的となった。
メスティア本拠アリファトス城大広間の玉座に魔王ディノが腰を下ろしたその日、カンタスとアネットは大勢のガルザッグ軍、そしてメスティアの人々の眼前で処刑された。カンタスは二十八歳、アネットは二十五歳という若さだった。
メスティア王国は滅亡したかに思われたが、カンタスは囚われの身となる直前、信頼していたごく一部の臣下に命じてまだ幼いアリスをメスティア市から脱出させていた。
そうと気付いたディノはすぐに追っ手を差し向け、アリスを亡き者にしようとした。
このフィルフォード家最後の血筋をガルザッグから匿い守ったのが、北方のケントなる集落である。
国ではない。
長の名をガング・ファーレンといい、彼を中心に数百人の人々が寄り添いあって暮らす、ほとんど村のようなものであった。
ただし、ただの村ではない。
カンタスの温情によって迫害を逃れた魔族、あるいは人間と魔族の混血が集まっており、彼の理想をもっともよく理解している人々といっていい。当然誰もがガルザッグの所業を快く思っておらず、メスティア王国の崩壊を耳にしてひどく心を痛めていた。ゆえに、逃れてきたアリス一行を迎え入れたのだ。
危険は承知の上である。
が、彼等の多くは魔導を心得ており、その精妙さはずば抜けていた。ガルザッグ軍は何度も兵を差し向けてきたものの、並みの雑兵が寄せてきたところで相手ではなかった。ケントの人々に守られながら、アリスはここで数年を過ごすことになる。
しかしながら、その平穏が破られたのがつい一昨年のこと。
ガルザッグは陣容を拡大した魔導兵団をもって攻め寄せ、その圧倒的な力の前にさしものケントも壊滅した。
危機を予感したガングはアリスやリディア達メスティアの生き残りを大陸の東岸から海向こうへと逃がし、僅かな人数をもってガルザッグ魔導兵団へ戦いを挑んでいった。自分達を守ってくれたカンタスへの、最後の恩返しというわけであろう。それきり、どうなったかはわからない。
キーゼ、ロバルドと島々を経て版図では最東端に位置するアルセス島へ辿り着いたアリス一行。
彼女達はこの島を治めるアルセス国王によって歓待された。
ところが程なく、彼に仕えていた将軍ダムがガルザッグに寝返りを打ち、国王以下側近達を捕らえて投獄してしまった。実権を握ったダムはドボス国を名乗り、島中に圧政を布き始めた。
やむなくアリスらはアルセスの街を脱出、最果てのアルセア村へと逃れてきた。
「――と、いう次第です。すべては百年以上前のバルデシア大戦に端を発しているのです」
長い物語をそう締め括ったアリス。
ただ、こうも付け加えた。
「国を奪われ、愛する父と母を無残に殺されたことは絶対に許せません。この命に代えても、魔王ディノを討ちたいと願っていますし、この口惜しさを忘れた日は一日たりともありません。――ただ」
浮かべた笑みに、どこか悲しみの色を湛えている。
「だからといって、あらゆる魔族を憎んでいるわけでもないのです。ガング様をはじめとするケントの人々は魔族でありながら、ご自分の命を懸けて私を守ってくださいました。もし、できるものなら、心ある魔族の人達と手を取りあっていきたいという気持ちもあります」
彼女が経てきた壮絶な苦労のなにもかもが一気に目の前に押し寄せてきたような気がする。
ハルカはやりきれない気持ちになったが、どういう言葉も口には出せなかった。
殺し合いのない平和な世界に生きてきた自分には、感想すら軽々しく述べてはいけないように思えたのだ。
もしも、自分の大切な人が大勢の目の前で殺されたりしたら――考えただけで、背筋が冷たくなる。
それもさることながら、アリスの苦労は今も続いている。
うかうかしていれば、今度は彼女が両親と同じように、理不尽に命を奪われなければならなくなる。
(大変なところに来ちゃったんだなぁ……)
日々気持ちが休まる暇がないであろうアリスの心労を思うと、すごくいたたまれない。
何か、力になれることがあれば、とは思う。
けれども今は、自分がどういう経緯でどういうことになっているのかすら、理解できていないではないか。
(あたし、どうすればいいんだろ? つかあたし、本当に生きているのかな? 本当は死んでるとかじゃないのかな? ウォリスさんの話を聞いて納得しちゃったりしたけど、さ)
ざぶっと鼻まで湯に潜った。
眼前に広がる闇を眺めながら、ぼんやりと考え込んでいるハルカ。
と、アリスから聞いた話を思い出しているうち、脳裏に一つの仮説が浮かんできた。
(もしかして、これって――転移ってやつ!?)
現実世界――かつていた世界を、ハルカはそう呼ぶことにした――では、ゲームやアニメの題材になるだけの、架空の概念でしかなかった。もちろん、そういうことが本当にあるなどと考えたことはないし、自分以外の人間のほとんどもそのように思っているに違いない。
ただし、それというのは確かめる術がなくて多くの人が気付かないだけであって、実は誰にも知られることなくひっそりと存在していたのかもしれない。そんな気がしてきた。
(転移かぁ……。だったら、わかるかも。死んだんじゃなくって、別の世界に行っちゃうってことだもんね)
そうである保証はないが、そうでないという保証もない。
転移してきたというのであれば――今度は、こっちの世界で何とかして生きていかねばならない。
正直、寂しくもあり、心細くもある。
生活習慣がまったく違うばかりか、一人たりとも知り合いがいない世界。
そのうえ、現在――戦乱。うかうかしていれば、今度こそ本当に命を落としかねない。あるいは敵に捕まれば陵辱ものエロゲヒロインにされてしまうこと請け合いである。さんざん陵辱、拷問された挙げ句公開処刑――想像するだに背筋が凍り付く。
ただ、今のハルカは普通の女子高校生だったハルカではない。
信じがたいほどに驚異的な――この世界の人々からすれば――力を身につけている。
一足飛びで川をも飛び越えるほどの跳躍力、体当たりで屈強な兵士を数人遠くへ吹っ飛ばし重厚な長剣を軽々と振り回すことができるほどの力。そして、相手の動きを見切ることができる感覚。げんにそれらの能力を活かして三十人もの兵士の一団を撃退してしまった。もっとも手練れと思われた隊長風な兵士ですら、彼女が剣を一振りしただけで大空に弧を描いてはるか彼方へと消えていった。たまたま剣の峰で叩いたからいいものの、刃が当たれば大根でも切るように真っ二つにしていただろう。斬殺していたら、と思うとぞっとしなくもない。
最初は「あたし、人を殺しちゃった……?」と青くなったが、相手はどうやら人間ではないということで、少しは気が楽になった。魔族は人間に近いといえど、人間よりも多種多様らしい。魔王ディノのように高度な知能を持つ者もいれば、言語もろくに解さない野獣同然の者も少なくないという。そういう魔族は下っ端の兵士にされるのがもっぱらだという話であった。
それはともかく、この異常なまでの身体能力。
なぜそうなった、と訊かれても上手く答えることはできないけれども、転移というセンで考えれば、多少うやむやではあるが説明がつきそうに思える。
転移したことによって、現実世界では身につけ得なかった強力な能力が、何らかの拍子に具わってしまったそれ以外に、この不可思議な力を得てしまった理由がつけられない。
もしくは、物理的法則の何か。
何かとは何だと質問されても困るが、そう考えてもいい現象はある。
こっちの世界に来て以来、妙に身体が軽い。
それに、手にする物がどれも軽い、というより重さがないように感じてしまう。たぶん、今なら長身のウォリスや巨漢ベックですら、楽々とお姫様抱っこできるだろう。
だけどなぁ、とハルカは思う。
(重い物を持ち上げているところとか、見られたくないよね。女の子なのに馬鹿力だなんて知られたら、みんなにドン引きされるに決まってるわ。ヘレナさんは黙っててくれてるみたいだからいいけど……)
思考が別な方向へずれてきた。
ぼんやり独り考えにふけっていると
「ハルカ様、湯加減はいかがでしょうか?」
その、ヘレナがやってきた。
一瞬で我に返ったハルカは
「あ、あの、結構なお湯加減でございます! ど、どうか、お気遣いなく!」
慌てるあまりぎこちない返答をしてしまった。
湯がさぶっと大きく揺れ、木槽の縁に当たって跳ねた。
すると、ヘレナはくすくすと笑って
「あまり、お気を遣いませんように。姫様もさることながら私自身、ハルカ様には感謝しても感謝しきれませなんだ。もしあのときハルカ様が飛び込んできてくださらなければ、今頃私の命はなかったのですから」
アリスはガルザッグやそれに従う国の者達がいかに残虐であるかを語ってくれたが、確かにそうだと頷ける。
ドボス兵は無抵抗のヘレナに、当然のように斬りかかったのだ。
ヘレナが言う通り、あの場で間に割って入らなかったら彼女は帰らぬ人になっていた。
とはいえ、助けたこと自体はもう、ハルカは半分忘れかけていた。
つくった貸しをいつまでも覚えているような彼女ではなかった。実際、友人達に貸した金ですら忘れているのが多い。いつ自分が借りをつくることになるかも知れないのだから、貸しなどは返してもらわずともよい、という哲学びた考え方がハルカの中にはある。
湯の中に肩まで沈みながら、話題を変えるように
「ヘレナさんは王女様に仕えて長いんですか?」
尋ねてから、我ながらアホな質問をしてしまったと後悔したハルカ。
まるでヘレナが歳をくっていると言わんばかりの訊き方ではないか。
が、彼女はそのようには受け取らなかったらしく、ごく朗らかな調子で
「ええ、姫様がお生まれになった年に王宮に上がりました。その時からお仕えしていますから、かれこれ十六年になりますでしょうか」
うわ、ほぼ私の人生そのものだ。
ハルカは内心で変な驚き方をしている。
「はじめは王宮内の雑用を何でもする、普通の侍女でした。それがたまたま王妃様、って亡くなられたアネット王妃ですが、私の働きぶりを見てぜひ姫様のお傍に、と仰ってくださったのです」
つと、遠い目をして星空を見上げたヘレナ。
「もし王妃様がお目にかけてくださらなかったら、アリファトス城が陥落したときに私も殺されていたでしょう。姫様をお連れして脱出するように仰せつかったのが護衛役リディア様と、私だったのです。姫様は、国王様と王妃様のお傍にどうしても残る、と仰って……あのときの姫様の悲しげな叫び声が、今も耳の奥から離れませなんだ」
声のトーンがぐっと低くなった。
思い出したくもない辛い記憶なのであろう。
かける言葉が見つからないハルカ、黙って湯の揺れる様を見つめている。
と、背を向けていたヘレナが急にくるりと振り向いた。
「でも、今日は本当に嬉しゅうございました! ハルカ様がご自分の身の危険も顧みず、私のような者を救ってくださったのですから!」
穏和そうな相好を、嬉しげにほころばせた。
「ハルカ様の勇敢なお姿に、私も勇気づけられました! ここへいらっしゃった事情は私もまだよく理解しておりませんが、もしよろしければいつまでもいらっしゃってくださいまし! 私、全力でお世話させていただきますから!」
そう言われると嬉しくなくはないのだが――。
その勇敢な姿がスッポンポンだったかと思うと、赤面せざるを得ない。
逃げ帰ったドボス兵の連中、お偉いさんには何と報告したのだろう。
「あ、ど、どうも、ありがとうございます。わ、私も、その、頑張りま……」
と言いかけたとき、突然向こう側の闇が赤く染まった。
大勢の人間が騒ぐ気配がする。
何事だろうと思っていると、ヘレナが
「……これはいけません。恐らく、ドボス兵が攻め寄せてきたのですわ。この村のすぐ傍の森に火をかけられたようです」
説明してくれた。
そちらの方角を見ているその表情が険しくなっている。
「この村が、戦場に……?」
ハルカの呟きにヘレナは頷き
「ベック様やウォリス様が迎え撃ちにお出でになることでしょう。勇猛だったメスティアの騎士達もごく僅かな人数になってしまいましたが、それでも姫様をここまでお守りした精鋭です。ガルザッグの手先であるドボスなんかに負けはしません」
そっか、ウォリスさん達、これから戦いに行くのか。
何気なく思ってからハッとなった。
他人ごとではない。
もしもドボス兵が村の中まで侵入してくるようなことになれば、メスティア側は完全に窮地に立たされる。アルセア村が滅ぼされれば、もはや落ち延びるべき場所はないのだ。
それは同時に、ハルカ自身の居場所がなくなることをも意味する。
居ても立っても居られなくなったハルカは、ざばっと湯から飛び出し
「あ、あたしも行きます! 皆さんが命をかけて戦っているときに、のんびり風呂に入っている場合じゃないですから!」
そう告げた。
するとヘレナ、意外にもゆったりと頷いて見せて
「それは承知いたしました。ハルカ様がお強いことは誰よりも私がよく存じておりますから、強いてお止めいたしません。――ですが、ハルカ様」
綺麗に折りたたまれた身体拭きの布を差し出した。
「まずは、お召し物を。うら若き乙女が裸で戦場へお出でになるおつもりですか?」
そうだった。
自分の迂闊さが恥ずかしくなり、暗闇の中で顔を赤くしているハルカ。
危うく、ただの変態になるところだったではないか。