②深夜の群像劇
少女を拾ってから数十分間、歩き続け、家へと着いた俺は、とりあえず少女をリビングのソファに横にさせた。
「あ~、やっと終わったー」
俺は達成感とともにリビングの床にへたり込む。時計を見ると、まだ24時は回ってなかった。
「いやー、今日は誰もいなくてよかったな」
俺は、大学が近く通いやすいため、実家で暮らしている。元々は俺と父、母、姉、妹の5人で暮らしていたが、父と母は仕事で海外を飛び回っているので滅多に帰ってこない。また、姉は仕事上の関係で一人暮らしを始めたので、現在、この家では俺と妹の2人で暮らしている。
おまけに今日は妹がいない日だ。騒がしくなることもないので、俺は少しホッとした。
なんか、色々終わったら、腰がまた痛くなってきたな...。湿布でも貼るか。
俺は重い&痛い腰を上げ、リビングの端にある棚に向かい、一番下の棚から湿布の袋を取った。
あー、痛い痛い。とっとと、湿布貼っちゃおう。
そう思った俺は、上着を脱ぎ、湿布に手をかけた。
「うーん」
あれ、何か今、うなり声がしたぞ。
俺は、少女へと視線を向ける。
すると、少女はむくっと上体を起こし、両目をこすって、ひとつ大きな伸びをした。それから、辺りを見渡している。
「おー、目が覚めたか」
俺が声をかけると、少女は俺の方を見た。
少女は、一瞬、ボーっとしていたが、すぐに顔が赤くなり、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
と叫ぶと同時に、テーブルの上にあったリモコンを投げつけてきやがった!!
「うおっ!危ねぇ!!」
言うと同時によけたが、少女は手あたり次第投げているのであろう、次に投げられたブルーレイのリモコンがおでこにぶち当たった。
疲労と体力の限界だったらしく、視界がぼやける。
今日は、とことんついてねぇ...。
俺は本日2度目の気を失った。
あれ、今何時だ?
俺は目を覚まし、時計を見ると深夜の2時を回っていた。
頭がものすごく痛ぇ...。何で俺、気を失ってたんだっけ...。
気を失っている理由を考えていると、
「あ、目が覚めました?」
声がして、声の主を見るや、俺の記憶が覚醒して飛び起きる。
「あ、お前!!」
「それについては、申し訳なかったです。取り乱してしまって...」
そう、こいつが張本人だ。いろんなもの投げまくりやがって。
見た目は少女だけど、ここはしっかり言わないとな。
「なんで、物を投げたんだ」
と言うと、少女は顔を赤らめて、
「だって、起きたら上半身裸でしたので...」
と恥ずかしそうに言った。
俺は自分の姿を確認すると、確かに上半身裸のままだった。
「あー、ごめん。それは気が付かなった。でも、俺も腰に湿布が貼りたかっただけなんだ。なんか申し訳ない。」
俺は、素直に謝罪をすると、少女は、
「あ、そうだったのですか、こちらこそ、勘違いで申し訳ありませんでした。」
と謝罪をした。
なんだろう、何か違和感を感じる。
俺は、変な違和感を感じ、考え込んでいると、
「すいません、上着を着てくれませんか?」
と、少女から恥ずかしそうに言われたので、とりあえず俺は、上着を着なおした。
気まずい空気が流れる。
そういえば、自己紹介してなかったな。何気なく言葉も通じてるし、大丈夫かな?
俺は、自己紹介とここまで連れてくるまでの経緯を説明した。相手も経緯を聞いて納得してくれたようだ。
ホッ、とりあえずちゃんと釈明出来てよかった。これで、「変態」と思われずに済むかも...。
俺が安心していると、
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。助けてくださり、ありがとうございました。」
と少女は言い、深々と頭を下げた。
礼儀いいな、この子。最初にものを投げられたのが嘘みたいだな。
と俺は思いつつ、「そんなに頭下げなくていいよ」と言っていると--
---ガシャアァァァァン!!!
いきなりリビングの大窓が割れた。
あまりのことに俺は茫然としていると、少女が「逃げて下さい!!」と叫んだ。
窓を割ったのは、全身黒色でドロドロとしたものが流れているような人型の物体だった。
少女は、いつの間にかステッキみたいな棒を持ち、外に出て、『異形な生物』と対峙していた。
おい!大丈夫かよ!?
俺は、我に返り、後に続く形で外に出る。
少女は、ステッキを顔の前に掲げ、唱え始めた。彼女の足元に魔法陣が浮かび上がる。
何だ!?何する気だ!?こいつ!?
「火よ、火よ、眼前の異形を焼き払いたまえ、《豪火砲》!!」
唱え終わると同時に、ステッキを相手に向ける。
相手は動いてない。多分当たるぞ、これ!いいぞ!倒せ!
ポッ
あれー??
ステッキから出てきたのは、一言でいえば、火の玉。それも、すぐに消えそうなやつ。
なんか優しそうな火だなー。心まであったまるなー。
---じゃねぇよ!!
何だよあれ!!あれじゃ、どうにもならんだろ!!つーか、撃った張本人がめちゃくちゃ動揺してる!!
少女はものすごい量の冷や汗をかき、顔が引きつっていた。
『異形な生物』は、しびれを切らしたのか、左右の腕みたいな部位をこちらに向け、ヘドロみたいなものを発射した。
「危なっ!!」
俺がよけると、足元に生えていた草が溶けた。
え?これマジでヤバい奴じゃね?
「おい!逃げるぞ!」
少女に声をかけるが、少女は固まったまま動けない。
1発目は少女の横を通り過ぎたものの、このままじゃ2発目は確実に当たる。
とか思っている間に、2発目が発射された。
「ッ!!ちくしょう!!」
考えている暇はない!やるしかない!
俺は少女にヘドロが当たる前に、身を挺して彼女を守ることになった。抱くような体勢になり、背中にヘドロが当たる。俺は痛みを覚悟し、歯を食いしばる。
ん?あれ?痛みがやってこないぞ?
すると、少女が、
「あの生物、建物を壊したり、植物などは溶かせるんですけど、人体には特に問題ないですよ」
と言った。
え?何だって?こいつの攻撃、大したことないの?
そのことを聞いて、俺は安堵ともに、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「ほう。ならあいつを殴り飛ばせるっていうことでいいんだよな?」
俺は、指を鳴らし始める。少女はちょっと怯えつつ、こくこくと頷いた。
俺は、『対象』に向かって歩き始める。
「昨日、全然いいことなくてさ、ちょっとイライラしてたんだよね」
『対象』が身の危険を感じたのか、後ずさりしていく。
俺は『対象』に向かって、歩き続ける。
「なんかスカッとするものないかなー?って思ってたんだよ。てか、ちょうどいいところにいるじゃん。」
『対象』は後ずさりするも、塀があって、もう下がれない。
俺はそれを確認し、助走をつけて、
「くたばれ」
ぶん殴った。
---グシャッッッ!!
『対象』、もとい『異形な生物』は泥がぶちまかれたかの飛び散った。
対照的に俺は、一つ伸びをして、
「あぁー、スッッッキリした!!」
と言い、少女に向かって、Vサインをかましてやった。
少女はそれを見るなり、へたり込んで、「あ、悪魔だ...」とつぶやいた。