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本日も狩り日和  作者: 1000
第三章 魔法と冒険者
9/28

01

メリルの家から一番近い冒険者ギルドがあるのは、ラトガー村から馬車で半刻ほど走ったところにあるザルツの町だ。


次の日の朝。

縫製作業を休みにしたメリルとマリカは乗り合い馬車に乗って、ザルツに向かっていた。





6人乗りの馬車は村を抜けて、草原に伸びている田舎道を走っていく。

メリルとマリカの他は、ミードさんの従姉妹で農婦をしているおばさんと農産物組合の会合に行くというおじさん達3人。

皆大荷物を持ってきているから、馬車はいっぱいになっていた。

ちなみに乗り合い馬車に乗っているラトガー村の男性3人と馬車を操る御者さんは、メリルと同じデザインの服を着ています。

服自体はシンプルで丈夫で動きやすくて着心地がいいから、年配の男性には愛用者が多いらしい。

でもみんなお揃い色違いの服ってのは、マリカに少し。

いや、かなり抵抗がある。


「マリカちゃん、疲れてないか?」

「ありがとうございます、大文夫です」


着ている服はともかくとして、天候不良で別の街から働きに来たメリルの遠い親戚、という設定にしているからか、ラトガー村の人達は皆人懐っこくて親切だ。

服を縫いながらメリルの家の周りをすこしづつ散策しはじめてわかったが、ラトガー村の人々はほとんどが農家を営んでいるらしい。

耕運機やトラクターなどの機械はこの世界にはなく、電気もガスも通ってはいないけれど、ここでの人々は魔動具を利用して生活している。

村には学校がない。

だから子供が6歳になったらザルツにある学校へと馬車で通い、12歳になるとさらに都会にあるそれぞれの進路別の学校に進むので、昼間のラトガー村には子供がほぼいない。

学校を卒業しても若者も働く場所を求めて村の外へと出稼ぎに行っていることが多い。

魔力を持っている人は少ないからさらに将来の選択肢も増えるようだ。

大抵は王都に行ってしまうらしい。

だから村に残っている数少ない若者、そして数少ない魔力持ちとして、メリルはお父さんが亡くなった後も周囲の村の人々に我が子同然に可愛がられているようだ。


「メリルんとこのマリカちゃんだね。噂は聞いてるけど会えてよかったよ、さあさジャムをはさんだパンをお食べよ」

「メリルの仕事を手伝うんだってなあ。やっと俺も新しい服を新調できるかなあ」

「というか、メリルんちに住んでいるんだよなあ。ミードのケーキを切つてきたから、これもやるよ」

「メリルは大雑把だからなあ。二人でいったい何を食べてるか心配だったけど、ミードから話を聞いて安心したよ。今度うちの畑で取れた野菜を持っていくよ」


親切は親切なんだけど。

どうやらメリルの家に下宿することになったマリカを可哀想に思っているようで、すごく気をつかってくれているようです。

情報漏洩の出所はミードのおばさんか。

とはいえ村の雑貨屋さんであるミードさんで売っているケーキは果物の入ったパウンドケーキで、甘くて美味しいのだ。


「ありがとうございます、いただきます!」


ざっくりと大きめに切ったリンゴ入りのミードさんのパウンドケーキは予想通り甘くてとても美味しい。

ただ上にたっぷりかかっているアイシングは甘すぎるかなと思いながらメリルを見ると、ケーキを食べながらも少し不満顔だ。


「マリカちゃんは料理好きで良かったなあ、メリル!」

「ミードさんちで買った調味料と食材を活用しているとしたら、たいしたもんだよ」

「石盤焼き以外の料理も食べることが出来てよかったねえ」

「失礼だなあ。今まで私一人で暮らしてきたときでも、きちんと食事はしてきたんだからね」

「メリルんちの食事って石盤焼き以外だったら、酒だろう」

「ぐぐぐっ」


メリルを除いた皆が一斉に笑い出す。

メリルの懐事情から台所事情までが村人達にぜ一んぶダダ漏れなのが気に入らないようだ。

どこの田舎でも同じなんだなとマリカは思った。





村の人達となごやかに話している間に馬車は町の中心部に入っていき、二階建ての木造建物の前で止まった。


「着いた!」


一番に馬車から降り立ったメリルは、思い切り背伸びをして息を吸い込む。


「あ―あ。座り続けていると、手足が固まってしまったようながするわ」 ‐

「馬車意外と乗り心地のいい椅子だったけど、長かったからね」


続いて降りたマリカも、メリルに同意する。


「でも、ここがザルツの街なの?」


周囲をぐるりと見回すと、こじんまりした町が一目で見渡せた。


「ああ。この後ろの建物はザルツ町役場だ。定期馬車の発着場と郵便局を兼ねている」

「ここがザルツか。雰囲気的には村に一件の雑貨屋さんしかないラトガー村とあんまり変わらないみたいだけど」


ザルツはこの辺りの村の中心になる町だと聞いていたから、建物が立ち並んでいる石造りの中世の町並みを連想していたのに、町役場の周囲にの光景は農村であるラトガー村とそれほど変わらない光景だ。

平屋か二階建てしかない建物と建物の間に畑や草原が広がっている。


「たしかにザルツの雑貨屋は3軒しかないけどさ。なんといってもザルツはギルドの支店がある町だよ。酒場は二軒、宿屋は5,6軒、他に鍛冶屋と馬屋があるし、町役場だってある」

「それはそうかもしれないけど。もう少し店が並んでいるかと思っていた」


少しがっかりしたことを正直にメリルに告げると、


「マリカが言うような商会が軒を連ねているような街というのは、王都に期待するしかないな。ザルツの町から長距離馬車に乗り換えて三日かかるんだよ」

「メリルは王都には行ったことがあるの?」

「ああ。エリオットの店に納品に行くために、親父に付いて何度か行ったよ。城壁から石造りの高い建物がずらりと並んでいて、同じ建物ばかりが延々と続いていて迷子になりそうだった。王都にはバーンズ商会のような大店も店を出していて、食料品から身に着けるものに至るまで手に入らないものはないって言われている」


この世界でウインドウショッピングを楽しむには、王都まで行かなきゃならないってことか。


「マリカは王都に行きたいのか?」

「いつか行ってはみたいかな。でもこの服装のままではね」


今日のマリカの服装は、メリルから借りたグレーのチュニックとパンツの上下セット。

ベルトを締めて調節してはいるけれど、元々のサイズが身体に合っていないから、かなり不恰好だ。

靴もメリルのものだから少し大きめだけど、黒の皮ひもでぎゅっと縛ったら歩くだけだったら十分になったけれど、都会に行く時はもうすこしいい服を着て素敵な靴を履いていたいな。


「王都にはめずらしい酒もあるし、いつかマリカが行く時に一緒に遊びに行ってもいいな」


ただ王都までは馬車を乗り継いで3日以上かかるらしいから、すぐに遊びに行くというわけにはいかないだろう。


「だがザルツの町だって悪くはないよ。毎月1日と10日の定期市が並ぶときは、ここもそこそこにぎやかになるよ」


この広場いっぱいに屋台が立ち並ぶんだよと、メリルは目の前の広場を指差した。


「市場か、それも楽しそうだね」

「だったら、来週また来よう。今日のところはギルドで用事を済ませよう」







ザルツの町の冒険者ギルドは、町の中心地から歩いて5分のところにある。

木造2階建ての建物だというのに、中に入ると表向きから想像していた以上に広いフロアになっている。


この国の冒険者ギルドに登録するには二つの条件がある。


魔力測定をして一定の魔力があると認められた者。

ギルド職員による試験を受けて通った者。


「ようこそ冒険者ギルドヘ」


遠縁のメリルからの紹介ということでギルド受付の奥にある会議室のような部屋で魔力測定をして、無事にマリカはギルドの一員に迎えられた。


「マリカだったら余裕だと思っていたよ。じゃあ私は用事があるから、お昼前にここに戻ってくるよ」と言ってメリルは用事を片付けるために部屋を離れ、残ったのはマリカと測定をしてくれたギルド職員の女性だった。

ギルド職員のシルビアさんは、年は20代後半ぐらいの水色の髪の持ち主だ。

透き通ったまっすぐな長い髪にリゾートウエアのような自のシンプルなワンピース姿。

神秘的な雰囲気を漂わせていて、まるでこの世のものとは思えないくらい美しい水の妖精だ。


「マリカさんはザルツの街ははじめてですよね。これからギルドについて簡単な説明をさせていただきますね」


彼女が数枚の書類を手にしながらきびきびと話し始めると、不思議なことに妖精のイメージが瞬く間に消えた。

いまでは大学の受付にいる仕事のできるインテリ女性というような雰囲気だ。

あっ、メガネをかけたら似合いそう。

もしシルビアさんと仲良くなれたら伊達メガネにスーツを勧めてみたいな。

そのときはぜひ白スーツ、襟元はノーカラーでウエストをきゅっと絞ったショートジャケット、スカートはペンシルタイトだな。

ジャケットのインナーは髪の色と同じブルーが似合うだろうな。

そんな姿を思い描きながら、マリカはシルビアさんに礼をする。


「よろしくお願いします」

「わかりました」


シルビアさんは書類を揃えながらてきぱきと説明し始めた。


「冒険者ギルドは、魔力を用いて国土を発展させていく冒険者を支援するために、今から100年以上前に設立されました。本部は王都にあり、各地に支部が開設されています。そしてこちらのザルツ支部では、ザルツ周辺を拠点に活動する冒険者のために様々なお手伝いをしています。主な業務としては依頼主から依頼を受け、冒険者の仕事を斡旋する仲介業務であり、それに付随して冒険者から魔物や魔石の買取りも行っています」


シルビアさんは依頼票の見本をテーブルに出してくれた。


「入口からの壁に貼ってあるのが冒険者向けの依頼票です。マリカさんもあとでご覧になって下さいね」と告げて、ギルドに関する説明を続けていく。


「冒険者はレベルに応じた依頼票を見て、依頼を受けることができます。またこれは冒険者に限りませんが、他の冒険者に依頼を出すこともできますよ」


それから依頼の受け方、納品のやり取り、ギルドにおける禁止事項などの説明を受けた。


「以上で冒険者登録は終了しました。マリカさんは冒険者レベルGからのスタートになります。依頼をこなしてギルドからの認定を受ければ、レベルを上げることができますので、頑張って下さい!」


シルビアさんは、直径30センチ以上はある大きくて丸い水品の珠に手をかざした。

水晶珠が光ったと同時に、シルビアさんの手にはキャッシュカードくらいの大きさの紫のカードがあらわれた。


「こちらがマリカさんのギルドカードになります」


シルビアさんは紫のカードを手渡してくれた。

魔法ってすごい。


「このギルドカードは冒険者としての身分証明証です。そしてギルドに保管されているお金の引き落としなども行えます。マリカさんの魔力証紋と合致しないと使用できないようになっていますので、他人が使用することは出来ません。でもカードの再発行は手数料がかかりますので、紛失に気をつけて下さいね」

「ありがとうございます」


マリカはきらきら光る薄いカードを上着の内ポケットにしまった。


「マリカさんの口座の現在の残金ですが、口座開設と同時にエリオット・バーンズさんから依頼がありました金額を振り込ませていただきました」


約束の金額がきっちり入金されていた。

さすがはエリオットさん、手回しがいい。


「今日は現金の引き出しをされますか?」

「今日のところは結構です」


まだ財布には現金がかなり残っている。


「それから、ギルドでは魔法スキルの講習を受けることもできます。王都や大きめの街のギルドでは剣技や体術などのチュートリアルを受けることもできますが、こちらザルツ支部では魔法講座のみとなっています」

「今日、その講座を受けることはできるのですか?」

「ええ、マリカさんにはぜひとも受講をお勧めしようと思っていたところです」


シルビアさんは手のひらを水晶にかざして確認してくれている。


「ちようど午後からのカイラール師のクラスが空いていますので、予約しておきましょうか?」

「よろしくお願いします」

「では今日のお昼過ぎに、受付の階段を上がった二階にお越し下さい」


講座代金として2000デューカ前払いして、シルビアさんとの面談は終わった。









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