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本日も狩り日和  作者: 1000
第三章 魔法と冒険者
10/28

02

ギルドの会議室を出て、建物一階のフロアに出る。


ギルドに到着した早々、シルビアさんとの面談のためにまっすぐ会議室に入ったから気がつかなかったけれど、フロアはずいぶんと広い。


「学校の体育館ぐらいはあるのかな」


入口から壁際に沿っては依頼票がずらっと張られている。

それから受付カウンター、会議室と順に配置されているようだ。

依頼票のある壁の反対側にはテーブルと椅子がいくつか置かれていて、さきほどよりも冒険者らしき人たちでポツポツ埋まっている。


「ここがギルドなんだ……」


フロアにいる冒険者達は服装も様々だ。

身体にぴたっと沿ったボディスーツを着ている人もいれば、大きなマントのような布でで全身を覆っている人もいる。

金属の鎧のようなものを全身身に纏っている人もいれば、半裸状態に布を巻いただけの人もいる。寒くないのかな。

あっ、ドレス姿の人もいる。まさかあれで狩りに行くのかな。


「この世界では一定の衣服の流行ってないのかなあ。想像していた以上に皆さんバラバラの服装をしているみたいだ」


冒険者の名の通り、武器を所持している者もいる。

剣を持つ人が多いが、弓矢を持つ人も刀もあるの?


「長物武器のギルド持込は禁止ってシルビアさんが言っていたけど、杖は武器に該当しないのかな」


マントを付けている人はたいてい杖を持っていて、中には自分の身長よりも長い杖を持っている人もいる。


「RPGゲームの中の光景みたい」


マリカ自身はあまリゲームはプレイしないけど、友人の春香が廃人スレスレだったので何度かゲーム画面を見たことはある。


「そういえばこの世界のスキルを上げて能力を高めていくやり方は、ゲームの中のキャラに似ているような気がするけれど、どういう仕組みだったんだろう?はっきりしたことは思い出せないなあ。春香の誘いを断らずに、もう少しゲームをプレイしていればよかったかなあ」


とりあえず今日の目的は情報収集。

メリルと待ち合わせしている時間にはまだ早かったから、冒険者向けに掲示されている依頼票をじっくり見てみることにした。




時間が昼前のせいか、依頼票を見ているのはマリカくらいだった。


「買い物の依頼、庭の整備、薬草採取」


メリル、早く来ないかな。

というのも、さきほどから妙に背中に突き刺さる視線を感じて、なんだか居心地が悪いのだ。

たぶん、フロアにいる人たちに遠巻きに観察されているようだ。

それも複数の人に。


「私の外見がおかしいってわけでもないよね」


服はメリルからの借り物だし、ラトガー村でもザルツの町でも髪は色とりどりだったから、特別この世界で黒髪が浮いているってわけもないだろう。

165センチというマリカの身長だって、この異世界でもさほど目立っているわけでもない。


「ギルドのフロアには男性が多いからかな。でも女性の姿だってポツポツ見かけたけどなあ」


ぱっと見た限りでは四、五人のグループに一人、二人、女の子はいるようだけど。


「やつぱり見慣れない新入りだから、どんな奴だろうって値踏みされているのかな」


せめて髪をストレートのままにせず、まとめるか帽子でもかぶってくればよかったな。

帽子。

洋服だけではなく、帽子も作りたいな。

この世界に毛糸ってあるのか、あとでメリルに確認しないと。

そんなことを考えながら、マリカは誰とも目を合わせずに壁際の依頼票だけに視線を合わせていた。


「荷物運びかぁ。冒険者というよりは町内の御用聞きだね」

「Gレベル向けの依頼票はそんなものだ」


後ろを振り向くと、すぐ後ろに痩せた背の高い黒マントの男が立っていた。


ええっ。


なんだか距離が近いんですけど。

それにこの人、どことなく気味が悪い。

こんなに近くに居るのに、近寄って来るまるで気配を感じなかったのはどういうわけだろう。


「お前、見慣れない顔だけど冒険者か?」


不躾な目つきでマリカの全身をじろじろ見ながら挨拶も自己紹介もなにもなく、いきなり乱暴な口調で問い詰めてくる。

マントに加えて肩までのばさばさの緑の髪が顔を覆っているから男の表情はあまり分からないけれど。

あまり関わりたくないタイプだ。

どうしよう。

マリカがとっさに返事に迷っていると。


「狩りがしたいなら、俺のパーティーに入ればいい」


いきなりの断定口調で言ってくる。


「初心者なので、まだ他の人と一緒に狩りに行けるレベルまで達してませんので」


遠まわしの言葉で断りながら、マリカはさりげなく後ずさり、無礼な男から距離を置こうとした。


「俺のパーティーなら初心者も受け入れているから、問題はないだろう」


どういうわけか男は薄笑いをしながら、さらに顔を近づけてくる。

問題なら大有ありだ。

察しのよくない男ははっきり言ってマリカは嫌いだ。


「いまからパーティーのメンバーに会うから、お前も来いよ」


いい加減、イライラしてきた。

マリカが嫌がっているのに気づいていないのか、不躾にもまた距離をつめてきている。

それともマリカの気持ちなんてどうでもいいと気にもとめていないのか。


「さっさと来いよ」


マントからすっと手が伸びて頬をかすめる。


気持ち悪いっ。


「結構です」


とっさに顔を背けて、男の手首を払い退けた。


バシッ。


男の手を叩き返した音が、フロアに大きく響いた。





気がつけば。


フロアがしんと静まり返っていた。


「お前、せっかく俺がじきじきにパーティーに誘ってやっているのに」


黒マントの男が怒りに頬を引きつらせて、睨みつけてくる。

怒らせてしまったかもしれない。

だからといって、嫌いなタイプにさわられるなんて言語同断だ。

謝りたくもない。


「私はパーティーに誘ってくださいと頼んでいませんから」


男を睨みつけながら、マリカがきつく言い返す。


面倒なことになったとマリカだってわかっていた。

女の子だからって、軽く見られるのは慣れているつもりだったけど、思いがけず異世界に来てしまって油断していたかな。

だけど。

とっさに周囲を見回したけれど、誰もマリカと目を合わそうとはしない。


助けは期待できない。

なんだか悔しい。

やっぱり。


「仕方ないか」


見知らぬ土地でこれからも危ない目に合いたくないし、こういう場合は先手必勝だ。

妥協なんてできない。

今後もギルドに通うことになるのなら、危険物指定してもらった方が都合がいいかもしれない。


だとしたら。


「……実力行使」


マリカがポケットに右手を入れたその時。


「そこらへんにしておけよ、ワッツ」


黒マントの男はハッと身を起こして振り返り、メリルを憎々しげに睨み付けている。


「メリル・ディータか」

「私の従姉妹は美人だから気持ちはわからないでもないけどさ。迂闊にちょっかい出すと怖い目に合うぞ」

「………こいつは、お前の従姉妹か」

「そう、だから手出しするなら私が相手になるよ」

「メリルっ!」

「でもマリカのことだから、あんたなんて3秒で地面に倒されるだろうけどね」


男の顔が歪んだ。


「お前は……、私ががこいつなんかに倒されるというのか、メリル?」

「ああ、確信している」


そしてメリルが男にぐいっと近づいて耳元で何かを囁いた瞬間。

なぜか男は一瞬だけ凍りついたようにその場から動かなくなった。


「今日のところは勘弁してやる」


次の瞬間。

男はくるっと方向転換して足早に建物の外へと去っていった。








フロアはしんと静まり返っていた。


「メリル?」

「無事解決で何よりだ」


メリルは笑いながら、マリカに向き直る。

というか、メリル。

あの男に何を言ったの?


「マリカも、その物騒な代物をギルドのフロアで振り回すなんてことは実行するなよ。ギルドでは冒険者同士の諍いは厳重に処罰されるからな。シルビアが説明してくれただろう?」

「でも先に手を出してきたのはあいつだから………」

「多少のゴタゴタは見逃してはもらえるなんてことは無理だぞ。ルールに引っかかると、問答無用で保安官に留置場に放り込まちまうぞ」

「そうか」

「だから、掴まる前にそれを止めた方が利口だぞ」

「いい方法だと思ったんだけどな」


マリカがそう言うと、メリルはニヤッと笑った。


「どうせなら、街の外でやりなさい。その時は私が機会を作ってあげるよ」と言ってきたので、この場は諦めることにした。


「わかった」


マリカはポケットの中でひそかに手に掛けていたスタンガンのスイッチを切った。



ああ、残念。












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