第一章 俺と七海
宜しくです。
1988年の夏。
中学の担任からは「やめておきなさい」と忠告を受けたにも
関わらず、背伸びして自分の分を超えた高校にチャレンジした結果、
まぐれで合格、入学してしまったのだが・・・しょせんはまぐれ。
高校一年の夏休みの初日を「補修授業」で迎えることになった僕は
教師の話もほとんど頭に入らず、教室の窓から見える夏の入道雲を
ただ何となく見つめてるだけだった。
「え~1年Ⅽ組の魚津蝶六君。今すぐ職員室まで来なさい‥…
繰り返す・・・・・」
校内放送で自分の名前を呼ばれたことに驚き、つい「えっ??」と
声に出してしまった僕は、補修の先生に「行ってよし!」との
命令を受け、面倒くさそうに教室を出て職員室に向かった。
どうやら家から電話がかかってきたようである。
学校に家から電話がかかってくるなんて今までの学校生活に
なかった出来事に少し動揺と不安を覚えながら受話器に出た。
「あ、蝶六!?七海ちゃんが大変なの!!今すぐ総合病院まで
来てちょうだい!!すぐよ、すぐ!!」
「・・・え?何かあったの??っておい!」
何があったのかを聞く前に電話を切ったその相手は
僕の母親の魚津華代(41)だった。
僕は電話の内容を先生に伝えると、なぜか先生も内容を知っている
みたいで、心なしか慌てている様子だった。
先生からの許可をもらって、自転車で市内の総合病院に向かっている
最中に、僕の心は内容も把握していないのになぜか恐れと不安、
そして焦りに襲われ、自転車のペダルを親の仇のように一生懸命に
踏み漕ぎながら「七海」のことを思いめぐらしていた。
七海は僕と同じ年の幼馴染である。
七海はうちの近所に住んでいて、今は父親と二人暮らしだ。
七海が中学一年の頃に両親が離婚をしてしまい、どちらの親と
暮らすのかを決めるとき、七海は母親ではなく父親を選んだ。
七海の両親は七海が一人っ子ということもあってか、
小さいころからとても可愛がっていて、二人とも七海のことを
引き取りかったらしいのだが、七海は父親を選んだ。
そのことで七海の母親はだいぶショックを受けたみたいだが、
七海が決めたことを尊重して、そのまま何も言わず父親に七海を
任せたのだった。そんな事情を知った僕は自分の母親に
「そんなに七海が可愛いと思うんなら、なんで離婚するかなっ!?」
と少し切れ気味に母親に尋ねたことがあったが、母親はそんな
僕を見て、ただほほ笑むだけで答えてはくれなかった。