恋と嘘とアンクレット
以前、あざと~さまにいただいたお題で、書いてみました・・・
比べられると、痛いですが・・・(つд⊂)
恋と嘘とアンクレット
オープンカフェで、フランス語の原文のままの詩集を開いて、わたしは彼を待っている。
のたうつ文字はまるで呪文のように、本を走っている。
アールグレイを置いていきざまに、ちらりと本を覗いた店員が、奥へ戻るなり口笛を吹く真似をした。
いつものことだから、わたしは気にもしない。
別に、原文が読めるわけじゃない。
でも、訳詞は全て頭に入っている。
女は嘘をつく
自分の体で
そう詠んだのは、フランスの詩人、ジャン・コクトー。
コクトーは、女という生き物を、実に良く熟知していたものだと思う。
男は、新たな恋を手に入れようとするとき、何をするだろうか?
何もしない。
ありのままの自分を受け入れてくれ・と唱えるだけ。
ひるがえって、女はどうだろう?
髪色を変える。
洋服のブランドを変える。
口紅の色を変える。
香水を変える。
枚挙にいとまない。
そう、女は嘘をつく。
今までの自分を塗り替えて、恋という言葉で自分に振り向かせる手管に、労力を惜しまない。
ふと、視線を上げると、待ち合わせていた彼が、こちらに走ってくるのが見えた。
椅子を引きながら座る男の視線が、組み上げた私の脚に集中した。
この脚?
・・・ふふ、そう、これはアンクレット
でもフェイクよ、ストッキングに編みこまれたストーンなの
そう、綺麗だね、好きなの?
ええ、だって、足首の細さが強調されて素敵じゃない?私、脚には自信があるの
それじゃ、本物をつけたらいいじゃないか
そうね・・・でも、ただのOLに本物なんて高価すぎるから、これが精一杯・・・
はにかんで、わたしは笑い、組んでいて脚を揃えてテーブルの下にひっこめる。
彼は、そう・・・と呟くと、映画にでも行かないか?と今日のデートメニューを提案してきた。
数日後
彼から、メールが入った。
次のデートのお誘いで、二人で逢い始めてからちょうど1ヶ月目の記念日だった。
待ち合わせ場所は、都内の一流ホテルの半地下にある、高級バーの個室に、夜10時。
指定された時間より早くわたしはバーに行って、彼を待つ。
静かにクラシックの生演奏を聞きながら、優雅にカクテルを口にする。
時間きっかりに彼は現れた。
待った?
いいえ、ぜんぜん、楽しんで待っていたから
そう?と呟く彼は、私の脚首に視線を落とした。
今日のも素敵だね
彼はそう言って微笑んだ。
わたしも微笑む。
だって、望んだ通りの展開になると、彼の言葉で先が読めてしまったから。
彼は、スーツの内ポケットに手を入れる。
出てきた掌の上には、真っ赤なリボンがかけられた、紺色のベルベットを巻いた小さな宝石箱。
開けてごらん
彼に促されるままに、宝石箱を手に取り、リボンをほどいた。
しゅるん・と音が鳴る。
ぱか・と、なんだか安っぽい音を上げて、宝石箱は開く。
中には、とあるブランドのプラチナ製アンクレットが眠っていた。
宝石は真っ赤なガーネット。
言葉もなく、じっと見つめていると、彼が横合いから顔を覗き込んできた。
気に入ってくれた?
わたしは頷く。
予想以上の成果だった。
わたしが無言でいるのを、感激してると受け取った彼は、宝石箱を私の手から奪い、しゃがみこんだ。
つけてあげるよ・・・
・・・でも、そのまえに・・・
この邪魔なものを、とってしまおうか・・・
彼の手が、わたしの内股からゆっくりと這い上がっていく。
その先の行為を見ていたのは、真っ赤なリボンと私が残したカクテルグラスの口紅の痕。
こうして彼は、わたしに恋をした。
でも
女は嘘をつく
自分の体で