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第三話 風雲時代の到来

バージが水夫として就職してから一年、アルティナ大陸では風雲の時代を予期させる様々な国家規模での動きがあった。


まず、大陸の南部を支配していたチュツカ帝国がフレイアス王国に宣戦を布告。布告とほぼ同時で電撃的に、大陸で最も難攻不落と言われていたベリーネ砦を陥落させた。これによって、フレイアス王国の広大な平野へ侵入。チュツカ帝国軍による大略奪が起こり、犠牲になったフレイア人は30万を超える大惨事となった。


その後、フレイアス王国の「ガーディアン」・「赤魔法士」を主体とした騎兵師団によって前線を押し返すものの、籠城に有利な武器である弓が得意な「ハンター」と「白魔法士」のクリスタルを持つチュツカ帝国が守るベリーネ砦の奪回は至難を極めた。砦が奪回できない以上、常に大規模な騎兵を平野を防衛するために配備せねばならぬフレイアス王国は戦略的な主導権を完全にチュツカ帝国に握られてしまったのである。


チュツカ帝国とフレイアス王国は、大陸中央やや南に位置するベリーネ砦を境に大体山脈で国境が別れている。とは言え、大陸中央部は熱帯地域である上に、進行が容易な箇所もところどころにあった。補給や馬での移動の事を考えなければ、侵略ルートは多数存在する。


どちらから侵略する場合も超えた後が問題であった。フレイアス王国側は平野が広がっているため騎兵が圧倒的に有利であり、かたやチュツカ帝国側は密林と沼地でフレイアス王国の騎兵にとって行軍が難しい地形であった。それぞれの軍の得意地形の差があったおかげで、それなりに拮抗した状況が保たれていたというのは過去の話しである。


ベリーネ砦の安全を確保したチュツカ帝国は、やや維持が困難と思われる位置でも国境近くのフレイアス王国の小規模な都市や村落を占拠していった。こうして、フレイアス王国の主力騎兵師団を西に東にと振り回した。略奪と重税で兵糧を稼ぎつつ、騎兵師団の分散と消耗を待ったのである。


開戦から8か月経過し、フレイアス王国の主力騎兵師団は、チュツカ帝国の思惑通り各地の防衛に分散していた。フレイアス王国軍部の一部の懸念の声もあったが、当然とばかりにベリーネ砦からチュツカ帝国の大群が押し寄せ、15万対8万という開戦以来大規模戦闘に発展。平野での野戦に強いフレイアス王国も数の暴力に敗れ、主力騎兵師団の4割を失った。


連日の連敗で士気はだだ下がり、容赦無い略奪を許し続けているため民衆からの支持も低下一方であった。戦場近くのフレイアス王国の村町は、略奪虐殺を恐れ、チュツカ帝国に降伏しているところもあった。降伏した村や町に対してはそれなりに寛容な姿勢であったため、補給線や連絡網が平野部にも南東を中心に構築されはじめ、チュツカ帝国が平野で占領した大都市を維持していくためのインフラが整いつつあった。


開戦初期から有利な停戦条件に漕ぎつけようとしてきたフレイアス王国であったが、無条件降伏も選択肢の一つとして一部囁かれ始めていた。



この1年、ヴェーデルラント共和国側にも大きな変化があった。


ヴェーデルラント共和国からチュツカ帝国へ交易するのは、国境付近の治安が不安定であった事と道が険しい事から、以前から海路が主流であった。ところが、ヴェーデルラント側からチュツカ帝国の輸出先に向かう海路に海賊が出没するようになった。チュツカ帝国領海内での被収奪報告が相次いだが、ヴェーデルラント共和国としては軍を他国の海域に出すわけには行かなかったのは当然である。しかし、多くの人の期待を裏切り、チュツカ帝国も一向に海賊を討伐する動きを見せなかった。


チュツカ帝国の商船は、海岸沿いの海路から国内のドリューガ半島の運河を利用する事ができたため、チュツカ帝国とヴェーデルラント間の交易はチュツカ帝国の商船にほぼ独占されるという事態に陥った。


ヴェーデルラントの諸商会も黙ってはおらず、交易組合により海賊討伐の艦隊が組織された。ところが海賊と遭遇した直後で全艦から謎の出火があり、まともに交戦も出来ないうちに戦闘不能な状態に陥り、一隻づつ撃沈されていった。8隻670人で出航し、生き残りは三名の水夫のみという有様であった。


この一連の事件はヴェーデルラントの経済に大打撃を与えた。当然、元老院でも国家間の交渉に尽力したが、運河の利用も許可されず、海賊討伐も確約させる事は出来なかった。


チュツカ帝国がフレイアス王国との戦争において圧倒的な戦果を上げている事から危機感が募りはじめ、中立を守ってきたヴェーデルラントにおいてもチュツカ帝国に対して武力行使もやむ得ずとする世論が広がりつつあった。


武力行使を常に実行しているティナなどから言わせれば、何を今更と一蹴される世論ではあるのだが、不景気と重なり、ヴェーデル人の心に蔭りを落としていった。

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