たった一つの冴えた後書き
ホラー小説の企画が告知され、夏だし書いちゃおうか、という女子高生気分で文章を書き出した。それは女子高生を勘違いしている、という指摘はさておき、書き出した本当の理由は他にあった。それはこの夏企画の規定だった。
>予告文章規定
>本編文章の内容を汲んだものであること。
>本編と同一の文体で書くこと。
>本編とは関係のない内容、及び誤解を招く内容はご遠慮ください。
どうして予告で騙してはいけないのか!?
物書きは基本的に嘘つきだ(断言)。
嘘を書けないならノンフィクション作家になるしかないじゃないか。
もうこんなルール見捨てるしかない!
多数派の意見なんかに耳を貸すな!
スクラップ&スクラップ。全てをぶち壊す時だ!
多数派のお祭りで決められたルールを前に、清冽なる憤りが胸の奥から溢れる。
まるで人権を宣言する志士の如く、私は嘘をつく権利を求め、激しく吼えた。
しかし嘘予告という翼を奪われた私は、さながら地上に落ちた堕天使だ。
かくなる上は旅に出よう。
夏企画に向けて力不足を感じ、修行の旅に出ることにした。
そして私はとある場所に来ていた。
限られた者だけが辿り着ける約束の地。
険しい山並みと滝により、外界から隔離された秘境。
その場所とは、伝説の地イクラ堂だ。
バブーという言葉だけでセリフを成立させる力を得るために、私はそこを訪れたのだ。
悲哀、覚悟、決意。全てを秘めた足取りで挑む……!
「大人一名様千円になります」
「えっ? お金取るんですか?」
「はい」
「最近の修行場ってシステムがシビアだなあ」
とにもかくにも、私は挑んだ。
鮎の塩焼きが店によって五百円と八百円と値段に違いがあるのはどうしてだろう?
同じ敷地内にあっても店ごとに鮎の種類が違うのだろうか?
それを見抜けない自分の眼力の無さが悔しかった。
それはそうと、夏企画の方針が固まり出した。
私が目をつけたのは連載形式OKというルールだ。
これを利用すれば予告文章規定を誤魔化せるはずである。
何故なら、連載途中で文体が変わるのは実際に起こりえることだからだ。
つまり、あらすじと同一の文体が一話でもあれば規定上はセーフのはずである。
三千字以上書けばよい、とあるので、千五百字の作品を二本書けばOKだ。
文体を変えつつ、同じテーマで統一感を出そう。
出来れば三本くらい書ければなおよしだ。
作品のスタイルが決まればあとは内容である。
実のところ一番最初に考えたのはエッセイだ。
何故なら、幽霊物や実体験風の話は腐るほど投稿されると思ったからだ。
それに、実体験なんてした事が無い。
まあそこは冒頭に「これは実際に体験した話です」と嘘を書いておけばなんとかなるが、それにしたって意外性が無いだろう。
となるとそれ以外のホラーを選びたいところだ。
さてどんなジャンルがあるかと考えれば、あるじゃないかSFホラーが。
そう、B級映画で大人気のSFホラーだ。
ハプニング物なのかSF物なのかホラーなのか?
SFホラーはジャンル分けに苦労する小説でもある。
しかしだからこそ敷居が低……面白くなるかもしれないと私は考えた。
そうして思いついたのが『植物の逆襲!』という、いかにもチープなSFにありそうな内容だった。
人類を滅ぼそうとする植物。最後の戦いに挑むレジスタント達。進撃の植物である。
色々な意味で今の時代にはキャッチーな内容になるだろう。
だがこの内容で複数話をするのは辛かった。
文体を変える、という趣旨から言っても、どうにもやり辛い。
そこで考えたのが、幻想小説風のホラーである。
実を言えば幻想小説風の話は初期に考えてはいたのだが、ぶっちゃけ読む人いないだろうなと判断していた。
やっぱりSFホラーで幻想小説書いてみようかなぁ……という思いは、私に一人の作家を想起させた。そう、レイ=ブラッドベリだ。皆さんご存知だろう。私はつい最近知った。
ブラッドベリは著名な幻想小説の書き手だ。
以前に私の作品が幻想小説風だと指摘されたこともあり、試しに読んでみた。
驚くことに、時たま私が書く文章と文体がそっくりだった。
パクる前からパクった感じになるのは、なんともやるせない気持ちになる。
いっそ先に読んでおけばよかった。ちくしょうめ。
などと心にも無い事を思いつつ、自然に書けるならパクるまでもねえや、と瞬時に判断した私は、別の作品をパク……オマージュすることにした。
それはとあるショート・ショートの作品だ。
内容がブラッドベリ風、と評価されたその作品は、短いページで驚くほどの効果を上げていた(感想は個人の物です)。
よし、こんなのを書いてみよう。
そうして書かれたのが『ワールド・エンド・ガールフレンド』だ。
これは幻想小説を書きたいこと、タイトルを使ってみたいこと、主人公に恋をしただろうと言わせたかったこと、その三つだけが理由で書かれている。
『ワールド・エンド・ガールフレンド』は楽々と書けた。
他の二話で予定通り力尽きていた私にとって、この話を書くのに苦労しなかったことは素直に嬉しい。短いっていいよね!
そして他の二話だが、『リトル・グッバイ』の方向性を決めるのは簡単だった。
トップバッターを務めるこの話は、とにかく読みやすさが求められる。
出来うる限り親近感を持たれるように、高校生の主人公による一人称の話となった。
予想外だったのは途中に挟まれるギャグと話が膨らみ過ぎたことだ。
最初は三千字くらいでやる予定だったのに、妙に長い話になってしまった。
しかし何より辛かったのは『さよならのタイミング』である。
これははオマケ要素として書かれている。
事前予告に「ラインのように繋がる~」と豪語したために必要になった話だ。
『さよならのタイミング』は、だから他の話とは少し趣が違っていた。
この話の裏テーマ自体は前々からやりたかった話だ。
そういう意味で個人的にオマケであるという思いが強い。