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不定期人形師(仮)  作者: 花葛
1章:赤髪問題児の職業は人形師
5/5

(5)憧れの王子様の本性は危険人物

なんだかコメディーから外れて行くような気がします。おかしいな?

 「人形師」は普通の人形の職人とは大きく異なる。

 設計図もなく、道具も使わない。あるのは自分の魔力と輝く石のみ。 


 その昔、神により与えられた、生きた人形を創る力。その力は3つに分けられた。

 

 ひとつは、命を見出す瞳(みことのめ)。命の色と魔力の軌跡を写し、宝守(ほうしゅ)から魂を宿す。

 ひとつは、声による魔力(うたごえ)。音無き唄声で魔力を紡ぎ出し、陣を展開する。

 ひとつは、命の音色を聞く耳(みことのみみ)。器から外れた(こえ)を聞き、産まれることない命を繋ぎ止める。

 

 3つに分けられた力は人形師の力量に合わせて宿る。この内、命を見出す瞳と声による魔力の二つの力を人形師は行使する。自分だけの陣を展開し、この世にある鉱石ではなく人形師の為にある輝く石・宝守(ほうしゅ)を核として生きた人形を創るのだ。

 

 生きた人形を創るのが人形師の仕事。その人形は人と見間違える精巧な創り。自分で物事を考え、話し、動く。

 まさに人間そのもの。誰もが欲しがる素晴らしき宝だ。


「和歌ノ原が、人形師…信じられないっ」

 都市伝説並の噂とされていた人形師。それが今、目の前にいる。

 素行不良の問題児とされているクラスメイトが人形師。俄に信じられない話だ。冗談でした、嘘だと、からかわれているとしか思えない。それだけ信じがたい事実。

「簡単に信じらんねぇーのは分かるがよ、嘘じゃねーからな。」

「嘘なんかついてないのよ?遥さんの言葉は本当なの。」

 真剣に向き合う姉に嘘はない。

 第一、変な嘘をついて美乃里を騙す美鶴じゃない。断言できる。それでも簡単に納得できる内容じゃない。

 どうしたらいいのか繞に助けを求めるように縋る目を向けても首を横に振られてしまう。

「だってっ、そんな話…っ、簡単にはーーっ!」

「―やだやだ。これだから頭でっかちのヤツはダメだね。逃避しないで現実を見なきゃ」

「っ!?な、なにっ!」

 突然聞こえてきた可愛らしい声に美乃里は飛び上がらんばかりに驚いた。この場にもう一人、美乃里たち以外の居るはずのない聞いたこともない声だ。

「ここだよ、ここ。アンタの目は節穴?目の前にいるのに、どこ見てんのさ」

 可愛い声して腹の立つ物言いに、口元がひきつる。

 文句でも一言くらい言ってやろうと、その声に従って見れば、ずっと遥の膝に載せられた学ランに学ラン帽姿の可愛らしい白ウサギのぬいぐるみしか見えない。キョロキョロと他にいないのか周りを見ても該当者はおらず、困惑する。

「はぁー…、おい、田辺。声の主はコイツだ。オマエもいきなり声かけんじゃねーよ」

 仕方なく遥が持ち上げたのは、今まで膝の上に置いていた白ウサギのぬいぐるみ。そのぬいぐるみを怪訝そうに見つめれば、僅かに手が動いた。動いたのだ、ぬいぐるみが。

「……っええええぇっっっ!?だ、だだだだって、それっ」

「さっきからアンタに話してかけているのは僕。おわかり?」

 今度はしゃべった。

 勢いよくソファーから立ち上がり、ぬいぐるみを指さした指がワナワナと震えてしまう。動いただけじゃなく、しゃべったのだ。

 同じ声音から、さっきから美乃里に対して正体不明の可愛らしくも皮肉ばかり口にする声の主に違いない。

「で、電池とかっ!?」

「違いますよ、田辺さん。」

「ならっ、腹話術っ!?」

「違うのよ、美乃里ちゃん」

「だ、だったらっ!」

「言ったろ?俺は人形師だってな。コイツは俺が創った、正真正銘ぬいぐるみの相棒の千椰(せんや)

「よろしくしなくていいよ。(ぬし)サマと忍者以外、興味ないから」

 いけ好かない相手であっても礼儀正しく、お辞儀して見せる。相棒として、主サマの遥に恥はかかせられない。

「…はぁ、分かった。十分に理解しました。和歌ノ原は人形師で、生きた人形を創れます。信じます。」

「なに、やっと現実を認めたの?もう少し頭柔らかくしてとっと理解してくれる?」

「ぐっ、ものすごく腹が立つぬいぐるみよねっ!」

「本当のことを言っただけだけど?」

「だからってねっ!?」

 千椰のイヤミに、いちいち突っかかっていては疲れるだけだ。皮肉を言うイヤミな性格は産まれた頃から変わらない。あれが、千椰のコミュニケーションの仕方。ただ、ぬいぐるみ相手に怒る美乃里の姿は滑稽である。

「田辺さん、もうその辺りでよしたほがいいかと」

「あ……、ご、ごめんね!?うるさかったよね!?」

 憧れの繞の前での失態。このままでは叫んで怒鳴る、うるさい女の子として覚えられてしまう。少しは落ち着かないといけない。

 幸い、千椰の方は美乃里に興味がなくなったのか遥に甘えている。本当はお淑やかな女の子として覚えてもらわなければっと力を入れ直してふと気づく。

 休日の日にまで、繞が遥と一緒にいる。いくら仲が良くてもちょっと可笑しくはないだろうか。遥が人形師ということも知っていた。だとすれば、ひとつしか思い当たらない。

「そういえば、和歌ノ原が人形師なら、いつも一緒にいる獅木くんも人形師…なの?」

「いんや。コイツは違うぜ」

「俺は人形師を守るために存在する守人(もりびと)です。」

「…守人?」

「はい。人形師の力は人には過ぎたる力。人形師自身に(わざわい)が降りかかるほど巨大です。その禍から守るためにいるのが守人になります。」


 神により、人形師をどんな禍からも護る力を与えられたのが守人(もりびと)

 ひとりの人形師が産まれれば、その人形師の対である守人が産まれるのが(ことわり)

 

 対になる人形師を見つけ、互いの半身となる契約し、人形師の命が尽きるまで生涯をかけ禍から護る抜くことが役割であり存在理由。力のおかげか身体能力が高く、危機察知能力に関しては野生動物並になる。

 

 守人は、この世に生を受けた時から己の人形師に出会うこと夢見ている。人形師を見つけた守人は片時も傍を離れず、無断で離されることは死にも等しく、狂った守人は何人もいる。それだけ人形師に対しての想いは強いのだ。


「対である遥の守人が俺になるんです。だから、田辺さんも気をつけたほうがいいですよ?」

「……何を…」

 ごくりと喉が鳴る。

 繞の雰囲気が変わった。学校で見る優しくにこやかに浮かべる笑顔じゃない。どこか奥が深く何かが潜んでいる笑顔が怖い。

「遥を見下したり侮辱すれば、女性であろうが容赦なく潰させてもらいますね。ーー完膚無きまでに。」

 それは狂気を孕み歪んだ笑顔だった。

 

 


ちょっとだけ遥くんの本領発揮です!

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