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不定期人形師(仮)  作者: 花葛
1章:赤髪問題児の職業は人形師
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(4)赤髪問題児は都市伝説で噂の人形師

 少し目元を赤く染めた吉路が去り、入れ替わりに美鶴と美乃里が遥の前のソファーに腰掛ける。まだ納得がいかないのか、美乃里の眉間に皺が寄っている。

 遥は遥でそんな美乃里を歯牙にもかけずソファーに踏んぞりかえる。いちいち気にしていても面倒だ。


「ーーで?」

「でって、何よ!」

「オマエじゃねーよ。自意識過剰女」

「な、なななんですってぇっっ!!!」

「落ち着いて、美乃里ちゃんっ」

 顔を真っ赤にさせて怒鳴る美乃里に目もくれないで、繞に出してもらった和菓子の上生菓子を口に放り込む。

 今回のはなかなか美味い。また買って食べたい代物だ。

「うるせーな。少しは黙ってろよ。おい、繞。お前、何勝手に次の客入れてんだよ。おかげで口出しされていい迷惑だ。」

「すみません、遥。彼女の口をガムテープで塞ぎ、その上からタオルで縛りつけ黙らせるべきでした。」

「……そこまでしなくていい。」


 どこの誘拐犯だ。

 

 口元を引きつらせ、遥の蟀谷から冷や汗が流れる。冗談でも繞の言葉を固定すれば、すぐに実行に移すだろう。

 遥の右手を両手で包み込み、笑顔を問いかけてくる繞の目は微塵も笑っていない。笑うどころか危険で獰猛な光が揺らめいている。


 出会った瞬間から、繞は遥至上主義で過保護な行動をとる。遥を煩わす’もの’に容赦がない。立場的なものもあっての行動とは分かっているが、少し面倒だ。まあ、遥自身にあまり被害が来なければ、繞の気が済むまで放っておく。ある程度の常識の範囲以内まで。


「ーーさて、田辺美鶴。会うのは2年ぶりか?」

「はい。ご無沙汰しております。本来なら去年、伺うはずでしたが……」

「知ってる。ジジイが死んだんだろ。ーーとりあえず服を脱げ」

「は、はぁっっ!!?何言ってるのっ、このエロボケっ!!」

 遥のありえない言葉に頭に血が昇る。

 年ごろの女性に服を脱げなんて、セクハラだ。老人虐待の次はそれか。

 美乃里のあまりの暴言に眉がピクリと動くが黙る。ここで何かを言えば、遥の後ろに控えている陰湿な気配を纏った繞がどんな行動に移るか分かったもんじゃない。それに女に向かって直球に脱げって言ったのは少し反省すべきことでもある。

「黙らせますか?」

「…遠慮する。いいから黙って控えてろ」

 頭に載せている兎のぬいぐるみを膝に移し、気持ちを落ち着かせる為に撫でる。好戦的な奴らばかりで、深いため息が出てしまう。


「まあ、美乃里ちゃんったら。遥さんは診察のために言っているのよ?」

「診察ですって!?」

「ええ、そうよ。私、体調を崩しがちだったでしょ?だから、遥さんに見てもらうためにここに来たの」

「分かったら、少しは大人しく黙ってろよ」

 妨害ばかりする美乃里に我慢の限度が来て、いくら平和主義者な遥でも実力行使しそうになる。繞を使って。

「その前に!ここがなんなのかっ、なんでお姉ちゃんが和歌ノ原に体調を見てもらうのか、理由を教えて!アンタ、ただの高校生でしょうがっ!!」

「ま、もっともだな。俺も免許なんかない未成年の餓鬼に、大事な身内を見てもらおうなんざしねーな」

「ならっ!!」

「少しは落ち着けよ。……オマエも聞いたことはアンじゃねーか?この世には、命が宿る人形を創る人形師がいるって噂を、よ」

「……あるわ。本当のことかは分からないけど、都市伝説並に有名な噂話でしょ?」


 

 よくある噂だ。


 子供を交通事故で亡くしたある年老いた夫婦がいた。歳がいってから出来た一人息子を夫婦はたいそう可愛がっていた。子供の亡骸を抱きしめて泣き叫び、お葬式が終わっても魂が抜けたように夫婦はお墓の前から動こうとはしなかった。

 何日も何日も。雨が降っても、周りの人に何を言われても留まっていた。

 ある日、夫婦の前に一人の男性がやってきた。夫婦の事情を聞いた男は、子供の写真を1枚だけ貰いその場を去った。次の日、うあはりお墓にいる夫婦の前にまた男がやってきた。しかし男は一人じゃなかった。傍に小さな子供が一人いた。昨日、夫婦に貰った写真の男の子そっくりの子供を連れていたのだ。

「この子は、貴方達の息子さんそっくりの人形です。話すことも動くことも出来ます。可愛がってあげてください」

 夫婦は声をあげて泣いた。たとえ人形だろうと自分たちの大事な息子が還ってきたのだ。しかも、普通の人形じゃない。自分の意志で動く人形だ。

「あの、あなたは一体……」

「私は人形師。命が宿る人形を創る人形師です」

 男は笑った。


 他にも内容は違うが、人形師となる人間に人形を創ってもらった噂はいくつもある。

 本当は、目の錯覚か思い込みで動く人形だ。いや違う。本当に動いて話す人形だ。と嘘か真か人々の好奇心を刺激する噂。


「ーー噂は本当だ」

「まさかっ!だって、命が宿った人形なんて……」

「命が宿った人形もあれば、人形師だって実在する。ーー俺はそのうちの一人、命が宿る人形を創る人形師だ」

 にやりと悪どい笑みを浮かべて遥は笑った。




 

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