目覚め
光の中、黒く大きな人影が語りかけてくる。
(滝田直人。お前は私との交渉権を行使した。私にお前が望むものを言え。可能な限り、それをお前に与えよう。)
強い声が辺りに響く。
「願いを叶えてくれる?ずいぶんと豪勢な夢だな。今日はよっぽど疲れてるみたいだな。」
(望むものは何だ?)
声はますます強みを増す。
「うるさいな。分かったよ。じゃあ…誰よりもあ賢くなりたい。俺をもっと賢くしてくれ。」
(それはできない。)
「どうして?」
(お前は既に人間の得られる最高位の知恵を得ている。これ以上与えることはできない。)
「ははは!神様に誉められるとは思わなかったな。じゃあ他の願いか…」
直人の頭にいつもの不満が押し寄せてくる。
この世の中はひどく退屈、つまらない。馬鹿が溢れかえっている町中。そこを歩く人々、その手には占いの本。自らの頭で何も考えず、分からぬ未来に不安だけ覚え、運命をくだらない本に預ける。
「そうだ。運命に関われれば、くだらない世の中を操れたら…少しはおもしろくなるかもな。」
(運命を操りたいのか?ならば、その望みを叶えよう。その力を与えよう。私と再び会いたいときは交渉権を行使しろ。)
カーテンの隙間から差し込む一筋の光。ベッド上の直人の顔を照らす。
「もう朝か。だいぶ疲れてるらしいな。あんな夢を見るなんてな。」
直人は薄笑いを浮かべながら、左手に視線を移す。
「ん?これは?」
明らかにソロモンの環が昨日よりも太くはっきりとなっている。直人は戸惑いながらも環を何度かなぞって確認する。
「まさかな。馬鹿馬鹿しい。」
直人は枕元に置いてあるリモコンでテレビをつける。ソロモンの環の確認を続けながらテレビを眺める。画面の中で、アナウンサーがいろいろとニュースを読んでいる。政治、経済、スポーツ、芸能。どれもくだらない。本当に大切な情報など流れていない。どうでもいいことばかり馬鹿なアナウンサーや解説者が語る。それでもこの世の中を生き抜くには情報が大切だ。どんなくだらないものでも頭に入れておいて損はない。
「しかし…くだらなすぎる。それにこの解説者。いくら何でも発言が稚拙すぎる。こんな奴、解説者辞めればいいのにな。」
直人はテレビを消すと再び眠りについた。