出会い
「ソロモンの環…ここで占いを始めて長いことになりますが…実際に見るのは初めてですよ…」
老人は淡々と喋り続ける。老人の女性と聞き間違えるほど特徴的な声に男は不思議と引き込まれていった。
「人指し指の根本を囲む環のような相…これが…ソロモンの環です。その昔、あのソロモン王が持っていたと言われている…大変に貴重な相でございます…それに…どうやらとても賢いお方のようですね…あなたはきっと偉大な人物になられるでしょう…」
「それはどうも。でも俺は占いなんて根拠の無いものは信じないですから、興味もない。したがって、いくら誉められても金は払わない。」
「お金は要りません…ただ私の言ったことをどうかお忘れなく!あなたは…神にも認められるはず…」
「占いの次は神ですか?どちらにせよ、信じられないことに変わりはありません。失礼します。」
男は荷物をまとめると足早に去っていった。
その後ろ姿を見つめている老人は微笑みながら闇の中へ姿を消していった。
「舞、待たせてごめん!」
「遅いよ、直人!どこまで拾いにいってるのよ。」
「本当にごめん。はい、残りの荷物。」
「あ〜あ、すっかり汚れちゃった。今日はついてないな。占いの通りか…」
「占い?」
「うん。グッピィ内藤の魚占い、最近流行ってるのに知らないの?けっこう当たるって評判だよ。」
確かに辺りを見渡すと、その占い師の本を持った人が大勢いる。
(くだらない…)
「直人どうしたの?恐い顔してるよ?」
「なんでもないよ。それより、その本ちょっと見せて。何だ、俺メダカかよ!……」
二人は並んで笑い、しゃべりながら帰っていった。
吹く風はさらに冷たく、町の闇はさらに深くなってきていた。
「今日も疲れたな…」
直人はアパートに一人暮らし。よほど疲れたのか、帰ってくるなりすぐにベットに倒れこんだ。仰向けになり、ぼおっと天井を見つめている。そして、ふと自分の左手に視線を移す。
「ソロモンの…環…か…」
思い出すのはあの不思議な老人のこと。
(あなたは偉大な人物になるでしょう…神に認められる…)
「神か…本当にいるなら一度会ってみたいもんだ…」
直人はそう言いながら右手の人指し指で自然とソロモンの環をなぞっていた。
神々しい光の中、立っているわけでも、寝ているわけでもなく、ただ光に身を任せ漂う。
「ここはどこだ…」
(滝田直人…)
「誰だ?俺を呼ぶのは?」
光の中、直人の目の前に黒く大きな人影が立っている。
「神…様…」