プロローグ 変化の兆し
俺が思うにこの世はひどく退屈だ。
自分じゃ何も考えられずに回りに流される奴。
目先の利益だけを追い求め、結果的には損する奴。
どうでもいいようなことばかり考えて、時間を無駄に使う奴。
世の中頭が悪い奴ばかりだ。
ありふれた町並み。いつもと変わらぬ日常。何も変わるはずがない。今までならば……
夏も終わり、涼しい風が吹き始めた町中。道行く人々の中、とあるカップルが一組。楽し気に話をしながら歩いている。
「きょうは楽しかったぁ。ちょっと買いすぎちゃったかな?」
「…ちょっと…じゃないんじゃないか?」
女は見るからに買いすぎで重そうな大荷物を両手にぶら下げている。
「あっ!」
袋のそこが破けて小物が辺りに飛び散る。
「だから、買いすぎだって。」
男と女は荷物を拾い集める。そのうちに男は小道へと足を踏み入れた。すぐ近くの大通りとは明らかに雰囲気が異なっている。建物の陰になっているからか、どうも薄暗い。
「そこの青年…」
暗がりの中から突然聞こえてくるか細い女性の声に男は驚いた。慌てて声のする方を見ると一人の老人が占いの店を構えているようだった。
「占わせて…もらえませんか…」
「いや、そういうの興味ないんで。すいません。」
「興味がなければ、お代はいらん…手を見せてくれるだけでいい。」
静かだが何とも言えぬ迫力を持つ老人に男は逆らう気が起こらなくなってしまった。
「じゃあ、急いでるんで早くしてください。」
男が差し出した左手を老人は目を見開いて見入る。
「これは…やはり、すばらしい。ソロモンの環じゃないか…」
「ソロモンの環?」