表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/64

63 行動開始

「アリス、具体的に、アダム・ジャグラーは何を知ったと思う?」

 エドの質問にカミラも頷いた。

「妾も知りたい。見当はついているのであろ、ラグナ?」

 アリス=ラグナロクは、首を傾げた。

「それが…。」

「えっ?まだわかんねえってか?だって、あのダットンとかいう道化の飼い主は割れてんだろが?」

「ええ。」

「だったら…」

「それが、多角経営なのよね。」

 アリスは珍しく困惑の体である。

「はあ?ワケわからんが?」


 アリスが言うには。

 ダットンの直属の上司は次席監察官だが、更にその女を操る、いわば黒幕がいて、これは司法省とは関係のない企業の代表である。

 裏社会とのつながりは巧妙に隠蔽しているものの、反社会的組織とはあらゆる部分で深く癒着していて、切っても切れない関係だという。

 特に先の大戦の影響で、この企業体は大きく勢力を伸ばした。戦乱に乗じて多くの企業を乗っ取り、潰し、あるいは吸収した結果、今では傘下のフロント企業だけでも40社以上という、一大企業連合体を形成するに至っているのだ。

 社員総数は30万を優にこえる。

 傘下企業の幾つかは、連邦での知名度が非常に高く、優良企業と社会的に評価されてもいた。


「問題はね。違法な物流関係だけでも、対象品目が千以上あるってこと。これには、人間やそのパーツも含まれているわね。あなた方が行ったあの事件現場の店は、その小売店ってわけ。」

 エドの背筋がざわり、と泡立つ。怒りの予兆だ。

「…なんだってそんなモンを野放しに?」

「末端を叩いてもどうにもならないからよ。大元を叩くにしても、社員数からして、社会的影響が大きい。一気にカタをつければ失業者が溢れる。それに、傘下にはまともな企業もたくさんあるのよね。」

「だったら、ヤバいのを叩けば?」

「ヤバさの段階が色々だわ。1番闇社会に近い辺りを潰したら、二番手がそれに取って代わる。手ぬるいやり方じゃ、結局どうにもならないの。戦争がこんな歪んだ怪物企業を産んだのよ。」

「だが、アンタにゃ策があるんだろ、ラグナロクさんよ?」

「何故そう思うのかしら?」

「はっ!今更。バディだよな、オレら。」 ニヤリと笑うエドと、何だか満足げなアリスを眺め、カミラは生暖かいため息をついた。

「イチャつくのはまだ早いぞよ、そなたら。」 

「ああら嫉妬ですの、ご老体?」

「年齢は良い勝負であろうよ。しかし、サトルと言うたか。おのこからあのような目で見られたのは久方ぶりじゃ。悪いものではないの。」


 そのサトル・タントは悩んでいた。

 あの少女、ひどく蠱惑的かつ神秘的な、カミラ・ヴォルティス。

 会いたい。

 さっき別れたばかりなのに、どうしても会いたいのだ。だけど…。

「所詮、高嶺の花ってやつだよな。」

 わかっている。わかっちゃいるが、どうしようもない。

 あんな美少女、見たこともない。思い出すだけでうっとりしてしまう。

 今まで、リマノ貴族の何人かに会ったことがあるが、カミラから感じる威圧感は下手な貴族の比ではなかった。大公、と言うからには、王族に連なる高位貴族だろうし、連邦の(非公式の)賓客となると、連邦非加盟の大国のVIPと見て間違いない。

「しかもあのオッサンより歳上って言ってたよなあ…。」

 そう考えると、障害はあまりに多かった。ため息が漏れてしまう。

 それでも、また会いたい。だけど今は…。


 ギルドに依頼遂行不能の連絡を入れてから、サトルはずっとこうやって悶々としていた。

 その時。携帯端末が小さなバイブを発した。相手はわかっているから、イヤホンをオンにする。

「何だよ、兄ちゃん?」

 サトルの声は自分でも別人かと驚くほど投げやりで、低いトーンだった。しまった、とは思ったが後の祭りだ。

 相手は一瞬黙り、それから心配そうに状態を訊いてきた。ほら、こうなるんだ。俺ってバカみたい。

 兄ちゃんにこれ以上心配かけてどうするんだ?

「ううん、何もない。ほんとだってば。うん。ただちょっと…気になる子がいるってだけ。うん。大丈夫だから。もう切るね。」

 我ながら重症だ。

 サトルは椅子の上で膝を抱えて、首を深く垂れた。


「博士。誠に失礼とは思うんすけど。」

「なんじゃ改まって?失礼と思うなら黙っておったほうが良いのではないか?」

 確かにその通りではある。

 だがしかし。

「アンタなんつーサイトを見てんですか?」

「お?」

「オレも個人の趣味に口出ししたくはないですよ。けど、そりゃあまりにも…。」

「趣味ではない。先日偶然目に入ったものを、確認しておったのじゃ。」

「チャイルドポルノサイトで?」

「然り。見や。」


 提示された画面に目をやってすぐ、エドはカミラが言わんとしたことに気付いた。

「これは…!」

「やはりそうであろ。この燃えるような赤毛に見覚えがあったのじゃ。ここまで鮮やかな色彩は稀ゆえ。」

「サトル…。」

 そんなに前の映像ではない。

 痛々しいほど痩せた身体は、着衣の時よりもさらに幼く見えた。

「そなたら人間のサンプルを見るには、このようなサイトが手軽ゆえ。子供の場合、人工的な色彩添加が少ないのじゃ。」

 そう説明するカミラの声も、エドには聞こえていなかった。

 画面のサトルは、ただ無表情だ。ガラス玉のように生気のない、それでいてどこまでも透明な緑色の目。その奥にあるものを想像すると、純粋な怒りに我を忘れそうになる。

「サトルだけではない。こちらはどうじゃ?」

 カミラが示したのは、今の動画と同じ発信者と思われる別の動画だった。ただしこれはサトルのものとは趣向が違う。

 性的なものではなく、あまりにもおぞましく犯罪的だ。犯罪現場て場数を踏んできたエドすら、胃のあたりが石でも飲んだみたいに重くしこるのを感じる、

「なんでこんなモンを…?」

 一見して意味がわからなかったエドうだが、この少年には何となく見覚えがある。

「博士、この子、まさか?」

「あの店にあったオリに掲示されていた。」

 通路の入り口にあった、商品展示用のオリ。この少年は、もう…。


「落ち着け、エド。今は集中するべきことがあろう?」

 静かなカミラの声に、ようやく我に帰る。が、この怒りは収まりそうもない。


「アリス!」


 エドは吼えた。

「ええ。既に着手しているわ。」

 イタチごっこだとしても。それでも、末端のみをトカゲの尻尾よろしく切り離すことは、絶対に許さない。

 エドは深呼吸した。

 だが、最悪な気分は容易に去らない。

 ありふれたこと。戦争で命を落とした子供達の数すら天文学的な数字なのだ。

 それでも。


「今は、サトルの線に集中して大丈夫よ。監察局の線は私が牽制するわ。誰にも邪魔はさせない。」

「ああ。そっちは任せた。」

「それより、動きがあった。さっきサトルが誰かと連絡を取ったの。」

「探知は?」

「もちろん。行きましょう。」

「ああ。」

 そう。今は考えるよりも行動の時だ。わからないことが多すぎるからこその強引な手段だが、時には役に立つ。

 いずれにしても、監察局が絡んでいるのは確かだし、黒幕をどこまでも辿り、引き摺り出して断罪しなければならないのだ。


 ギャンブラーは何故狙われた?

 誰に狙われた?

 誰が手を下した?


 点と点は、まだつながりが弱い。しかし、いくつかの理由から急がねばならないことはわかっていた。


当作品にお越しいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ