61 ダーリンって誰だ?
児童回春!?
当然ながら身に覚えなとない。一体どこの誰がそんなとんでもない容疑で?
「冗談じゃねえ。どこから聞いた、その与太話?」
「告発者の身元を秘匿するなど基本中の基本でしょう?」
更に慇懃無礼でイヤミったらしい口調でダットンが続けた。
「官舎に少女を連れ込んでいると通報があったのですが、まさかこの子が?」
と、わざとらしくカミラを二度見する。
「彼女についちゃ、デュラハン監察官が責任者だ。」
「そのデュラハン主席監察官は、本日お休みですから、代わりに私が。真実ならば一刻を争う内容ですのでね。」
深刻ぶって、ダットンはため息を付け加える。それから床に目を落として、少し声をひそめた。
「いえ、ここだけの話、アリス・デュラハン監察官とあなたがその、不適切な関係ではないか、などといったウワサもありますから。」
それはそうだろう。
ウワサについては無論承知していたし、実際、不適切な関係と言われればその通りである。
有名リゾートに出かけてホテルで2人きりで過ごしたり、有閑マダムとその愛人を装ったり。それはとちらもガッツリ任務がらみだったが、現在はアリスが事実上エドのバディである。
彼女は人間ではないが、それを見破れる者などほぼあるまい。書類と経歴はは完璧だ。
しかも、アリス=ラグナロクにエドを売り飛ばしたのは、目下の最高権力者である連邦盟主である。
彼に逆らえるものなどいない。
だから、アリスがらみで非難されるような事実は何もないのだ。はたからはそう見えないのは別の話である。
〝それにしても、何なんだ、この道化?〟
エドはいい加減ウンザリしてきた。
告発者などいつでもいた。今までずっとそうだった。
動機はたいてい、嫉みだとか復讐だとか。根も葉もない悪質なウワサは、人格攻撃のあらゆる分野をコンプリートしているから、今更どうということもない。
もともとエドはスラム出身だ。あの暴動で家族を亡くし天涯孤独の身である。
妻子はおろか、今現在付き合っている女もいない。
だから、なんら後ろ盾はない。それなのに、勤務成績は抜群で、相手が有力者だからといって追及の手を緩めることもない。
今までエドのバディになった者の多くは、「お前にはついていけない」との言葉を残して去るか、殉職したり、重い怪我でリタイヤせざるを得なくなったりした。
相当恨みを買っている自覚はある。
ねたまれたり逆恨みされるなどは日常茶飯事である。
いつもならば、どんな告発だろうとアリス=ラグナロクが対処してくれていたわけだ。否、今でさえそれは可能なはず。
それなのに?
『おーい。もういいだろ、ラグナ?』
内緒話モードである。
『この道化をなんとかしてくれや。仕事になんねーわ。』
言葉での返事はなかった。
が、なんとも妖艶な、女性の含み笑いが答えだった。
突然、ジュリアン・ダットンの腕の端末からメールの着信音が鳴った。
チラッと表示を見た瞬間、彼の表情が変わったのをエドは皮肉に眺める。
〝そうだよな。仕事がはえーんだわ、ウチのアリスさんは。〟
「どうかしたかい?」
何くわぬ顔で聞いてみたら、ダットンの額に汗が浮かんだ。メールは、よっぽどのエラいさんからだったらしい。
「き、急用です。私はここで失礼します。」
〝おーおー、声が裏返ってんぜ〟
「あ、そう。」
「こっ、このっ、この続きは後日また。」
いい終わるや否や、ダットンはくるりと振り向き、オフィスを後に駆け出して行った。
「何、アレ?」
呟いたのはサトルであった。彼はオフィスに入って以来、いっぺんも口を開かなかっとのだが、口調には明らかな嫌悪が滲んでいる。
「俺のこと、変な目で見てやがった…」
「そう思ったのか。」
エドは、興味深くサトルを観察した。
「妾のことも、のう。」
カミラに指摘されるまでもなく、エドは気付いていた。その通りだ。
アイツは碌なモンじゃない。
さっきの舐めるような視線は、ヤツの正体を暴露していた。
〝あのヘンタイ野郎、ガキに欲情してるのはテメーだろが!〟
「ん?どうかしたか、サトル?」
何故かサトルが固まっている。色白の顔を青ざめさせて、カミラを凝視していた。
「わ、わらわって!?きみ、どこのお姫様?」
「姫ではない。妾は大公じゃ、のうエドよ?」
あ〜、そこか。
「その通りです、大公殿下。けど、なんなんだ今の道化?」
「文字通りの道化であろ。何者かの使い走りじゃの。」
「仰る通りかと博士。けど、何でこのタイミングで?確かにアリスは不在ですが。」
「アリスがいても、道化は投入されたのではないかの。誰かが、余程焦ったのであろう、あのような出来の悪い者を寄越さざるを得ないほどにのう。」
カミラはコロコロと笑う。
「あっ、あのっ!!」
サトルが唐突に叫んだ。
「さ、さっきアイツが言ってたことって…?」
「言ってたこと?」
エドとカミラは顔を見合わせ、それから揃ってサトルを見た。少年の顔は、なぜが悲壮感を帯びている。
「カ、カミラ…ちゃんと、オッサンが…」
「あ〜、アレか。アレはだな…」
と、エドが説明しようとしたとき。
「事実じゃ。」
と、カミラは涼しい顔で頷いて見せた。
「妾はエドの小屋で世話になっておる。」
「こ、小屋って、博士!」
「おお、済まぬの。部屋、で良いのか?」
「あー、まあね。って、そこじゃねー!」
エドは、真っ青になったサトルを見た。
脱力しつつ震えてもいる。
「その、誤解を招くような言い方!」
「誤解とな?妾は事実を述べたまでじゃが?」
「だからっ!そもそもアンタの公式宿舎は別にあるじゃねーか!」
「それはそうじゃが、そなたと一緒のほうが楽しい故。」
カミラは満面の笑みだ。
対してサトルは、その場に崩れ落ちた。
まるで人生が終わりでもしたみたいに。
「ど、どーするんですかこの事態!?これじゃあまりにも大人げないですよ博士?」
「む?むむ…?」
カミラは難しい顔でエドとサトルを交互に見た。
「あっ!」
ぽん、と手を一つ打つ。
何やら閃いたらしい。が、どう収拾をつけようというのか?
「ただいま♡」
なんとも妖艶な声と共にドアが開き、スーツ姿の美女が現れた。
「アリス!」
地獄に仏。
「あーら、どうしたのかしら、ダーリン?私がいなくて寂しかった?」
「だ、ダーリンはやめろって!」
「うふふ。」
アリス=ラグナロクは一同を見回して笑みを浮かべた。
「とりあえず、お茶にしましょうか♡」
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