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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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61/65

61 ダーリンって誰だ?

 児童回春!?

 当然ながら身に覚えなとない。一体どこの誰がそんなとんでもない容疑で?


「冗談じゃねえ。どこから聞いた、その与太話?」

「告発者の身元を秘匿するなど基本中の基本でしょう?」

 更に慇懃無礼でイヤミったらしい口調でダットンが続けた。

「官舎に少女を連れ込んでいると通報があったのですが、まさかこの子が?」

 と、わざとらしくカミラを二度見する。

「彼女についちゃ、デュラハン監察官が責任者だ。」

「そのデュラハン主席監察官は、本日お休みですから、代わりに私が。真実ならば一刻を争う内容ですのでね。」

 深刻ぶって、ダットンはため息を付け加える。それから床に目を落として、少し声をひそめた。

「いえ、ここだけの話、アリス・デュラハン監察官とあなたがその、不適切な関係ではないか、などといったウワサもありますから。」


 それはそうだろう。

 ウワサについては無論承知していたし、実際、不適切な関係と言われればその通りである。

 有名リゾートに出かけてホテルで2人きりで過ごしたり、有閑マダムとその愛人を装ったり。それはとちらもガッツリ任務がらみだったが、現在はアリスが事実上エドのバディである。

 彼女は人間ではないが、それを見破れる者などほぼあるまい。書類と経歴はは完璧だ。

 しかも、アリス=ラグナロクにエドを売り飛ばしたのは、目下の最高権力者である連邦盟主である。

 彼に逆らえるものなどいない。

 だから、アリスがらみで非難されるような事実は何もないのだ。はたからはそう見えないのは別の話である。


〝それにしても、何なんだ、この道化?〟

 エドはいい加減ウンザリしてきた。

 告発者などいつでもいた。今までずっとそうだった。

 動機はたいてい、嫉みだとか復讐だとか。根も葉もない悪質なウワサは、人格攻撃のあらゆる分野をコンプリートしているから、今更どうということもない。

 もともとエドはスラム出身だ。あの暴動で家族を亡くし天涯孤独の身である。

 妻子はおろか、今現在付き合っている女もいない。

 だから、なんら後ろ盾はない。それなのに、勤務成績は抜群で、相手が有力者だからといって追及の手を緩めることもない。

 今までエドのバディになった者の多くは、「お前にはついていけない」との言葉を残して去るか、殉職したり、重い怪我でリタイヤせざるを得なくなったりした。

 相当恨みを買っている自覚はある。

 ねたまれたり逆恨みされるなどは日常茶飯事である。

 いつもならば、どんな告発だろうとアリス=ラグナロクが対処してくれていたわけだ。否、今でさえそれは可能なはず。

 それなのに?


『おーい。もういいだろ、ラグナ?』

 内緒話モードである。

『この道化をなんとかしてくれや。仕事になんねーわ。』

 言葉での返事はなかった。

 が、なんとも妖艶な、女性の含み笑いが答えだった。


 突然、ジュリアン・ダットンの腕の端末からメールの着信音が鳴った。

 チラッと表示を見た瞬間、彼の表情が変わったのをエドは皮肉に眺める。

〝そうだよな。仕事がはえーんだわ、ウチのアリスさんは。〟


「どうかしたかい?」

 何くわぬ顔で聞いてみたら、ダットンの額に汗が浮かんだ。メールは、よっぽどのエラいさんからだったらしい。

「き、急用です。私はここで失礼します。」

〝おーおー、声が裏返ってんぜ〟

「あ、そう。」

「こっ、このっ、この続きは後日また。」

 いい終わるや否や、ダットンはくるりと振り向き、オフィスを後に駆け出して行った。


「何、アレ?」

 呟いたのはサトルであった。彼はオフィスに入って以来、いっぺんも口を開かなかっとのだが、口調には明らかな嫌悪が滲んでいる。

「俺のこと、変な目で見てやがった…」

「そう思ったのか。」

 エドは、興味深くサトルを観察した。

「妾のことも、のう。」

 カミラに指摘されるまでもなく、エドは気付いていた。その通りだ。

 アイツは碌なモンじゃない。

 さっきの舐めるような視線は、ヤツの正体を暴露していた。

〝あのヘンタイ野郎、ガキに欲情してるのはテメーだろが!〟

 

「ん?どうかしたか、サトル?」

 何故かサトルが固まっている。色白の顔を青ざめさせて、カミラを凝視していた。

「わ、わらわって!?きみ、どこのお姫様?」

「姫ではない。妾は大公じゃ、のうエドよ?」

 あ〜、そこか。

「その通りです、大公殿下。けど、なんなんだ今の道化?」

「文字通りの道化であろ。何者かの使い走りじゃの。」

「仰る通りかと博士。けど、何でこのタイミングで?確かにアリスは不在ですが。」

「アリスがいても、道化は投入されたのではないかの。誰かが、余程焦ったのであろう、あのような出来の悪い者を寄越さざるを得ないほどにのう。」

 カミラはコロコロと笑う。


「あっ、あのっ!!」

 サトルが唐突に叫んだ。

「さ、さっきアイツが言ってたことって…?」

「言ってたこと?」

 エドとカミラは顔を見合わせ、それから揃ってサトルを見た。少年の顔は、なぜが悲壮感を帯びている。

「カ、カミラ…ちゃんと、オッサンが…」

「あ〜、アレか。アレはだな…」

 と、エドが説明しようとしたとき。

「事実じゃ。」

 と、カミラは涼しい顔で頷いて見せた。

「妾はエドの小屋で世話になっておる。」

「こ、小屋って、博士!」

「おお、済まぬの。部屋、で良いのか?」

「あー、まあね。って、そこじゃねー!」

 エドは、真っ青になったサトルを見た。

 脱力しつつ震えてもいる。

「その、誤解を招くような言い方!」

「誤解とな?妾は事実を述べたまでじゃが?」

「だからっ!そもそもアンタの公式宿舎は別にあるじゃねーか!」

「それはそうじゃが、そなたと一緒のほうが楽しい故。」

 カミラは満面の笑みだ。

 対してサトルは、その場に崩れ落ちた。

 まるで人生が終わりでもしたみたいに。

「ど、どーするんですかこの事態!?これじゃあまりにも大人げないですよ博士?」

「む?むむ…?」

 カミラは難しい顔でエドとサトルを交互に見た。

「あっ!」

 ぽん、と手を一つ打つ。

 何やら閃いたらしい。が、どう収拾をつけようというのか?


「ただいま♡」

 なんとも妖艶な声と共にドアが開き、スーツ姿の美女が現れた。

「アリス!」

 地獄に仏。

「あーら、どうしたのかしら、ダーリン?私がいなくて寂しかった?」

「だ、ダーリンはやめろって!」

「うふふ。」

 アリス=ラグナロクは一同を見回して笑みを浮かべた。

「とりあえず、お茶にしましょうか♡」


お付き合い頂きありがとうございます。

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