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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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⑥長いモノには巻かれちまえ

1時間ばかり後。

エドとカミラはとある邸宅の門の前にいた。

「だから、何度も言ってんだろ、ああ?」

半ばヤケで声を張り上げるエド。

カミラは無言でその横に立っている。

影みたいにひっそりと。

「実の娘が父親に最後の別れがしたいって、そう言ってるだけだろが!」

「そう言われましても。」

インターホンから聞こえる声は落ち着き払っていた。

それどころか、むしろ退屈そうだ。

まあそうだろうな、とエドは内心思う。

有力者が死ねばどこからともなく、自称親族とかが湧いてくるものだ。

大抵は端金目当ての有象無象だから、無視するのが当然の対応なのだが、ラグナロクの仕込みはそう簡単にあしらえるようなものではない。

「ハナシになんねえなぁ。」

エドは大きくため息をつき、傍のカミラに顔を向けた。

「お嬢。埒があかねえや。こうなったら出るとこへ出て、正統な権利ってヤツを主張しようぜ。」

澄んだ少女の声が答える。

「そんな。私はただお父様に一目お会いしたかっただけなのに…。」

〝ちょ、ちょい〜っ?ま、待ちやがれってんだ!!博士フツーに話せるんじゃねーか!しかも演技うますぎるとか、そりゃ反則だろがっ!?〟

神秘的な藍色の目から、一筋の涙が白い頬を滑り落ちる。

カミラが正真正銘の化け物であることを知っているエドでさえ、ワタワタするほどの可憐さだ。

〝魔族恐るべし!〟

と、感想が口から漏れかけたが、どっこい今は仕事中である。

平常心!

それあるのみ!よっしゃあ〜っ!

ポケットを探って、アリスに渡された品を取り出した。

必要とあれば、どんな演技もやる。

そうでなければ、司法省特別捜査官になど務まらないのだから。


「お嬢にはこれがあるだろ?DNA鑑定の結果とコレを持って裁判所に行こうぜ。」

わざとその〝証拠の品〟を手のひらに載せてカミラに差し出した。

中の人間が誰にせよ、とりあえずはこの品物に注意を引きつけるためだ。

「お父様にいただいたものは、もうこれだけね…。」

カミラが思い入れたっぷりにそれを見つめ、手に取る。

「お父様…。」

切ない吐息と共に頬に押し当て目を閉じた。まるで映画のワンシーンである。

彼女の手にあるのは精巧な装飾を施したブローチだった。

プラチナの台座に嵌められているのは大粒のブルーダイヤである。ホンモノなら値段のつけようもないシロモノだ。

無論、形見の品であるわけはないのだが、この石は正真正銘のブルーダイヤに間違いない。

かつてダイヤ鉱山のあった惑星ローザロープは、ジーベン家、つまりこの屋敷の主人の一族発祥の地である。

良質な原石を産出することで有名だった鉱山は、100年近く前に採掘を終え、今ではただの岩山である。

原因は資源の枯渇。

ダイヤは掘り尽くされたのだ。


インターホンの向こうの誰かはしばし沈黙した。

家令なのかもっと格下の使用人なのかは定かでないが、ジーベン家傘下には今も宝石を手がける企業がある。

ジーベン家のシンボルはブルーダイヤモンドであるから、上級使用人なら多少の目利きが出来ても不思議はない。

仮にそんな能力がなくとも、カメラズームした宝石をAIに鑑定させれば良いのだ。

ジーベンとブルーダイヤの関係を知ったラグナロクが用意したのは、あり得ないほど上質なローザロープ産出のブルーダイヤだった。

ジーベン家が絶対無視できないエサだ。

効果はすぐに現れた。

音もなく、門は開かれたのだ。

「まっすぐお進みください。」

スピーカーからは、さっきとは違う男の声が流れ、2人は門の中に足を踏み入れた。


門と玄関の中ほどで2人を出迎えたのは、落ち着いた佇まいの中年男性である。

「当家家令のミュラーと申します。先ずはこちらへ。」

非の打ち所がない所作と、穏やかだが威厳さえ感じさせる態度だ。

昨今のリマノでは、人間の家令を置くなどとんでもない贅沢の部類である。

ましてこのように洗練された物腰の人物など、どんな高給で募集してもおいそれとは見つかるまい。

それに、この広い敷地だ。

他の惑星にはこの1万倍の大邸宅とか宮殿は珍しくもないのだが、ここはリマノである。

連邦中枢を担う首都リマノとは、つまりこの惑星自体の名であり、唯一の都市の名でもある。

更にその中心である三権の中枢『宮殿』からさほど離れていない場所に、これほどの邸宅を構えるには、天文学的維持費がかかる。しかも、外国出身者が不動産を所有するには極めて高いハードルがあり、金銭だけではどうにもならないのである。

故ジーベン氏の先祖は、確かに大物だったようだ。


「さて。お嬢様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

家令ミュラーの慇懃な問いかけに、カミラは頷いた。

「私はレア・マグシー。トゥリス・マグシーの娘です。」

「…なるほど。お母様のお名前はお聞きしたことがあります。」


その名前を持つ女性は実在した。

ただしラグナロクによれば既に故人だ。

短い期間だが、彼女はケン・ジーベンの恋人だった。

彼女がジーベンの子を妊娠して出産したことも本当だ。だが、その後母子ともども遠い土地の政変に巻き込まれて命を落としている。

出産前に、様々な偶然が重なり、ジーベンと恋人は離れ離れとなってしまった。

そのせいでケン・ジーベンは、娘レアと直接対面したことはなかったらしい。

ただ、恋人に家宝のブルーダイヤを贈ったのは事実である。


「それってかなり有名な宝石なんじゃないか?ってこたぁよ、別の石じゃすぐにバレんじゃね?」

エドの心配を、アリスは一笑に伏した。

「心配無用よ。このグレードの石が他にあるなんて、ジーベン家では考えもしないはずよ。実際はジーベンの家宝より、これの方が上質なくらいだわ。」

「あ〜。聞かない方がいいよな、そいつの出どこ。」

「ちょっとお借りしてきたの。大丈夫、絶対バレたりしないわ。」

にっこり笑うアリスの、その笑顔が怖い。

借りてきただと?

国宝クラスの宝石をか?

普通そういうのは博物館とかにありそうなものだが…?

ま、エドとしては簡単にバレない品であることさえわかれば十分である。

君子危うきに近寄らずだ。

なんせアリス=ラグナロクの倫理観ときたら、人間とはどこかズレているのだ。

〝バレなきゃなんでもありってか?どーなんだソレって!?〟

そんな疑問を抱いたことは一回や二回じゃない。

だけど。

ここは黙って、長いモノに巻かれよう。

うん。逆らってどうなる相手じゃないし。

そして、ラグナロクはミスを犯さない。

それは、今回も難なく証明された。


次回はいかが相成りますか。

お付き合いいただけたら嬉しいです。

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