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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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35 エドvsアリス

 尚も連絡先を聞き出そうとした男を受け付け嬢から引き離し、ほとんど引きずるようにしてエドのオフィスまで連行したのはアリスだった。

 アリス・デュラハン監察官は、このフロアでは最も階級が上だ。

 実質、エドのバディではあるが、特別捜査官及びその上司らを指導監督する立場でもある。だから事態の収集は彼女の役目な訳だ。


 さて挨拶もそこそこ、受け付け嬢に未練たらたらのシド・パースを座らせて、まずはじっくり観察する。

 ガタイはいい。リュウほどではないものの、上背はある方だ。そして、胸板の厚さと来たら、人間というより人型のマッチョ魔獣並みである。当然、筋肉も充実している。服の上からでも、僧帽筋や大腿四頭筋の形まで見てとれそうだ。

 アリスならば簡単に制圧可能だが、あの場にいた他の連中では難しいだろう。

 エドでも、全力で掛からなければ返り討ちになりかねないと思われる。

 どこかの鉱山奴隷めいた体の上には、明るい金髪の頭が乗っていた。人懐っこそうな、大きな目は淡い茶色。

〝しかしこれはコンタクトか。〟

 本来の色はもっと薄いようだ。出身地によっては、リマノの日差しに耐えられないことがある。そうした者は特殊なカラーコンタクトレンズで目を保護している。

 顔の作りそのものは中々整っていた。しかし、どこからどう見ても、名門侯爵家の後継者には見えなかった。

 鉱山奴隷か、あるいは、基本的な機械化さえまだの、辺境の農民か。

〝なるほどな。お高いリマノ貴族サマ向きじゃなさそうだ。〟 


 リマノ貴族は公式の身分ではない。貴族制度が完全に廃止されてから、すでに数百年。

 しかし、かつて貴族院と呼ばれていた元老院は、今も連邦最大の政策決定機関だ。

 流石に現在の議員は全員が元貴族というわけではないものの、リマノ貴族社会は厳然と存在し、閉鎖的権力機構として連邦に君臨し続けている。

 彼らの力を封殺できるのはただ盟主のみ。今回のハルマゲドン回避のため、本来ならばもっと早く盟主の就任要請をしなければならなかったのに、それが遅れに遅れたのは、リマノ貴族らを中核とする経済界のせいだと言われている。


 まあどちらにしても、エドはリマノ貴族が嫌いだ。特に高位貴族など皆殺しにした方が、世の中のためであると思う。

 しかし。

〝コイツ、かなり毛色が違う感じだぜ。アリスが言った通りだ。〟

 これでは色々と苦労が絶えまい。良くぞ今まで生き永らえたものだ。

 リマノ貴族のお家芸の一つに、暗殺がある。例えば現在の盟主には、ただ1人の正妃しかいないが、彼女を狙う暗殺の試みの80%以上はリマノ貴族の仕業だろう。

 一族から側室でも出せればそれは末代までの勲章となるのだ。

 まして正妃なら。

 だから、邪魔者は消す。

〝ご苦労なこった。千絵ちゃんにかすり傷でもつけたら、一族もろとも瞬殺されかねないってのによ〟

 エドは、第15代連邦盟主『紫の宮』ことリュウの性格をかなり把握している。

〝アイツはマジでヤバいぜ。〟

 盟主正妃お披露目の場で、彼はリマノの三大貴族の1人を処刑した。

 招かれた多数の有力者らの目の前で、自ら剣で斬首したのだ。それは立派に理由のあることだったし、エドとしては何の不満もないのだが。


〝けどよー、千絵ちゃんが止めなきゃ、あと50人はその場で殺る気だったってのは、オレでも引くぜ。まあ、その方が風通しは良くなっただろうがな。〟


「それで、あなたは彼女に謝罪する意思はあるのかしら?」

 アリスの問いに、シド・パースはキョトンとした目を向けた。

「謝る?なんでだ?」

「彼女は嫌がっていたわ。」

「あー。」しゅんとして、魔獣めいた男は俯いた。

「あの、俺はよぉまだ慣れてなくて。そのう、こっちの流儀って奴によ。そうか。あの子、嫌がってたのか…。悪いことしちまったなぁ。」

 どこの訛りか、連邦標準語ではあるものの、ところどころ聞き取りにくい。

「ちなみに。あなたのいた場所では、本気で嫌がるってどういう態度かしら?」

「そりゃよう、俺だってツラを叩かれるかタマを蹴り上げられりゃしつこくはしねえんだ、うん。」

「それは、リマノ流とはかなりかけ離れているわね。郷に入りては郷に従えっておそわらなかった?」と、アリス。態度は氷のようである。シド・パースは、ますますしょげ返って、椅子に縮こまった。

 エドは何だかこの男が気の毒になってきた。同時に疑問も湧く。

『なあ、アリス。なんでまたおエラい侯爵閣下はこの男を後継者なんぞにした?』

 内緒話モードで尋ねてみた。

『確かに不可解ね。頑丈そうだから、対暗殺向きではあるけど。』

『ふむ。それと、なんでコイツ、リマノ貴族になることを承諾したのかな。』

『え?それはもちろん、お金と権力、つまりはステータスでしょ。』

 それのどこが不思議、と言わんばかりの答えである。

『いや、ラグナロクよ、妾もそこは不思議じゃ。』

 突然内緒話に割り込んできたのはカミラだった。

 エドには大した驚きはない。

 アリス=ラグナロクとカミラの間で意思疎通が可能であると知った時から、どうせこんなことだろうと思っていたからだ。

 カミラは生身の生き物で、アリスはそうではないと言うものの、いずれ劣らぬ化け物同士である。彼女らの前ではエドなどただの実験動物扱いだ。

 そう思うと、ますます目の前のシド・パースに親近感が湧く。

 勝手に内緒話モードで会話を始めた2人を尻目に、エドはシド・パースに尋ねた。

「それで?」

「は?」

「アンタ、何故オレを指名したんすか?」

「あ…。」

 相手は柄にもなく口籠る。

「そ、その…。」何か話しかけて、さらに躊躇する。よほど言い出しにくい様子だ。

「あんた、えーっと、部署間交流システムってやつを利用して、司法省に来たわけだと、デュラハン監察官に聞いてっけど。」

 そう。そこまでは聞いた。だが、アリスは指名があったとは言わなかった。

 アリスとカミラは2人の内緒話をやめて、興味深々の様子でエドを見つめている。

『エド、あなた何故指名があったと知ってるのかしら?』

『お前さんのやり口は知ってっからよ。』

『答えになってなくてよ?』

『せいぜい悩め。』

 エドはニヤリと笑って一方的に内緒話を遮断した。実に気分が良い。大体、アリス=ラグナロクと自分には、巨大すぎる情報ハンディキャップがあるのだ。

 情報だけならまだいい。

 ワンマンアーミー・アリスと戦って勝てるワケがない。

 アタマもカラダも無敵のAIの能力ときたら、完全にチートである。

 たまにはこのくらいのリベンジがあったっていいだろう。

 チラッと見たら、アリスが完璧に無表情になっている。怒らせたか?

〝お〜怖!〟

 怖いのは事実だが、それ以上に気分が良かった。


「あ、あんたなら、俺の望みを叶えてくれそうな気がしたんだっ!」


 出し抜けに、男が吠えた。

 エドとアリスは、反射的にシド・パースを見た。意味がわからない。申し合わせたように顔を見合わせて頷き、再度シドを見る。〝望み?〟

 彼は顔を真っ赤にして、口を一文字に引き結んでいた。目は大きく見開かれて、まるで自分自身の決意を見つめているようだ。

「アンタの望みってのは?」

シド・パースは。ゴクリと唾を飲んだ。


「俺の母ちゃんを殺した奴を見つけて欲しい。」


いつもお付き合いいただいている皆様に、深甚なる感謝を。

初めてお越しいただいた方、ありがとうございます。次回もどうぞよろしく!

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