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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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33/45

33 感謝の意味

 やがて、カミラが呟いた。

「龍一さまが妾をお呼びにならなかった理由だが…。」

 エドには最初、カミラが何を言っているかわからなかった。

「あの…事件現場で、ですか?」

 砂浜の光景がフラッシュバックする。

 倒れたナサニエルに馬乗りになったライリー。何度も振り下ろされるナイフ。

「そうじゃ。龍一様は、妾ならばナサニエルを生き延びさせることが出来るのをご存知であった。しかしそうなさらなかったのはの、リスベットの願いを聞きいれられたからじゃ。」

「しかしその、千絵ちゃんに聞いたっす。幽霊ってのは、リュウには近付けないんじゃ?」

「通常ならばの。あのお方に近付けば、肉体という鎧を持たぬ存在は、容易く焼き尽くされよう。数百年の時を経た怨霊クラスならば耐えられようが、それとて遠巻きにすくみ上がることしか出来まい。しかし、あの場にはそなたもいた。リスベットはのう、そなたの生気を借りてあのお方に願い出たのじゃ。ナサニエルをこのまま死なせて欲しいと。」

「え、何でオレ?てか、何で死なせろなんですか?」

「…ライリーが犯行に及んだのは、リスベットの画策によるものじゃ。」

「は?だ、だって、リスベットはライリーには見えなかったんじゃ?」

「無論じゃ。だが、リスベットは他人には見えた。そうなるまでに10年以上かかりはしたが、クストー家に因縁のないものになら自分の姿を見せることが出来るようななった。更に、彼女は別の能力も得た。軽い物ならばある程度の距離を持ち運ぶことが出来るようになったのじゃ。だから彼女は、被害者たちに繋がる品物をナサニエルとライリーの周辺に仕掛けた。殊にライリーの目につくようにな。」

「しかし、そもそも被害者たちとナサニエルには接点がなかったはず。何かを見たとしても、関連付けは出来ない。そりゃ雲を掴むような話じゃないすか?」

「それはそうだが、彼女の根気を甘く見てはいかん。忽然と現れる品物を、最初ライリーは家族のものと思っていたかもしれん。じゃが、家から遥かに離れた土地で行われたナサニエルの試合の観戦チケットが次々と現れたなら、まずはそれを持ち込んだのがナサニエルであると考える。初めは気にも留めないが、そのチケットに小さな血液のシミを見つけたら?」

「ナサニエルがケガでもしたと思うでしょうね。」

「はじめはの。したが、どっぷりと血に染まったチケットと共に、一家の誰ともちがう毛髪の束が見つかったら?そしてそれが、ナサニエルの部屋にあったなら?」

「強い違和感、ますはそれですね。」

「そうじゃ。ライリーは家族にあまり興味を持たなかったかも知れぬ。したが、血縁であるナサニエル自身については、違和感を感じてはいたはずじゃ。ナサニエルが壊れていたのか狂っていたのか、どちらにせよライリーは何かを感じていたであろうよ。違和感が疑惑に変わるには、大した時間が掛からなかったであろう。」

「それに、ライリーは警察官です。真面目で粘り強いタイプだ。」

「植え付けられた疑念が芽を出し育った。そうなれば?」

「オレがやったみたいに照会をかけるでしょうね。そうすりゃ疑惑に花が咲くってわけだ。」何てことだ、とエドは思う。

 しかしそのままナサニエルを死なせれば殺された子供達はどうなる?

 リスベットは彼らを闇に彷徨うままに放置したかったのか?

「リスベットは、そなたにありがとうと伝えたのであろ?」

 エドは虚を突かれた。

「はい。そうですが?」

「それにはたくさんの意味があったのじゃ。ます、リスベットはいわゆる怨霊になリ果てておったが、それでも龍一さまに何かを訴えられるほどの力はない。そなたという格好の素材あってこそ可能なことじゃ。」

「はい?格好の素材、っすか?」

「そなたの生気。それを利用するには相性が問題じゃ。偶然ながらそれがピッタリじゃった。」

「あー。トリツキヤスイッテコトデスカ。」

 エドとしては複雑だ。勿論嬉しくはない。どころか、ゾッとする。

「リスベットは、自分がナサニエルを壊したと感じていた。もしもナサニエルが生き延びたら、ライリーが真の動機を話すかどうかは不明だが、仮に話さなければナサニエルは犯行を続ける。リスベットはそれを阻止したかった。」

「あ〜。」

「更にそなたが連続殺人の疑惑について公にしてくれたから、そのことにも感謝していたであろうの。」

「いや、アレは博士が…。」

 マニキュアのカケラに最初に気づいたのはカミラとリュウだし、ギャラリーについてはカミラと千絵である。どちらもエドには知りようもない話だ。

「妾にはマニキュアであるとはわからなんだ。まあそれはさておき。洪水の危機を知らせたリスベットの身を、そなたは心配し助けようとした。家族を失い社会から見捨てられたリスベットを、そなたは体を張って救おうとしたのじゃ。どれほど意外で、そして嬉しかったか。それ故の感謝の言葉じゃ。そなたは誇ってよいぞ。」

 ドヤ顔でそんなこと言われてもな、というのがエドの本音だ。

 幽霊に取り憑かれ、いいように操られていただけの、マヌケな話に過ぎない。

 まあそれでも、これで良かったのかもと思う。これ以上犠牲者は出ないのだから。


「のうエド、妾が興味を惹かれるのは事件そのものではなく、なぜ事件が起きたのかじゃ。何らかの歪みがある日事件の形で表面化する。歪みは、社会のシステムが引き起こしていることもあれば、それとは相容れぬ個人の資質が原因のこともあろう。妾は、この個人の資質に強く惹かれる。妾もまた社会からはみ出した者である故かも知れぬの。それで最近、日記帳に名前をつけた。」

 エドは当惑した。またも意味不明だ。

「何て名前っすか?」

「はみ出し日記。」

「はあ。」

「何じゃその顔は。」

「いやその。意味がわからないんで、コメントしようが…。」

「妾はの、生まれてこの方はみ出しながら生きてきた。ま、これはそなたもであろ。」

「は?」

 一方的に同類認定されても困る。

 魔界の大公は確かに飛び抜けた存在には違いないから、その意味でははみ出していると言えなくもない。

 しかし、エドはしがない公務員に過ぎず、カミラとの共通点は、天涯孤独であることくらいだろう。碌なもんじゃねえし、とエドは内心呟く。

 いとやんごとなき連中の考えることは、大抵奇天烈で独りよがりだ。しかも、カミラときたらどうやらマジらしい。

〝ったく、何考えてんだろうな。〟

「まあ、いいんじゃないですか。多少、はみ出した方が世の中面白い。」

「で、あろうの。」

 何となく妥協した形で話は終わったが。

〝そういやオレの休暇って、どうなったんだ…〟

 気がつけば復職予定日は3日後である。

 またあのウンザリする長い乗り継ぎが待っているし、至急チケットを手配する必要があった。


 結局、休暇には縁のないエド・カリスであった。


二つ目の日記ネタが終わりました。

次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。

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