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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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31 リスベット

「つまりあの〜、オレはあのリスベットって子のユーレイにとり憑かれてエネルギーを吸い取られ、気絶したってことでいいんすよね?んでそのマヌケな話のどこが奇跡なんです?」

 げっそりしたエドをジロリと睨んで、カミラはため息をついた。

「わからぬかの?本来そなたは幽明にある者どもを見ることすら能わぬ。」

「見えなくて幸せですがね〜。」

「そういう意見もあろうがの。したが、本来ならば有り得ぬことが起こることこそが奇跡なのじゃ。よほど強い思いがなければそうはならぬよ。」

「そりゃ、殺人事件の被害者となったら恨みもするでしょうけどねエ。」

「戯言を。」カミラはやれやれと首を振る。エドとしては、何だか馬鹿にされたみたいで面白くない。大体、カミラが何をそんなに気にしているのかさえわからない。

「よいかエドよ、殺人の被害者などいくらもいよう。戦争で戦って死したもの、巻き込まれて命を落としたものも、その無念は計り知れぬ。無念もじゃ。」

 そう言われてみればそうだ。エドは曖昧に頷いた。

「だけど博士…」

「まあ聞くがよい、リスベットという名の娘の無念の意味を。」

「はあ…。」

 そんなわけで、エドはカミラの話に耳を傾けることとなった…。


 リスベット・クストー。元の名はリスベット・アン・キャンベル。

 彼女は、ナサニエルとライリーの父、マイケル・クストーの同僚の娘として生まれた。

 マイケル・クストーとリスベットの父キャンベルはともに警察官だった。殉職した同僚の遺児を、マイケルが引き取ったのである。リスベットの母は彼女を産んでまもなく病死していたし、父母のどちらにも兄弟や親はなかったから、リスベットには引き取り手がなかったのだ。

 天涯孤独な同僚の遺児を引き取る。

 一見美談であるが、内実は美談にはほど遠いものだった。

 まず、キャンベルはクストーのために命を落とす羽目になったらしいのだが、クストーはその原因となた自分の過失を、キャンベルのせいであるかのように偽装した形跡があった。

 後ろめたさもあったのだろう。だから、たった1人残されたリスベットを引き取ると名乗りをあげたわけだ。

 だが、この詳細な事情を家族には話さなかった。いや、話せなかったのだ。

 クストーという男は、端的に言って見栄っ張りの小心者であった。家族に対してすらミエを張り、暴君として振舞っていた。

 金遣いも荒く、時には家族に手をあげることもあった。

 家計はいつも苦しかった。彼の浪費が原因なのだが、そんな事実を本人が認めるわけがない。小遣いに困ると、妻子に暴言を吐き、手をあげた。

 全てはお前たちのせいだとばかりに理不尽極まりない八つ当たりを繰り返し、家の中は次第に荒れ果てていったが、それでもクストーは対外的にミエを張り続けた。

 そんな家に、新たに養うべき子供が増えたのである。自分の身を守ることもできない、小さくか弱い子供が…。

 彼女がクストーの妻子から目の敵にされたのは、言わば必然であった。程なくして長兄ライリーは就学のため家を出た。

 彼は、家の中で何が行われていたかを知っていたはずだ。だが、ナサニエルやリスベットを救おうとはしなかった。

 彼にも言い分はあったろう。

 心理学者や精神科医ならば、もっともらしい説明を加えることもできる。曰く、幼い頃からの虐待によって、ライリーは父に逆らうことが出来ない心理状態に追い込まれていたのだ、と。

 だが、いくらそう言われたところで、ナサニエルやリスベットにとっての事実はひとつ。

 即ち、兄ライリーは自分たちを助けてくれなかった、と。

 また、ナサニエルとライリーの母は無力だった。彼女は夫の言うなりにいつもビクビクしながら生きるタイプの女性で、被害者であると同時に自らも加害者である。

 その陰湿な虐待は、主として1番弱い存在に向けられてきた。

 食事の量を減らす。テーブルマナーにはじまる一挙手一投足に難癖をつけて食事を抜く。初めはその程度だったらしい。

 だがそれは次第にエスカレートしていき、直瀬的な暴力へと発展した。

 リスベットの体には生傷が絶えなかっただろう。実際、遺体の解剖所見には、滑落や死後の獣による損壊では、説明がつかない傷が多数あったことがわかっている。

 それらは衣服で隠れる場所に集中していた。

 そんな行為を行いながら、ライリーとナサニエルの母は、対外的にはリスベットを可愛がるフリをし続けた。マケイン医師の娘とリスベットの交際を後押ししてみたり、流行りの子供用メイクセットを買い与えたりしたのは、罪滅ぼしのつもりでもあったのだろうか。

 外ではこざっぱりとした可愛らしい服を着せ、年齢の割に小柄で細い体については、リスベットの食が細いことを嘆いて見せた。リスベットは、行儀良く寡黙に振る舞うことを強制された。

 もともと聡明で大人しい子供だったが、口数はますます減った。まるで人形のように物静かで存在感の薄い彼女に、注目するものもなく、助けはどこからも得られなかった。やがて彼女は義弟ナサニエルにより殺害されたのだ。


「なんかその。気分の良くないハナシっすね。」

 カミラは頷く。

「さもあろう。我らの世界では、こちらの世界より更に弱肉強食が露骨じゃが、それでも無力なものをいたずらに虐げることは恥ずべき行いとされておる。リスベットの身の上に起きたことに憤るものも多かろう。」

 魔族の基準でもそうなのか、とエドは頷いた。全く胸くそ悪りぃ話だ。

「しかし、リスベットの苦しみはその後も続いたのじゃ。」

「はぁ?」死後も、ということか?なんでそうなる?

「お妃さまが、リスベットと話された。あの子の浄霊を行う際にの。」


まだまだ続きます。

宜しくお付き合い下さいませ。

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