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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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28/43

28 不吉な一致

 翌日は豪雨だった。

 暗い空からとめどなく落ち続ける雨は、この地方のこの時期では当たり前だが、それでも災害の発生を警戒する必要がある。 例年この時期には管内のどこかで水害や土砂崩れが起きるのだ。

 しかし、本署の警察官らは今、天候など気にも留めていないだろう。

 そんな余裕があるはずはなかった。

 昨夜突然、盟主正妃ブリュンヒルデの訪問について打診があって以来、所内は上を下へのパニックに陥っていたのだから。

 打診、と言えば聞こえはいいが、これを断る度胸など、この国の大統領にもあるはずはない。署長は管轄庁の幹部にお伺いを立て、幹部は大臣に、大臣は大統領官邸にと、激震を伴う情報が駆け巡った。各々がピンを引き抜いた手榴弾を手渡されたようなものである。情報は異様な速さでこの各ポイントを行き来し、最終的に応諾の旨が伝えられたのは当然の帰結であった。


「てかよぉ、何でオレ?」

「そりゃ、お前の〝友人〟であるところのブリュンヒルデ妃が、この重大な疑惑の解明に助力したい、とまあそんな触れ込みなわけで。あながちウソではあるまい?」

 だから非公式に、と申し入れたのだが、結局関係省庁の全てを情報が駆け巡ったことになる。

「はあっ?ウソでなきゃいいのか?オレが窓口だとか、聞いてねーってのに!?第一にだな、オレはその、そっち方面はからっきしじゃね?ギャラリーとか全然見えてねーし!」

「諦めろ。残念ながら俺は参加出来ないが、代わりにガーディアンをよこす。カイがいいだろう。博士の手を煩わせるまでもない。」

「ううっ!なんか前にもあったなこういうの。…少尉だったら不測の事態ってヤツにも対処出来るんだろうがよ。」

 こうなったら仕方ない。エドは諦めて腹を括る。

 かくして豪雨の中、盟主妃とその一行は遺体安置室のドアを潜ることとなった。


「しかし、重大事件の疑惑とは…。」

 殺人課の捜査課長が、声を潜めてエドに聞く。かなり困惑の体である。職人気質の苦労人で、連邦ファーストレディの訪問に動じない、数少ない署員の1人だ。

 ナサニエル・クストーに掛けられた、重大な嫌疑の内容については〝被害者不明の殺人〟とのみ伝えてある。これでは困惑するしかないだろう。

 気の毒に、とエドは思う。

 しかも、まもなくイヤな事件を背負い込むことになるだろう。その点は確信していた。

 エドは、死体なら飽きるほど見て来たが、〝死者〟を見たことなどない。感じたこともない。だが、千絵の能力については微塵たりとも疑っていなかった。以前はそれに付き合って、いや付き合わされて酷い目に遭ったこともある。

 その時エドとともに巻き添えを食らったのが、今日のガーディアンであるカイ、つまりバルト少尉だ。カイはリュウの側近だから、つまり人間ではない。


 あの時、リマノは大騒ぎだった。数万の魂が一気に昇天し、強大なドラゴンの結界がその衝撃から人々を守ったという。

 空に向けて立ち上がった壮麗な光の柱は、100キロも離れた場所から目撃され、降り注ぐ星の雫にも似たドラゴンシールドが地上を覆ったとのことだが、それらは全てごくわずかな〝能力者〟たちの目撃談に過ぎない。

 エドはまさにその現象の中心に居合わせたにもかかわらず、何も見ず何も感じなかった。

 ただ、事後に周囲の空気が異様に爽やかに感じられたことだけ記憶していた。


「理不尽だ…。」などとボヤいたところでどうにもならない。

〝ま、何があろうとオレに出来ることはないから、逆に気楽ではある、うん〟

 物は考えようだ。そうやって丸投げすると、気分はかなり楽になった。とはいえ。

 ナサニエルが最悪のシリアルキラーだったとして、おそらくは長い年月に渡り彼の犠牲となった子供達の大半は、発見されてすらいないのだろう。


 行方不明として処理され、親や近親者、関係者の必死の捜索も虚しく。ただその生存を信じている家族は絶望と希望の間を絶えず振り回されて、知らず知らず自らの人生さえ左右される。深い懊悩と孤独。自分を責めてしまう者もいるだろう。

 事件として認知されていないとは、そういうことだ。理不尽の極みであるが、真相が明らかにされないまま、行方不明の事実までが年月に埋もれてしまうこともある。

 戦死者についても同じことが言える。いつ、どこで、どんなふうに亡くなったのか知りたい遺族の切望が、叶えられるとは限らないのだ。世間が忘れ去っていく、そんな有象無象の〝心〟までを救いたいと、せめて納得できる情報を与えたいなどとバカなことを考えるから、リュウの仕事は終わらない。〝ほんとバカだぜ、あのヤロー〟

 と、ため息混じりのエドは、自分も同類であることには無自覚だ。


 さっきの捜査課長がエドに耳打ちした。

「仰っていたデータベースにはアクセス済みです。照合も。」と示されたタブレット端末のディスプレイをチラッと見て、エドは頷く。課長の顔は困惑半分、悲壮感半分だ。無理もなかった。

 データベースの内容は、まず特定期間の行方不明者情報である。フィルターは年齢12歳以下、性別不問。そして、ナサニエルが所属していたスポーツチームの遠征記録。短期滞在した場所、宿泊施設の位置。

 ナサニエルはスター選手だ。まだ15にもならない頃から、さまざまな土地へとチームと共に出かけていた。

 この二つのデータを照合するだけで、かなりキナ臭い一致が認められていた。

 それぞれの地点の交通アクセスなど、更に細かいデータを使用し、絞り込みした結果が、捜査課長の悲壮感の原因である。課長には誠に気の毒と言うしかない。

 それはエドの確信を強力に裏付けるものだったのだから。


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