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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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27 シリアル・キラー

「何か嫌な話を聞いた気がします、博士。」

 食堂のテーブルにあのピンクの日記帳を広げて、例の如く誰も(ラグナロクてさえも!)読めない文字を書き綴るカミラ。

 彼女をボンヤリ眺めながら、夕食を待つエド。今は2人だけだった。

 超多忙のリュウは、一旦リマノに戻って行った。そのうち夕食を作りに帰ってくるはずだが、いつになるかは定かでない。

「ナサニエルは、姉リスベットを見ていないと嘘をついた。じゃあ、その理由は何だったかというと、まああまり考えたくないですよね。」

「そうよの。」

「オレの推測通りとしたら、その件が今回の動機ってコトですかね?」

 兄ライリーはナサニエルを殺害した。

 15年前、ナサニエルがリスベットの死に何らかの、おそらくは決定的な関わりを持っていたとして、それが今回の原因なのかはわからない。時間が経ち過ぎている。 そもそもライリーはキャンプに行ってすらいない。リスベットの遺体を解剖したマケイン医師も、今回ナサニエルの体からあのカケラが出るまで、偽証に気付いていなかったのだ。

 8歳の子供の口から出た〝記念碑〟という言葉にはかなり違和感を抱いていたようだが…。

「ナサニエルは欺瞞に長けた男だったようじゃの。」

「そうっすね。かなりヤバいタイプだ。」

 人気者のスポーツ選手。爽やかな印象の好青年。エドは、そんな表の顔を持つ犯罪者を何人か知っている。横領、詐欺、暴行、殺人。犯罪の態様は様々だが。

「ナサニエルみたいに一見犯罪者っぽくないタイプは、繰り返すヤツが多い印象ですね。誰にも疑われないから、いかにもってワルとは違って獲物を物色し易い。」

「しかも捕縛されにくい、か。繰り返し行うならエスカレートし易いの。手口も熟練しようし。」

 エドは頷いた。たしかにそういう傾向はあるだろう。しかし、だとすると…。


「ギャラリーがの。」唐突にカミラがつぶやいた。

「はい?ギャラリーですか?」

「遺体安置室にいた。」

「は?」

 意味がわからない。確かにあの時、カミラがギャラリーという単語を口にしたのは覚えているが。

 ま、まさか?

「博士、それはその…?」

 エドは恐る恐る尋ねた。アッチ方面はヤバい。相手が犯罪者なら魔法使いだろうが妖物だろうが区別しないエドであるが、それは相手が生命体である場合限定だ。エドが何より苦手なアッチ方面とは…。

「そなたら風にいうならば、〝霊〟じゃの。幽霊ともいう。」

「ヒッ!」ヘンな声が出た。無意識に身体がのけ反る。

「なんじゃ?」

「は、博士。その話やめませんか?」

「そなたが聞いたのであろ。…子供たちだった。数人のな。」

 カミラの平板な声音の中に、エドは怒りを感じ取った。

「子供たち…ですか。まさか!?」

「そうじゃ。妾は死者の声を聞くことは出来ぬが、あのような存在は数多く見てきた。間違いなかろう。」

 シリアル・キラー!

「最悪だ…。」

 子供だけを狙う連続殺人犯。

 ライリーが弟の正体を知ったなら、殺害の動機としては十分かも知れない。

 本来、法の裁きを受けさせるのが、法治国家の司法警察員としては当然である。しかしナサニエルの犯罪が暴かれる時、家族や血縁者の全ては、生涯消えない烙印を押されてしまうだろう。

 ライリーが突如精神の均衡を失って、ナサニエルを殺したとでも思わせた方が、まだマシと考えた可能性がある。


「博士、そうだとしたら何故あの兄貴は弟の犯罪に気付いたと思われます?」

「さあのう…。疑いと確信のプロセスには何らかのキッカケはあったのじゃろうて。しかし、ライリーは決して話すまい。」

「そうでしょうね。だが、このままじゃナサニエルの犠牲になった子供らは、その、殺され損っつーか。」

 カミラは頷いた。

「不憫じゃの。ナサニエルはラクに死にすぎじゃ。妾を呼んでくれさえしたら生き返らせて、死よりも苦しい目に合わせられたものを…。」うっすらと笑いを浮かべた口元が怖い。怖すぎる。

「しかし何でリュウはあの時、博士を呼ばなかったんだろ?」

 その時、突然声がした。

「さあな。何でだと思う?」

「リュウ!いつ帰った?」

「さっきから居た。」

「おまっ!」文句の一つも言おうと身構えたエドだったが、リュウの後ろからひょこっと覗いた小さな顔を見て呆気に取られた。

「千絵ちゃん!」

「ハーイ、エドさん。」

 カミラがぱっと立ち上がった。

「龍一さま!お妃さまへの接近はお控えくださいませとあれほど…!」

「いやまあ、これは俺から接近したんじゃなくて。」

 カミラはじろっと千絵を見た。目付きが剣呑である。

「誠にございますか?」

「だって!2人ともズルいんだもん。龍ちゃんたら最近はご飯なんか、滅多に作ってくれないのに!忙しいとか言って。だから私も泊めてよね、エド。」

「だそうだ。」ニヤニヤしながら彼は続けた。

「それで、さっきの話だが、千絵ならギャラリーと会話ができる。」

「あ…!」

 そうだった。龍一の妻、千絵・ブリュンヒルデ妃は史上最強の〝聖女〟である。元からそうだったわけではなくて、婚姻後その権能が強大なものとなったのだ。これは彼女の体に刻まれた保護の呪法の副産物らしいが、何故そうなったかは、呪法を刻んだリュウ本人にもよくわからないらしい。

 ただ、死者の声を聞くことは生来彼女に備わった能力である。それ自体非常に希有な力だ。その力が更に増した今、彼女ならば死者との会話が可能である。

「明日、連れて行ってね。まだ遺体が見つからない子がいるなら、何とかしてあげたいの。」

「ああ。しかしその…。」

「なあに?何かまずいことでもある?」

 小首を傾げて尋ねられ、エドは口ごもった。

 マズいことならある。大アリだ。

 今、彼女はノーメイクにカジュアルな装いで、まるでティーンエイジャーにしか見えないものの、その顔はあまりにも有名だった。どこかリュウに似た、整い過ぎて冷たい印象の顔は、しばしば〝アイスドール〟または〝クリスタルクイーン〟と称される。

「だってよ、何て名乗る?」確か昨日もリュウ相手に同じようなことを言ったよな、と思いながらエドは尋ねた。

「ブリュンヒルデでいーんじゃないかな?ねえ龍ちゃん?」

「好きにしろ。」

「い、いやリュウよ、それって無茶なんじゃね?」

 ここは辺境の小国に過ぎない。盟主正妃ブリュンヒルデどころか、リマノの木端貴族の訪問ですら大事件となる。

「第一ここにゃガーディアンもいねー。」

 リュウは妻を溺愛している。だから彼女はいつも、化け物どもの過剰戦力に守られている。

 一体今までどれほどブリュンヒルデ妃暗殺の試みがあったかは知らないが、その全てが返り討ちにされたのは間違いない。

「妾がおるわ、エドよ。」

 と、カミラ。

「それに、夜は俺と一緒だ。」

 妻の手の甲に素早くキスしてリュウ。その手でピシャリと頬を張られたのが、むしろ嬉しそうである。

「おかしいんじゃないの、龍ちゃん?」

 と、氷の眼差しで睨みつけられながら、

「会いたかったよ♡」と、うっとりした彼の表情にエドは呆れた。

「あ〜。そうだよな。どうせ誰もオレの意見なんざ聞いちゃいねーわな。知ってたぜ、ヘンタイ中年。」

「僻むな独身。」

「ウッセーわ!オメーオレよか歳上だろ。リッパに中年じゃね〜か。」

「人間見た目が肝心だ。」

「黙れ人外!人間のフリすんな!」

「仲の良いことよの。」カミラの生暖かい視線にも笑顔で頷くリュウである。妻に会えたことがよほど嬉しいらしい。

「ま、先ずはメシだ。仕込みは終わってるから、そう待たせない。」

「さんせー!」千絵が顔を輝かせ、不服そうだったカミラの表情が和む。

 餌付けか!これは餌付けに違いない。

 エドは不本意だったが、自分も既に餌付けされている。どこまで腹黒いんだ。

 まあそうでもなければ元老院を手玉に取るなど不可能だが…。

まだまだ続きます。

どうかお付き合いのほどよろしく。

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