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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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②てか、何でオレ?

エドとカミラは街の散策に出ました。

が、受難体質のエドのこと。

平穏な展開などないでしょう。

いや、わかっちゃいたさ。

リュウの野郎も共犯に違いねえってコト。

んなこた初めから自明だろが。

大体あの腹黒ヤロー、人使いが荒過ぎだっての!

テメェがガイキチのワーカホリックだからって、オレまでそうだと決めつけてんじゃねえっ!


「大きな独り言じゃの。」

澄んだ少女の声が、エドの独白を遮った。

当人は声に出ていたなんて、気付いてもいなかったのだ。

「龍一さまは確かにワーカホリックではあろうが、そなたも良い勝負と聞いた。」

〝口に出してたかオレ。やべえ、まだ続いてた二日酔い。〟

後悔するが後の祭りである。

〝ん?龍一サマって、リュウを名前で呼ぶのは身内か側近だけだが?このヒトなんかヤツと因縁があるのか?ま、まあそれはおいとくとして〟

らしくもなく慌ててフォローを試みた。

「あ、あのう。」

「何じゃ?」

「アナタサマをどうお呼びしたら…?」

「妾をか?好きに呼ぶがよい。」

そう言われても返事に困る。

リュウを信じるなら、この少女は何千年生きているか定かでない化け物である。

そしてリュウはその手の冗談は言わない。

「か、カミラさまとか、ヴォルティス博士とか」

「良きにはからえ。」

「あ、んじゃ博士、で。」

「苦しゅうない。」

しばし沈黙が流れる。

場所はリマノの繁華街、ワーズライデン地区にある流行りのカフェ。

ミリタリーパンツにサングラスの小男と、紺のシルクサテンのドレス姿の美少女の取り合わせは、他の場所なら浮きまくるだろう。

しかし、ここは何でもありの魔都だ。

どんなに奇抜な衣装も、人目を引くには足りない。

会話の内容も然り。

誰が何を口走ろうが気に留める奴はいないだろう。

そこここでは配信用コンテンツの撮影も日常的に行われている。

映画やドラマの撮影クルーの姿も珍しくはないのだ。地区全体が広大な撮影所のようだと評されることもある。

観光客も多い。

この街区は、数百年前の佇まいそのまま、旧い石造りの建物と石畳からなる風致地区である。

だから古風で高価なドレスをまとうカミラの姿は、まるでこの街の一部としか見えなかった。

一幅の絵画のようだ。

美男美女で溢れたこの街でも、彼女の醸し出す重厚な雰囲気は独特である。

〝化け物にゃ違いないが、確かに別格ではあるな。さすが異世界のVIPだぜ。だけど、なーんか違和感が?〟

エドはまじまじと彼女を観察して、ある結論に達した。

あり得ないとは思うが、いやしかし、これは…。

「博士。」

「なんじゃ?」

「酔ってます?」

「んあ…、よくわかったな。」

「いつ飲んだんです?」

断言できるが、エスコートが始まってから、酒なんぞ飲んではいないはずである。

だがしかし、カミラの白い頰がほんのりとピンクに染まり、大きく神秘的な濃紺の瞳が潤み始めたのはほんの数分前だ。

カミラの前のテーブルには、ケーキと飲み物のセット。

ん?

ケーキといえば…?

〝いや、これはいまオレも食った。サバランとは違う〟

果物かなんかのリキュールは入っていそうだが、下戸のエドでも問題ない量だ。

しかし。カミラの目はなお一層とろんとしてくる。

いや、ヤバいよな、コレ?

SPもいないこんな街中で、国賓クラスのVIPを酔わせるなんぞ、あり得ない不祥事である。

しかもその外見が美少女ときた。

これはもう、モラル的にどうかってハナシだ。

「博士?」

「ん〜?」

「ん〜じゃなくて!アルコールに酔ってるわけじゃなさそうですね。」

「妾はアルコールでは酔わぬ。」

「まさか、砂糖で?」

「正解じゃ。お主なかなかやるの。」

ケラケラと笑って、カミラはそのままテーブルに突っ伏した。

「んなっ!は、博士?博士って、ちょっと起きて下さい!」

「ん〜、心配はいらぬぞえ。妾を害せるものなどここにはおらぬゆえ。少し寝る。あとは良きにはからえ。」

エドはしばし茫然自失した。

魔界。リュウはそう言っていた。

つまり、彼女は魔族に間違いない。

魔族が実在していただと?

いやまあそれは一応、アカデミーとかで習いはしたが…。

つまりは少女の姿だろうが砂糖に酔おうが、魔族は魔族。

人智を遥かに超えた脅威である。

しかも、魔界の支配者の右腕だと?

御伽話じゃあるまいし。

いや、リュウが絡んだ日には何でもありだ。

あの男、本人の奥方に言わせれば『アル中ワーカホリックのヘンタイ色魔』だし、エドとしては、ああ見えて不器用過ぎる真面目人間だとは思う。

しかしこの魔都、リマノそのものが人の形を取ればああなるとも思うのだ。

煌びやかで華やかな表の顔と、底知れぬ闇に満ちた裏の顔。

その二つを体現する妖魅の化身。

ぼんやりとそんなことを考えながらカミラを眺めていたら、彼女が何か呟くのが聞こえた。

声が小さ過ぎる。

突っ伏した彼女の口元に耳を寄せた。

「混じりものがいる。」

「近くですか。」

「妾の背後、20メートル。」

エドは該当方向に目を走らせた。

と言っても、エドの肉眼はまともに機能しない。

両眼とも子供の頃の火事で視力を失い、白濁したままだ。

今はサングラスに仕込まれたカメラで光を感知し、その情報を脳に直接送ることで視力の代用としている。


「女性。20代くらい。」

エドの囁きに、カミラは頷いた。

彼女には視えているのだろう。

カミラが自分の周囲のある範囲まで、360度の視界を持っているらしいことは、エドは遠に気づいていた。

まあ魔族ならアリなんだろ、程度の認識だったが。

「しかし、妙じゃの。」

「何がです?」

「その女性、意識がないようじゃ。」

「な…?」

エドはハッとした。

問題の女は立っている。

だがしかし表情は虚ろで、言われてみれば奇妙なほど生気がない。

ならば立っていられるのは…?

「…!」

考える前に体が動いていた。

一回の動作でテーブルと突っ伏すカミラを飛び越え、エドは走る。

間に合うか?!

そう、辛うじて間に合った。

仰向けに昏倒した女の頭部が、固い敷石に叩きつけられる寸前、エドの腕が彼女を抱き止めたのだ。

〝ふう。ヒヤッとさせやがるぜ。〟

なるほど女には意識がないようだ。見開かれたままの目が異様だが…。

だが、この顔は?

〝見たことがあるな〟

綺麗な顔立ちの女だった。

流行りのパウダーピンクの髪色に、長いまつ毛までがきっちり同じ色味に染められている。

お高いサロンで、金と人手をふんだんにかけて手入れされた顔。

「手当が必要じゃの。」

耳元でカミラの囁きが聞こえてギョッとした。全く気配などしなかったが…。

「どこか寝かせられる場所に運ぶがよい、エドよ。妾が診よう。」

「仰せの通りに、博士。」

まあ、逆らうだけムダってことだ。

長いもんには巻かれた方がラクだし。

エドは素直に女を抱き上げた。


次回もお楽しみに。

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