②てか、何でオレ?
エドとカミラは街の散策に出ました。
が、受難体質のエドのこと。
平穏な展開などないでしょう。
いや、わかっちゃいたさ。
リュウの野郎も共犯に違いねえってコト。
んなこた初めから自明だろが。
大体あの腹黒ヤロー、人使いが荒過ぎだっての!
テメェがガイキチのワーカホリックだからって、オレまでそうだと決めつけてんじゃねえっ!
「大きな独り言じゃの。」
澄んだ少女の声が、エドの独白を遮った。
当人は声に出ていたなんて、気付いてもいなかったのだ。
「龍一さまは確かにワーカホリックではあろうが、そなたも良い勝負と聞いた。」
〝口に出してたかオレ。やべえ、まだ続いてた二日酔い。〟
後悔するが後の祭りである。
〝ん?龍一サマって、リュウを名前で呼ぶのは身内か側近だけだが?このヒトなんかヤツと因縁があるのか?ま、まあそれはおいとくとして〟
らしくもなく慌ててフォローを試みた。
「あ、あのう。」
「何じゃ?」
「アナタサマをどうお呼びしたら…?」
「妾をか?好きに呼ぶがよい。」
そう言われても返事に困る。
リュウを信じるなら、この少女は何千年生きているか定かでない化け物である。
そしてリュウはその手の冗談は言わない。
「か、カミラさまとか、ヴォルティス博士とか」
「良きにはからえ。」
「あ、んじゃ博士、で。」
「苦しゅうない。」
しばし沈黙が流れる。
場所はリマノの繁華街、ワーズライデン地区にある流行りのカフェ。
ミリタリーパンツにサングラスの小男と、紺のシルクサテンのドレス姿の美少女の取り合わせは、他の場所なら浮きまくるだろう。
しかし、ここは何でもありの魔都だ。
どんなに奇抜な衣装も、人目を引くには足りない。
会話の内容も然り。
誰が何を口走ろうが気に留める奴はいないだろう。
そこここでは配信用コンテンツの撮影も日常的に行われている。
映画やドラマの撮影クルーの姿も珍しくはないのだ。地区全体が広大な撮影所のようだと評されることもある。
観光客も多い。
この街区は、数百年前の佇まいそのまま、旧い石造りの建物と石畳からなる風致地区である。
だから古風で高価なドレスをまとうカミラの姿は、まるでこの街の一部としか見えなかった。
一幅の絵画のようだ。
美男美女で溢れたこの街でも、彼女の醸し出す重厚な雰囲気は独特である。
〝化け物にゃ違いないが、確かに別格ではあるな。さすが異世界のVIPだぜ。だけど、なーんか違和感が?〟
エドはまじまじと彼女を観察して、ある結論に達した。
あり得ないとは思うが、いやしかし、これは…。
「博士。」
「なんじゃ?」
「酔ってます?」
「んあ…、よくわかったな。」
「いつ飲んだんです?」
断言できるが、エスコートが始まってから、酒なんぞ飲んではいないはずである。
だがしかし、カミラの白い頰がほんのりとピンクに染まり、大きく神秘的な濃紺の瞳が潤み始めたのはほんの数分前だ。
カミラの前のテーブルには、ケーキと飲み物のセット。
ん?
ケーキといえば…?
〝いや、これはいまオレも食った。サバランとは違う〟
果物かなんかのリキュールは入っていそうだが、下戸のエドでも問題ない量だ。
しかし。カミラの目はなお一層とろんとしてくる。
いや、ヤバいよな、コレ?
SPもいないこんな街中で、国賓クラスのVIPを酔わせるなんぞ、あり得ない不祥事である。
しかもその外見が美少女ときた。
これはもう、モラル的にどうかってハナシだ。
「博士?」
「ん〜?」
「ん〜じゃなくて!アルコールに酔ってるわけじゃなさそうですね。」
「妾はアルコールでは酔わぬ。」
「まさか、砂糖で?」
「正解じゃ。お主なかなかやるの。」
ケラケラと笑って、カミラはそのままテーブルに突っ伏した。
「んなっ!は、博士?博士って、ちょっと起きて下さい!」
「ん〜、心配はいらぬぞえ。妾を害せるものなどここにはおらぬゆえ。少し寝る。あとは良きにはからえ。」
エドはしばし茫然自失した。
魔界。リュウはそう言っていた。
つまり、彼女は魔族に間違いない。
魔族が実在していただと?
いやまあそれは一応、アカデミーとかで習いはしたが…。
つまりは少女の姿だろうが砂糖に酔おうが、魔族は魔族。
人智を遥かに超えた脅威である。
しかも、魔界の支配者の右腕だと?
御伽話じゃあるまいし。
いや、リュウが絡んだ日には何でもありだ。
あの男、本人の奥方に言わせれば『アル中ワーカホリックのヘンタイ色魔』だし、エドとしては、ああ見えて不器用過ぎる真面目人間だとは思う。
しかしこの魔都、リマノそのものが人の形を取ればああなるとも思うのだ。
煌びやかで華やかな表の顔と、底知れぬ闇に満ちた裏の顔。
その二つを体現する妖魅の化身。
ぼんやりとそんなことを考えながらカミラを眺めていたら、彼女が何か呟くのが聞こえた。
声が小さ過ぎる。
突っ伏した彼女の口元に耳を寄せた。
「混じりものがいる。」
「近くですか。」
「妾の背後、20メートル。」
エドは該当方向に目を走らせた。
と言っても、エドの肉眼はまともに機能しない。
両眼とも子供の頃の火事で視力を失い、白濁したままだ。
今はサングラスに仕込まれたカメラで光を感知し、その情報を脳に直接送ることで視力の代用としている。
「女性。20代くらい。」
エドの囁きに、カミラは頷いた。
彼女には視えているのだろう。
カミラが自分の周囲のある範囲まで、360度の視界を持っているらしいことは、エドは遠に気づいていた。
まあ魔族ならアリなんだろ、程度の認識だったが。
「しかし、妙じゃの。」
「何がです?」
「その女性、意識がないようじゃ。」
「な…?」
エドはハッとした。
問題の女は立っている。
だがしかし表情は虚ろで、言われてみれば奇妙なほど生気がない。
ならば立っていられるのは…?
「…!」
考える前に体が動いていた。
一回の動作でテーブルと突っ伏すカミラを飛び越え、エドは走る。
間に合うか?!
そう、辛うじて間に合った。
仰向けに昏倒した女の頭部が、固い敷石に叩きつけられる寸前、エドの腕が彼女を抱き止めたのだ。
〝ふう。ヒヤッとさせやがるぜ。〟
なるほど女には意識がないようだ。見開かれたままの目が異様だが…。
だが、この顔は?
〝見たことがあるな〟
綺麗な顔立ちの女だった。
流行りのパウダーピンクの髪色に、長いまつ毛までがきっちり同じ色味に染められている。
お高いサロンで、金と人手をふんだんにかけて手入れされた顔。
「手当が必要じゃの。」
耳元でカミラの囁きが聞こえてギョッとした。全く気配などしなかったが…。
「どこか寝かせられる場所に運ぶがよい、エドよ。妾が診よう。」
「仰せの通りに、博士。」
まあ、逆らうだけムダってことだ。
長いもんには巻かれた方がラクだし。
エドは素直に女を抱き上げた。
次回もお楽しみに。
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