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エドと博士のはみ出し日記  作者: WR-140


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17/43

17 眷族

 2人に身分証を示して、エドは椅子に背中を預けた。シャディは沈黙し、ミュラーは訝しげだ。

「そうしますと、カリス特別捜査官、今はお仕事中ということで?」

「そうなるな。ああ、心配はいらない。オレは今勅命により、連邦国賓を接遇中なんだ。」

「勅命?おお、なるほどなるほど!」

 ミュラーの表情が明るくなった。

 魔族は連邦にとって、とてつもない脅威である。本来その存在が知られた途端に非常事態宣言が出されて当然なのだ。だが国賓となれば、話は違う。

「勅命と仰いましたか。では、大公閣下は盟主陛下がお認めになった正式な外交使節ということですな?」

「その通りだ。」

 ミュラーのやつれた顔が輝いた。

「しかも国賓であられるとは!」

 エドは頷く。その点は間違いない。何せエドにカミラを押し付けたのは、当の盟主本人なのだから。

〝あの野郎。こりゃパワハラだぜ。〟

 だが悲しいかな、エドは既に理解していた。あのカミラを〝接待〟するには、確かに自分が最適任である、と。

 

 寝室のドアが開き、カミラとカイリーが入って来た瞬間、エドは見逃さなかった。

 シャディの目に明らかな殺意が閃いたのを。それは真っ直ぐカイリーに向けられていた。


「揃うたようじゃの。座りやれ、ミュラー。」

「ありがたき幸せに存じまする。」

 いつの間にやら立ち上がり、深く礼をしていたミュラーが元の椅子に座った。

〝は?何だコイツ、まあ平伏よりゃマシだが。〟

「カイリーとやら。そなたも座るがよい。」

「はい。」

 カイリーは、恭しいとさえいえる態度でカミラに従った。エドはさらに呆気に取られる。

〝しかもコイツもコイツだ。どうなってやがる?…まあ、博士に生命を助けられはしたんだろうが…。〟そうだとしても、こうまで殊勝な態度を取るタイプじゃないはずだが?と、エドは首を傾げた。


「間一髪じゃった。」

 と、カミラ。

「蘇生魔法が必要かと思うたが、そこまでではなかったの。」

 エドはギョッとした。カミラは魔族である。善悪や宗教とは何ら関係ない、単なる種族名と言うものの、蘇生魔法が存在するとして、魔族がそれを使う?

「そ、蘇生魔法って、そんなことまで出来るんすか、博士?」

 カミラはこともなげに頷いた。

「妾は医者じゃ。当然であろ。そなたも安心して死ぬが良いぞ。死の直後ならば、多少身体が傷んでいても蘇生は可能じゃ。」

「あ、安心って、博士。」

 反論しかけ、言葉をグッと飲み込んだ。 逆らうだけムダである。第一、今はカミラと漫才を演っている場合ではない。


「さて。では答え合わせと行きましょうか。オレからで良いですか、博士?」

 カミラはにっこり笑って、あのピンクの日記帳を取り出した。

 毎度のことだが、どこから取り出しどこにしまうのか、エドの機械的に強化された動体視力を持ってしてもわからない。


「ことの起こりは、この家の主人、ケン・クセルフィアス・ジーべン氏が自殺を試みたことでした。」

 ミュラーの表情が曇る。当然知っていたのだろう。だが、カイリーとシャディは不審そうだ。

「自殺の理由ははっきりしませんが、おそらくジーベン氏は毒の入手を家令であるミュラー氏に依頼したのでしょう。足のつかない毒、効果が決定的でありながら、万が一特定されても〝容疑者〟には入手も使用も難しい毒を極秘裏に手に入れて欲しい、とまあ、ジーベン氏の希望はそんなところだったのでは?」

 ミュラーは顔を上げた。

「その通りですが、なぜそれを?」

「氏は、周囲の人のことをいつも思い遣る性格だったようだからです。自殺を企図された理由は不明ですが、彼は殺人犯を作る気はなかった。だがしかし、本当の動機を遺言書に書くわけには行かない事情があったのではないかと推測します。そうですよね、博士?」

 カミラは小さくため息をついた。

「その通りじゃ、エド。なぜ妾がそれを知ったと考えたのじゃ?」

「遺体と対面した後、あなたはその暗号、じゃなくて、母国語の日記を取り出されました。オレはあなたが何かに気付かれたと直感しました。興味を惹く何かにね。あなたならば、遺体を検分することで、その人の過去と現在を俯瞰出来るのでは、と。」

 自殺か他殺か。自殺だとすると、その原因を推測することすら可能なのではないかとエドは考えている。

 リュウという怪物を身近に見ていなければ、そんな発想には至らなかった筈だが、エドは超常の能力を持つ異種族について、普通の人間よりはよく理解していた。

 だからそこにつけ込まれて今に至るわけである。


「それで博士。ケン・ジーベンは、なぜ死のうとしたのですか?」

「愛する者を手に掛けたくなかったのじゃろう。それに自らの変貌と、それに伴う苦痛に耐えられなかった。これは先祖返りという名の呪いじゃ。妾がいま少し早く来てさえいればの。今となってはせんなきことじゃが。」

「つまり、ジーベン氏には、その先祖返りが起きていたと?」

「混じり者はの、我らの影響が濃いほど長命であり、人の持ち得ない力を持つ反面、先祖返りという宿命をも同時に持つこととなるのじゃ。ジーベンは、おそらく見かけよりずっと長い間生きてきたはず。それはミュラーも知っておろう?」

「仰せの通りでございます。」暗い表情のミュラーは肩を落とし、両手で顔を覆った。

「ご主人様の正確な年齢は存じませんが、先代の家令だった私の父が子供の頃、既に成人されていたと聞き及びます。」

「そうか。やはりの。」

「博士、その先祖返りには治療法とか、なんとか発症を回避する方法とかはないんっすか?」

カミラは首を振った。

「混じり者ならば、生涯症状は現れないことが多い。強き眷族も、発症するかどうかは運じゃの。魔族の血が濃いほど、あるいは長く生きるほどにその症状は激しく致命的な場合が多い。例外はあるが、一度発症すれば通常の医療ではどうにもなるまい。肉体はより強靭なものに変形する反面、精神は退化して、破壊と殺戮を好む怪物に成り果てる。それが眷族を作り出すことが厳しく禁じられた理由の一つじゃ。」

 しばし沈黙した後、カミラが再び口を開いた。

「この世界の混じり者の大半は、力ある魔族が作り出した眷族と、人とが交わることによって生じる。眷族とは、魔法生物と魔族の細胞から作り出された魔獣の一種で、高い知性をもつ。また極端に繁殖能力に欠ける我らとは違い、魔族や異種族と子孫を残せる可能性が高い。昔、何とか子孫を残したいと考えた者らが作り出した存在なのじゃ。」

「つまり眷族とは、魔族の不妊対策のために作り出された生命だと?」

「そうじゃ。妾は初めから生殖能力を完全に欠いているが、ほとんどの魔族はそうではない。ただ子孫を残すのが難しいだけで、不可能ではないのじゃ。」

 だから、すこしでも成功の可能性を上げるために、様々な実験が繰り返されたという。ベースとなる魔獣や魔法生物の種類、組み合わせなど、あらゆる方法が試された。中には魔族そのものを実験体として使用するケースもあった。

 弱肉強食の世界では、力なきものは強者によって蹂躙される。だが、狂気に満ちた実験はある時、代替わりした魔大帝によって全面的に禁止されたという。

 それこそがカミラが仕える主人だ。


「だが禁止される前には、貴族の人数より眷族の数の方が多いという状況で、様々な事故や事件が頻発して社会問題化していたのじゃ。人との〝混じり者〟のように、魔獣に退化する者も多くいた。眷族の存在自体が危険視されることも増えて、排斥運動も常態化していた。一部の眷族は、主人によって〝異界送り〟に処された。そなたら式に言うならば、座標特定不能の空間へ強制転移させられたのじゃ。通常は命を落とすが、中には生きて異世界へと渡ったものもいた。それが、人との混じり者の起源となった。」

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