⑩2人のレア
結局、エドとカミラは当初の思惑通りジーベン邸に滞在を許可された。
ここでもカミラの演技は圧巻であった。
感謝、切なさ、不安…。
〝アクターズスクールのお手本かよ?〟
今更ながら呆気に取られたエドである。
隠しカメラとマイクがある以上、エドともう1人のレアの関係者が知り合いであることは、家令に把握されているとみて間違いない。
しかし、エドがそのことを、カミラ=レアに話した件まではバレてはいないはずだ。
とちらにせよ、〝魔族恐るべし〟。
エドは再再度認識を新たにした。
全く、こんな存在が犯罪を犯した日には、どうやって検挙するなんて芸当が出来るだろう?
いや、検挙したところで、どこにどうやって収監するというのか?
考えれば考えるだけ、募るのは絶望感ばかりである。
まあ、これは今に始まったことではない。
〝月の宮〟の所有者や、現在の居住者の一部など、どうしたって法の裁きを受けさせることができそうもない連中がいる。
無意識に胃のあたりに手を添えてしまい、自分の動作に気付いたエドは、ゲンナリした。
課長や部長あたりがこんな動作をしたりすると、かつては冷笑していたものである。
だが…。
「…ということで、ダイニングルームにご案内致します。」
家令ミュラーの声で、エドは我に返った。
『ダイニングルーム?』
声なき問いかけに、アリス=ラグナロクが応答する。
『顔合わせね。2人のレアの。』
ミュラーの後にカミラ。その後ろを付いて歩きながら、エドは内心首を捻った。
『しかし、何でまた?』
『さあ?対面させることで揺さぶりをかけたいのかしら。』
『ニセモノがそんなことで動揺するか?』
『それはわからなくてよ。付き添いのカイリー・セルティが動揺なんかするわけないけど、道具にされているのはまだ11〜12歳の女の子なのよ。』
言われてみればそうだった。
カミラがカミラなだけに、自然と相手の偽レアまでも、化け物扱いしていたのだ。
しかし、その少女はなぜ偽レアを演じる羽目になったのだろう?
カイリーみたいな女と関わり合いになっただけでも不幸体質が疑われる。
必要に応じてその少女を保護しなければならないかもしれないなとエドはため息をつきたい気分だった。
ダイニングルームに到着したとき、マルセル・ディトランことカイリーと、その連れ-偽レア・マグシー-は既に席についていた。
何食わぬ顔のカイリー。黙って澄ましていれば、野暮ったくて融通がきかない田舎教師の風情だが。
〝とんだ茶番だ。ミュラーって家令にも、カイリーがそんな大人しいタマじゃないこたあ、バレバレだってのに〟
カイリーの横には、1人の少女。
痩せているというより、痩せこけていると言う方がしっくりくる。
ほとんど黒に見える、濃い色の髪の毛には艶がなく、パサついた感じだ。皮膚もまた水気を失ってカサカサ。
明らかに栄養失調が疑われる。
戦争孤児の問題はまだ解決には程遠いが、まるでそうした子供たちを代表するかのような外見である。
ビクビクとカイリーを盗み見る態度に、エドは胸を突かれ、怒りが込み上げた。
どういう経緯でカイリーの手駒になったか知らないが、この少女の切羽詰まった感じをみると、他に選択肢がないところまで追い込まれたに違いない。
カイリーは人の弱みにつけ込み、徹底的に利用して、必要がなくなればボロくずのように捨てて顧みない。
〝この子を保護するのが先決かもな〟
気は進まないが、カイリーなんぞに子供を預けておくなんてできないから、なんとかするしかないのだらう。
『シャディ・クスカ。』
『ん?そりゃ誰だい、アリス?』
『その女性の名前よ。生まれはベルトラ。家族はみな戦争で死亡。パリアークの難民キャンプで、申請書類にそう書いたのが3ヶ月前ね。』
ということは、やはり戦争孤児か…。
難民キャンプは、終戦後4年経った今も数多く存在する。
パリアークは、リマノ星系に近い、大規模な難民キャンプだ。遠方からの戦争難民が多く、失われた世界から避難してきたものも多数に上る。
辛うじて生存は可能だが、長居したいようなばしょではない。
『いま女性、って言ったな。つまり彼女は18歳以上ってことか?』
『自己申告が正しければ、彼女は20歳になったばかりね。』
『マジかよ…。』
どこからどう見たって、発育不良の12歳だ。これが25だと?冗談じゃねえ。
だがまあ。
こんなのは氷山の一角に過ぎないのだ。
戦争は、すべての世界をスラムより非人道的な場所に変えてしまうのだから。




