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第六章:政府の反撃

内閣調査室の戦略会議


2046年4月20日、午前9時。内閣調査室の地下会議室では、緊急戦略会議が開かれていた。フリーダム・ハンターことエージェント・コードネーム「シャドウ・ストライカー」の潜入失敗を受けて、政府は新たな対応策を検討していた。

「プロジェクト・インフィルトレーションは完全に失敗した」田村調査室長は苛立ちを隠さなかった。「我々のエージェントは正体を看破され、組織から追放された」

黒田智也警視正は冷静に報告した。「しかし、得られた情報もあります。特に、『ユウジ・マスター』と『レジスタンス・ローズ』がリベレーション・ネットワークの中核人物であることが確認されました」

「それで、この二人の正体は特定できたのか?」田村が質問した。

「現在、データマイニングと行動分析を並行して実施しています」技術担当の山田博士が答えた。「サイバースペースでの活動パターン、創作スタイル、投稿時間などから逆算して、現実世界での身元を特定する作業を進めています」

田村は頷いた。「時間はどの程度かかる?」

「ユウジ・マスターについては、候補者を数十人に絞り込みました」山田博士は報告を続けた。「特に、IT関連企業に勤務する20代後半から30代前半の男性で、プログラミング技術に長けた人物として、かなり限定されています」


佐久間への包囲網


同日午後、佐久間の勤務先「テクノソリューションズ」にも調査の手が伸びていた。政府の調査官が人事部に接触し、従業員の詳細情報を要求していた。

「コミュニケーション・スキル向上プログラムの開発者である佐久間勇司について、さらに詳しい調査が必要です」調査官は人事部長に説明した。「彼の勤務態度、技術力、同僚との関係などについて教えてください」

人事部長の鈴木は困惑していた。「佐久間は優秀な技術者ですが、とても内気で...まさか何か問題があるというのですか?」

「それを調査しているところです。彼の最近の行動に変化はありませんでしたか?」

鈴木は考え込んだ。「そういえば、最近は高橋恵美子さんとよく話しているのを見かけます。以前の彼では考えられないことでした」

調査官の目が鋭くなった。「高橋恵美子?」

「同期入社の女性社員です。佐久間とは対照的に明るい性格で...」

「その女性についても詳しく教えてください」


恵美子への疑惑


高橋恵美子の情報を得た調査官は、さらなる調査を開始した。彼女のサイバースペースでの活動履歴を詳細に分析した結果、驚くべき事実が判明した。

「高橋恵美子、26歳。美術大学出身で、デザイン関連の技術に精通」データアナリストの田中が報告した。「サイバースペースでの活動パターンを分析した結果、『レジスタンス・ローズ』である可能性が極めて高いことが判明しました」

黒田警視正は身を乗り出した。「確実性は?」

「95%以上です。活動時間、創作スタイル、使用する色彩パターン、さらには佐久間勇司との最近の接触増加...すべてが一致しています」

田村調査室長は満足そうに頷いた。「つまり、リベレーション・ネットワークの中核人物二人が、現実世界でも連携を始めたということか」

「その通りです。しかも、同じ会社で働く同僚同士という関係は、我々にとって有利に働きます」

逮捕作戦の準備

「よし、逮捕作戦を開始する」田村は決断した。「快楽税法違反の現行犯として、二人を同時に逮捕する」

黒田が詳細を確認した。「罪状は?」

「闇の快楽の提供および幇助。リベレーション・ネットワークは明確に政府認可を受けていない違法システムだ」田村は冷酷に答えた。「処罰は法律に従い、すべてのインターネット活動履歴の完全公開だ」

「公開する情報の範囲は?」

「すべてだ」田村は強調した。「検索履歴、購買履歴、位置情報、コミュニケーション記録、サイバースペースでの全活動、そして個人的な秘密まで...すべてを白日の下にさらす」

黒田は少し躊躇した。「それは...社会的な死刑に等しいのでは?」

「それが狙いだ」田村は冷然と答えた。「見せしめとして完璧に機能するだろう。他の創造者たちは恐怖のあまり、二度と政府に逆らおうとは思わなくなる」


作戦の詳細計画


作戦は「オペレーション・サイレント・クラッシュ」と名付けられた。二人の逮捕を皮切りに、リベレーション・ネットワーク全体を壊滅させる大規模な作戦だった。

「第一段階:佐久間勇司と高橋恵美子の同時逮捕」黒田が計画を説明した。「職場と自宅の両方で同時に実行し、逃亡の機会を与えない」

「第二段階:リベレーション・ネットワークの技術的解析」技術チームのリーダーが続けた。「押収した機器からシステムの全貌を解明し、参加ユーザーを特定する」

「第三段階:参加ユーザーの一斉摘発」田村が総括した。「証拠が揃い次第、主要なユーザーを順次逮捕し、同様の処罰を行う」


佐久間と恵美子の日常


この時、佐久間と恵美子は政府の包囲網が迫っていることを知らずに、幸せな日々を過ごしていた。

毎朝の通勤では、二人は同じ電車に乗り、小声でリベレーション・ネットワークの今後について話し合っていた。

「新しいユーザーが毎日100人以上増えています」恵美子は嬉しそうに報告した。「特に、医療従事者や教育関係者からの参加が目立ちます」

「それは素晴らしいニュースですね」佐久間は微笑んだ。「システムが本当に必要な人たちに届いている証拠です」

昼休みには、二人は人目のつかない場所でシステムの改良について議論していた。

「感情同調機能をさらに発展させて、ユーザー同士がより深くつながれるようにしたいと思っています」佐久間は提案した。

「それは素晴らしいアイデアです」恵美子は目を輝かせた。「私も新しい視覚効果を開発中です。ユーザーの感情状態に応じて、空間全体の色彩が変化する機能です」


システムのさらなる進化


夜には、二人はそれぞれの自宅からサイバースペースでミーティングを行い、他のメンバーたちと協力してシステムの改良を続けていた。

サイレント・コーダーが新機能を発表した。「共感増幅システムを完成させました。一人のユーザーが喜びを感じると、その感情が他のユーザーにも波及し、コミュニティ全体が幸せになります」

ヒーリング・ハープも興奮していた。「癒しの連鎖反応システムも完成です。一人が癒されると、その癒しが他の人にも伝わり、コミュニティ全体が平安に包まれます」

ハッカー・フェニックスは技術的な報告をした。「セキュリティシステムも強化しました。政府の監視システムをさらに巧妙に回避できるようになりました」

ユーザーからの感動的なメッセージ

システムの進化と共に、ユーザーからのメッセージもより感動的になっていた。

「このシステムのおかげで、長年のうつ病から立ち直ることができました」

「引きこもりだった息子が、リベレーション・ネットワークを通じて友人を作り、社会復帰を果たしました」

「末期がんの妻が、最後の日々を美しい仮想世界で平穏に過ごすことができました」

これらのメッセージを読むたびに、佐久間と恵美子は自分たちの活動の意義を再確認していた。

「私たち、本当に大切なことをしているんですね」恵美子は涙を浮かべながら言った。

「はい」佐久間は頷いた。「どんな困難があっても、この活動を続けなければならない理由がここにあります」


政府の最終準備


一方、政府の逮捕作戦の準備は着々と進んでいた。

「明日、午前10時に作戦を実行する」田村が最終ブリーフィングを行った。「佐久間勇司は職場で、高橋恵美子は自宅で同時に逮捕する」

「マスコミ対応は?」黒田が確認した。

「既に準備済みだ。逮捕と同時に記者会見を行い、快楽税法違反の重大事例として発表する」田村は答えた。「二人の個人情報は即座に公開され、見せしめ効果を最大化する」

「他の組織メンバーへの対応は?」

「二人の逮捕により動揺したところを狙い、一気に組織を壊滅させる」田村は冷酷に計画を説明した。「恐怖によって、残りのメンバーも自首に追い込む」


運命の前夜


2046年4月21日の夜、佐久間と恵美子は互いの愛と使命について語り合っていた。まさか翌日が彼らの自由な日々の最後になるとは、思いもよらなかった。

「勇司さん」恵美子は佐久間の手を握りながら言った。「私たちが出会えたのは奇跡ですね。現実でもサイバースペースでも、同じ夢を追いかけていたなんて」

「本当に奇跡です」佐久間は彼女を見つめた。「君と出会えて、僕の人生は完全に変わりました。もう一人で戦う必要がない」

「これからも、ずっと一緒に歩んでいきましょう」恵美子は微笑んだ。「どんな困難があっても、二人なら乗り越えられます」

佐久間は彼女にキスをした。現実世界での初めてのキスだった。

「愛しています、恵美子さん」佐久間は彼女の本名で呼んだ。

「私も愛しています、勇司さん」恵美子は幸せそうに答えた。


嵐の前の静けさ


その夜、二人はそれぞれの家で平穏な時間を過ごした。佐久間は新しいプログラムのアイデアをノートに書き留め、恵美子は明日のシステム改良について計画を立てていた。

リベレーション・ネットワークのユーザーたちも、いつものように美しい仮想世界で交流を楽しんでいた。誰も、翌日すべてが変わってしまうことを知らなかった。

政府の逮捕チームは最終的な準備を整え、明日の作戦成功を確信していた。そして、この逮捕によって反政府的なサイバースペース活動が完全に根絶されると信じていた。

しかし、政府も知らなかった。佐久間と恵美子の逮捕が、むしろより大きな抵抗運動の火種となることを。愛と技術の力が、いかに強大な統制力をも打ち破る可能性を秘めているかを。

夜が明ければ、静かなる革命は新たな段階を迎える。それは、個人の自由と政府の統制力が真正面から激突する、決定的な戦いの始まりだった。


逮捕の瞬間


2046年4月22日、午前10時00分。運命の時が来た。

佐久間がいつものようにオフィスで作業をしていると、突然複数の男性が現れた。

「佐久間勇司さんですね」黒田警視正が冷淡な声で言った。「快楽税法違反の疑いで逮捕します」

佐久間の心臓が止まりそうになった。ついにこの時が来たのだ。

同時刻、恵美子の自宅にも捜査員が押し入っていた。

「高橋恵美子さん、あなたを逮捕します」

恵美子は青ざめながらも、毅然とした態度を保った。「罪状は何ですか?」

「快楽税法違反。政府認可を受けていない違法な快楽コンテンツの提供および幇助」

逮捕の瞬間、二人の頭に浮かんだのは、互いの顔とリベレーション・ネットワークのユーザーたちのことだった。

この逮捕が、やがて日本社会全体を巻き込む大きな変革の始まりとなることを、この時はまだ誰も予想していなかった。

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