第5話 ええ、色々作れるように私も頑張ってるんだから
退院してからの紗奈は俺や周囲に対する態度がまるで別人のように変わった。傍若無人な振る舞いはなくなりトゲトゲしていた雰囲気もかなり緩和されたと言っても過言ではない。
「伊吹さんってめちゃくちゃ雰囲気が変わったよな、勿論良い意味で」
「それは俺も思う、今まであった近付き難いオーラも無くなってるし」
紗奈がこうなってすぐは皆んな驚いていたが、二週間が経過した現在は受け入れられ始めている。今まで紗奈に対して苦手意識を持って敬遠していたクラスメイト達とも打ち解け始めていた。
だから一部のクラスメイト達は今の紗奈をドッペルゲンガーと思ってたりするとか。そんなことを思っていると紗奈がこちらへやってくる。
「二人で話してる最中に悪いわね、昼休みの間は春人を借りるわよ」
「ああ、どうぞご自由に」
「ってわけだから行ってくる」
俺は秋夜にそう告げて紗奈と一緒に教室から出て行く。今までは秋夜と雑談していることなんて一切お構いなしな紗奈だったが、あの日以降は必ず一言確認するようになった。
その辺りも紗奈の態度が柔らかくなったと周囲が感じている要因だろう。そのまま歩き続けて目的地である中庭にやってきた俺達は二人でベンチに座る。
「今日もよろしく頼むわ」
「任せてくれ、食べることは得意だからな」
「そんなの当然知ってるわよ、あんたとは長い付き合いなんだから」
そんなことを言いながら紗奈はお弁当箱を俺に差し出してきた。ちょっと前から紗奈は料理を練習し始めたらしく、上手く作れているか不安とのことで、俺を試食係に指名してきたのだ。
「今日は唐揚げか、美味しそうだな」
「ええ、色々作れるように私も頑張ってるんだから」
そう口にした紗奈はちょっと得意げな表情を浮かべていた。退院してからしばらく紗奈はしおらしかったが、今ではすっかり以前のような明るい感じに戻っている。
ぶっちゃけ紗奈がずっとしおらしかったら違和感が凄まじかったので助かった。しかも、傍若無人な部分は綺麗さっぱり抜け落ちたので今の感じが一番付き合いやすい。
「うん、味もしっかり美味しいな」
「でしょ、私が頑張って作ったんだから美味しいに決まってるわ」
「マジで自信満々に言うだけはあると思うぞ」
「もっと褒めてもいいわよ」
うん、やっぱり紗奈はしおらしい態度よりもこんなふうに勝気な感じの方が断然いいな。それから紗奈と一緒にお弁当を食べていると中庭を知った顔が通りかかるのが目に入ってくる。
それは中学生の頃に同じクラスだったことがある女子だ。紗奈とは別のタイプの美少女なので目の保養になるなと思ってぼんやり見ていると突然体に寒気が走る。
反射的に顔を動かすと先程と表情こそあまり変わっていないものの、明らかに目が据わった様子の紗奈が俺の顔をジーッと見ていたのだ。紗奈の背中からドス黒いオーラのようなものが出ている錯覚すら覚える。
「せっかく私と食べてるのによそ見をされるのはちょっと悲しいんだけど」
「ご、ごめん」
「まあ、いいわ。それより昼休みもあんまり長くないから早く食べましょう」
「……ああ」
まるで何事もなかったかのように紗奈はそう提案してきたため、普通に食事を再開した俺だったが怒られるよりも普通に怖かった。
紗奈はあの日以降基本的には優しくなったが突発的にこんな雰囲気になることがある。だが、毎回シチュエーションなどが違うため何が原因でこうなるのかはさっぱり分からない。まあ、さっきのは普通に俺が悪いため反省する必要があるだろう。
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