第37話 多分紗奈の両親の次くらいには詳しい自信があるから
昼休みが終わった後も授業の合間にある休み時間のたびに瑠花はクラスメイト達から質問されていた。もし転校生が俺だったら絶対こんなに質問なんてされなかったと思う。放課後になってもまだ話しかけようとしているクラスメイトもいたが、瑠花はまた明日ゆっくり答えると言って丁寧に断っていた。
瑠花はマイペースで周りには流されないので嫌なことは普通に断るタイプだ。多分転校初日で疲れたので早く帰りたいと思って断ったのだろう。俺達は教室を出て昇降口へと向かい始める。
「そう言えば瑠花って今はどこに住んでるのよ?」
「今は倉敷駅前のマンションだよ、ホテルとか銀行が隣接してるところって言えば分かるかな?」
「なるほど、あそこか」
間違いなく倉敷駅南側の再開発されたエリアにあるマンションのことだろう。俺達は倉敷駅からもう少し南西に進んだ場所に住んでいるため瑠花のマンションは割と近い。
「ハル君と紗奈ちゃんが住んでる場所は昔と変わらない感じなのかな?」
「ええ、私と春人は引っ越しとかはしてないから」
「それなら近いね」
「多分徒歩でも五分くらいだと思うぞ」
そんな話をしながら昇降口で上履きから靴に履き替えて校門を出る。それにしてもまた瑠花と一緒に帰ることになるなんて夢にも思わなかったな。
「あっ、帰り道は美観地区を通って帰りたいんだけどいいかな?」
「いいわよ、ちょうど帰り道だし」
「俺も大丈夫」
「やったー、ありがとう。久々に歩きたかったんだよね」
江戸時代から明治時代の街並みを保存している美観地区は俺や紗奈にとってありふれた景色になっているが、五年以上も倉敷から離れていた瑠花にはわざわざ足を運びたい場所になっているのだろう。
それから三人で歩き続けてしばらくが経過したところで白壁の蔵屋敷やなまこ壁などが並び立つレトロモダンな景色が見えてきた。
「瑠花、美観地区が見えてきたわよ」
「うわー、懐かしい。美観地区ってこんな感じの景色だったね」
「今日は平日だから人通りは割と控えめだ」
ニコニコしてちょっとテンションが高めの瑠花に対して俺と紗奈は普段通りだ。ちなみに美観地区は岡山県内では後楽園などに並んで人気観光地の一つなため、土日や長期休みの時期はそれなりに多い。
「この近くに神社もなかったっけ?」
「阿智神社があるから多分瑠花が想像してるのはそこだと思うわ」
「やっぱりそうだよね、初詣に行く時に美観地区を通った記憶があったから」
「いつかの元旦に阿智神社に三人で初詣にも行ったよな」
正確に言うと俺達の両親もいたはずなので三人だけではなかったが、一緒に参拝しておみくじを引いた記憶がうっすらと残っている。
「それにしても結構制服姿が目立つね」
「ああ、ここは普通に通学路として使ってる人も多いんだ」
「観光地を通学路に使ってるって考えたら中々贅沢な気がするわ」
「確かに羨ましいと思う人もいそうな気がするよ」
そんな話をして盛り上がっているうちに美観地区を抜けて倉敷駅前の景色が見えてくる。そしてそのまま倉敷駅方面に向かって歩き瑠花のマンションの前まで到着した。
「ハル君も紗奈ちゃんもありがとう、転校初日でちょっと緊張してたけど二人のおかげで助かったよ」
「俺達は学校を案内したくらいでそんな大したことはしてないぞ」
「そうそう、あんたなら私達がいなくても全然大丈夫だったと思うわ」
「それでも二人がいたのといなかったのだと全然違ったから。じゃあまた明日」
そう言い残してマンションに向かう瑠花の表情はにこやかだったため、転校初日は成功と思っているに違いない。瑠花がマンションに入るのを見届けた後、俺と紗奈は二人で帰り始める。
「昼休みの途中くらいからテンションが若干低いけど大丈夫か?」
「えっ、気付いてたの!?」
俺の言葉を聞いた紗奈は驚いた表情を浮かべてそう声をあげた。どうやら俺に気付かれていないと思っていたらしい。瑠花は気付いていないと思うが、俺は違和感があって一瞬で気づいてしまった。
「気付くに決まってるだろ、何年一緒に過ごしてきたと思ってるんだよ。多分紗奈の両親の次くらいには詳しい自信があるから」
「私もまだまだね」
「それで一体どうしたんだ?」
「せっかく朝あんたに励ましてもらったのに結局自分の嫌な部分が出そうになったから流石に落ち込んじゃって」
紗奈が言っているのは恐らく瑠花がお弁当云々の発言をした際のあの瞬間のことだろう。
「いやいや、出そうになってもちゃんと抑えられたんだから別にいいだろ」
「出そうになったのが問題よ」
「でも昔の紗奈だったらそもそも抑えられなかったと思うし、それを考えたら全然良かったと思うけどな」
嫌な部分が何かは分からないが素直になる前の紗奈なら間違いなく抑えられずに爆発していたと思う。だが、紗奈は納得していないようで、どこか余裕がなさそうだった。




