第35話 確かに幼馴染って意味では紗奈もだもんな
そして一時間目の世界史の授業が終わった後の休み時間、予想通り瑠花はクラスメイト達に取り囲まれて質問責めにあっていた。
「凄い人気だな」
「ただでさえ珍しい転校生な上に美少女なんだからそうなるって」
俺のつぶやきに対して秋夜はそうツッコミを入れてきた。クラスメイトの七割近くが瑠花の席の周りに集まっているため、どれだけ人気なのかがよく分かる。
休み時間が十分間しかないにも関わらず瑠花は質問に対して丁寧に回答をしているため、次やその次の休み時間も同じような光景が広がるに違いない。
そんな中、誰かが昼休みに学校を案内しようかなどと言い始めた。すると瑠花は俺が予想もしていなかった言葉を口にしてしまう。
「学校の案内はハル君……黒崎君にお願いする予定だから」
瑠花が迂闊にもそんなことを口走ってしまってくれたおかげで教室内がざわめき始める。そして俺に対しても無数の視線が向く。
「えっ、何で黒崎なんだ?」
「知り合いだからかな」
「東京にいたんだよね、どこで知り合ったの?」
「確かに今まで東京には住んでたけど、実は出身は倉敷だから小学生の途中までは住んでたんだ。黒崎君とはその頃からの付き合いでいわゆる幼馴染ってやつなんだよね」
質問した男子と女子のクラスメイトの質問に対して瑠花がそう答えた瞬間、教室内のざわめきはさらに大きくなった。そして殺意や嫉妬の視線を大量に向けられる。言うまでもなく視線の主は全て男子だ。
「おい、春人。幼馴染ってのはどういうことだよ!?」
「ちょ、落ち着けって」
「落ち着けるわけないだろ、伊吹さんだけに飽き足らず他にも手を出していたのか」
「いやいや、幼馴染は手を出して出来るものじゃないから」
秋夜からガン詰めされた俺はしどろもどろになりながらそう答えた。いずれは瑠花との関係が周りに知られるとは思っていたが、転校初日のこのタイミングは悪目立ちするためバレ方としては最悪だ。
二時間目の現代文の授業が始まったおかげでひとまず追求から逃げることは出来たが、次の休み時間が間違いなく地獄になるだろう。だから二時間目が終わった瞬間、教室から逃げようとする。しかし俺はすぐに秋夜を中心にした一部の男子達から取り囲まれる。
「さあ、黒崎。今すぐ洗いざらい吐け」
「そうだ、美少女な幼馴染が二人もいるなんてちょっと許せないな」
「春人ばっかり良い思いをするなんて羨まし過ぎるぞ」
そんな願望を垂れ流しながら迫って来られると怖いんだが。面倒なことになったなと思っていると紗奈がやってくる。
「春人、現代文の教師から用事を頼まれたから手伝って欲しいんだけど」
「ああ、俺は別に大丈夫だ」
「ってわけだから春人を借りるわ」
秋夜を含め俺を取り囲んでいた男子達はまだ色々と言いたげな表情を浮かべていたが、紗奈がそう言ったため大人しく引き下がってくれた。
紗奈がナイスタイミングで声をかけてくれたおかげで何とかこの場から離脱出来そうだ。そんなことを考えながら俺は紗奈と一緒に教室を出る。俺達の様子を瑠花が目で追いかけてきていたが、ひとまず今は紗奈が優先だ。
「それで俺は何を手伝えばいいんだ?」
「ああ、あれは春人を呼び出すために適当にでっちあげただけで何もないわよ。川口達からあんたを助けてあげたってわけ」
「なるほど、そういうことか。ありがとう、マジで助かった」
目がガンギマっていたあいつらの相手をするのはマジで面倒だったからか感謝しかない。すぐに教室に戻ると疑われる可能性があるためしばらく自動販売機コーナーで時間をつぶすことにする。
「まさか瑠花がいきなり幼馴染ってことをバラすとは思わなかったぞ」
「私的には言うんじゃないかとは思ってから想定内よ、あの子は昔からマイペースだったし。ただし、春人についてだけ言うとは私も思わなかったわ」
「確かに幼馴染って意味では紗奈もだもんな」
「ええ、確かに付き合い自体は春人の方が長いのかもしれないけど」
俺達三人は幼稚園から同じだったが、仲良くなったのは俺が先だった。幼稚園の時から通い始めたスイミングスクールが同じだったことが瑠花と仲良くなったきっかけだ。それに対して紗奈と瑠花が絡むようになったのは小学一年生の時からなので少し遅い。
もしかしたら俺の名前だけを出したのはその辺りも関係しているのではないかと一瞬思ったが、多分それは違うような気がする。
先程紗奈が言ったように瑠花はマイペースなところがあり、その辺りは深く考えないようなタイプだ。だから俺のことだけを幼馴染として紹介したのは特に意図はなく、たまたまそうなっただけというのが正解な気がする。
「そうそう、昼休みに瑠花が学校を案内して欲しいって言ってたと思うけど私もついて行っていいかしら?」
「勿論、むしろ紗奈が一緒にいてくれた方が助かる」
俺一人だと色々と不安だったためむしろこちらからお願いしようと思っていた。だから紗奈からの頼みはまさに渡りに船と言えるだろう。




