第34話 自分の器の小ささに嫌気がさしてるのよ
六月一日になった今日、朝からクラスメイトはそわそわしていた。その理由は単純で昨日の帰りのホームルームの時にはなかったものが教室にあるからだ。
「これってどう考えてもあれだよな?」
「ああ、それ以外は考えられない」
クラスのあちらこちらからそんな感じの話し声が聞こえてくる。クラスメイト達の視線のほとんどは教室の後ろに設置されたそれに集中している状況だ。そんなことを考えていると秋夜が教室に入ってくる。
「おはよう、春人。なんか教室がめちゃくちゃ騒ついてるけど一体どうしたんだ?」
「秋夜もあそこを見れば多分理由が分かる」
俺が指差した先には何の変哲もない机と椅子が置かれていた。秋夜は一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに気づいたらしい。
「あっ、昨日までなかったはずの机と椅子が置かれてるじゃん。ってことは……」
「秋夜が予想してた通り転校生が来るのはうちのクラスで多分確定だと思う」
そう、昨日までは三十九個しかなかった生徒用の机と椅子が一つ増えて四十個になっているのだ。これはどう考えても生徒が一人増えるから以外には考えられない。
「なるほど、やっぱり噂は本当だったのか」
「だから朝からみんなその話題で持ちきりだ」
「男子なのか女子なのかでみんな盛り上がってるけど、俺的には興味がないな」
「もしかしたら秋夜の生き別れの幼馴染って可能性もあるんじゃないか?」
「そう言われるとめちゃくちゃテンションが上がってきた」
本当は転校生がどこの誰かのかは既に知っているが、俺はあえて知らないふりをした。転校生の正体が俺のもう一人の幼馴染であると秋夜に知られると絶対面倒なことになる。
秋夜が騒いで俺が周りのクラスメイト達ロックオンされても困るからな。そんなことを思いながら同じく俺と同じで転校生の正体を知ってる紗奈の方に目を向けると、何故か浮かない顔をしていた。
「一緒に登校してたときからいつもよりテンションが低いけど一体どうしたんだ?」
「自分の器の小ささに嫌気がさしてるのよ」
「別にそんなことはないだろ」
紗奈は素直になってからめちゃくちゃ寛大になったと思う。はっきり言って以前までの傍若無人な紗奈とは器の大きさが全く違っている。
「私って本当嫌な人間ね」
「何をそんなに悩んでるかは分からないけど、紗奈は頑張って変わったと思う。だからそんなに卑下する必要はないと思うぞ」
「そうかしら?」
「ああ、それは俺が保証するから安心してくれ」
「ありがとう、春人にそう言ってもらえてだいぶ楽になったわ」
紗奈の表情はさっきよりもだいぶスッキリしていた。うん、やっぱり紗奈は暗い顔をしているよりも明るい方がいいな。それからしばらくして予鈴が鳴り担任教師である藤堂先生が教室に入ってくる。
うちの高校ではテストの日以外朝ホームルームは無いが、担任教師から生徒に対して何かしらの共有事項がある場合は例外だ。藤堂先生は教壇に立ち教室内が静まり返ったのを確認すると口を開く。
「もうみんな気付いているとは思うが、今日からうちのクラスに仲間が一人増える。じゃあ、久遠さん入ってきてくれ」
藤堂先生がそう言い終わると教室前方の扉が開いた。そして身長の高い黒髪ロングの女子生徒が入ってくる。その瞬間、教室内はザワザワし始める。特に声は男子達が中心だった。
先日アウトレットで会った時とは違い教壇の前に立つ瑠花は制服姿だ。ただし、うちの制服ではなかったため前の学校のものだろう。
「早速だが自己紹介をよろしく」
「両親の仕事の都合で東京から引っ越してきました、久遠瑠花です。よろしくお願いします」
藤堂先生から促された瑠花はみんなの前でそう自己紹介をした。そして瑠花は藤堂先生の指示で準備されていた一番後ろの席に座る。
クラスメイト達は色々と質問をしたそうな表情をしていたが、すぐに一時間目が始まるため、残念ながらそれは難しい。だから瑠花がクラスメイト達からの質問攻めにあうのは一時間目が終わった後になるだろう。




