第32話 春人のこういうところも昔から全然変わらないわね
しばらくしてアウトレットに到着したわけだが想像していた通りテスト終わりの高校生と思わしき制服姿で溢れかえっていた。やはりみんなテストが終わって遊びにきているのだろう。
「頭を使って疲れたからとりあえず何か甘いものが食べたいわ」
「賛成、今日はどれだけ食べても許される日だと思う」
紗奈の言葉を聞いた俺は即座に賛成した。ここ一週間は頭を使いすぎて糖分が圧倒的に不足していたためご褒美は必要だろう。
甘いものを食べると決めた俺達はひとまずフードコートに移動する。何を食べるかしばらく迷う俺達だったが、最終的に俺がクレープ、紗奈がアイスクリームを注文した。席について食べ始めるとすぐに紗奈がぼそっとつぶやく。
「……クレープも美味しそうね」
「紗奈って昔から他人が食べてるものを欲しがる習性があるよな」
「仕方ないでしょ、美味しそうに見てるんだから」
「そんなに見られたら落ち着いて食べられないから一口やるよ」
俺がそう口にすると紗奈は目をキラキラと目を輝かせながら俺が手に持っていたクレープにかぶりついた。
「おいおい、そのまま食べるのかよ。本当はちぎって渡そうと思ってたんだけど」
「私とあんたの仲なんだし、今更間接キスなんて気にならないでしょ」
「まあ、そうかもしれないけどさ」
「お返しに私のもあげるわ」
そう言って紗奈はスプーンに乗ったアイスクリームを差し出してくる。俺はちょっとためらいつつもパクりと口に含む。その瞬間、口の中いっぱいに甘い味が広がった。それにしても紗奈との間接キスなんて昔から幾度となくやってきたというのに俺は何故こんなにもドキドキしているんだろう。
それから少しして紗奈が先にアイスを完食した。まあ、凄い勢いだったから俺より先に食べ終わるのは納得だ。その後ちょっと遅れてクレープを完食した俺だったが、紗奈が何かに気付いたらしく口を開く。
「頬にクリームついてるわよ」
「あっ、本当だ」
「春人のこういうところも昔から全然変わらないわね」
「意識しても中々直らないんだよな」
スマホの画面に反射した自分の顔を見ながら頬についたクリームを取ろうとしていると紗奈がとんでもない行動に出る。
「な、何するんだよ!?」
「何ってクリームを取ってあげただけだけど?」
何と紗奈は俺の頬に自分の顔を近づけ、そのままクリームを食べるという行動に出たのだ。これは完全に予想外でありめちゃくちゃ驚いたことは言うまでもない。
「もっと他の取り方もあっただろ」
「一番手っ取り早そうだったからやっただけよ、今の世の中ってタイパ重視だし」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
何というか紗奈は最近色々な意味で大胆になったような気がする。優しく素直になったのは有難いがこれが続くのは勘弁して欲しい。そんなことを思いながら俺達はトレイを片付けてフードコートを後にする。
続いて俺達がやって来たのは本屋だった。俺も紗奈も本は好きなのでよく本屋には立ち寄るタイプだ。俺達はそれぞれ別れて自分の好きなコーナーに向かう。
紗奈は映画化をされている今流行りの一般文芸作品を好んで読むタイプだが、俺は基本的にライトノベルや漫画しか読まないためコーナーの場所は全然違う。ちなみに最近は作家になろうやカキヨミというWEB小説投稿サイトから書籍化やコミカライズされた作品にハマっている。
「あっ、いつの間にかこの作品コミカライズされてたのか」
新刊コーナーを見ていた俺はちょっと前に気に入って読んでいた作品がコミカライズされていることに気付いて手に取った。WEB小説投稿サイトで一度読んだ話も漫画で見るとまた違うためどんな内容になっているのか非常に気になってしまう。その漫画を買うことにした俺は早速レジに並ぶ。
レジの店員は一人しかいなかったが前にいる女性の会計はもうすぐ終わりそうだった。実際に一分も経たないうちに会計は終わったわけだが、本を手に取って満足したらしい女性はカウンターに財布を置き忘れているにも関わらずそのまま歩き去ろうとする。
しかも低いカウンターということもあって店員からは見えず、財布の存在に気付いているのは俺しかいなかった。だから俺は勇気を出して女性に声をかける。
「すみません、カウンターに財布を忘れてますよ」
「あっ、ありがとうございます」
こちらを振り向いた女性はそう声をあげだ。だが、何故か俺の顔を見て驚いたような表情を浮かべる。
「……もしかしてハル君?」
目の前に立つ女性はそう口にしたため俺のことを知っているようだった。




