第23話 あー、もう分かったからそんなにまとわりつくな
考査発表から四日が経過した現在、放課後の教室内はさらにピリピリとしていた。明日から土日に突入するわけだが、週明けからはいよいよ中間テスト本番なのだ。
高校に入学してから初めての中間テストということもあってこの土日はみんな机に向かってラストスパートをかけるに違いない。
特に入学式翌日にあった中学生の復習テストで成績が悪かった同級生は間違いなく雪辱を晴らそうとしているはずだ。恐らく紗奈がそのタイプだと思うし。
「なあ、春人。ちょっと数学でよく分からない問題があるからこの後付き合ってくれないか?」
「そんなの俺じゃなくて幼馴染に頼めよ」
「いやいや、俺に幼馴染なんていないことくらい春人なら知ってるだろ」
「秋夜のことだからてっきり脳内に何人か居るのかと思ったぞ」
「もしかしてこの間のことまだ根に持ってんのか? でも俺も伊吹さんがあそこまでやるのは完全に予想外だったんだって」
「本当かよ?」
冷たくあしらう俺に対して秋夜はそんなふうに謝ってくる。この間のこととは言うまでもなく紗奈に幼馴染が裸の付き合いをするのは世間一般的に考えても普通という嘘を吹き込んだことだ。あの日の翌朝、秋夜を問い詰めたらすぐに白状した。
秋夜はまさか本当に紗奈がそんなことをするとは思わなかったなどと言っていたが、実際に信じて巻き込まれた俺からしたら堪ったものではない。しかもその後悪びれもせずに感想まで聞いてきたのだからマジで凄いと思う。
「頼むよ、俺が数学で悪い点数を取ってスマホとかパソコンを没収されてもいいのか?」
「その方が健常者に近付ける気がするし良さそうな気がするんだけど」
「マジでこの通りだ、俺から幼馴染を取り上げられると禁断症状が出て発狂するから」
「あー、もう分かったからそんなにまとわりつくな」
こいつは一回幼馴染を絶った方が良いと思ったが悪化してしまうなら駄目だ。これ以上訳のわからないことを紗奈に吹き込まれては困る。
だから俺は仕方なく秋夜の勉強に付き合ってやることを決めた。するとそんな俺達のやり取りを見ていた進藤さんが話しかけてくる。
「もしかして二人で勉強するの? それなら私も混ぜて欲しいんだけど」
「それなら僕も参加させてよ」
「萌音と颯君が参加するなら私も」
「勿論大歓迎だ、春人がバッチリ教えてくれるから」
「おい!?」
進藤さんと天崎、その二人とよく一緒にいる朝田莉緒まで一緒に参加したいと言い始めた挙句、秋夜が勝手にオッケーを出したのだから俺がそう声をあげるのも当然だろう。
見た目だけ陽キャで中身が残念な秋夜ならともかくキラキラした三人と絡むのはHPの消耗が激しいから勘弁して欲しいんだけど。そんなことを思っていると友達に借りた教科書を返しに出ていた紗奈が教室に戻ってきた。
「春人、帰るわよ……ってみんなで集まってどうしたのよ?」
「伊吹さん、ごめん。ちょっと春人を借りることになったから」
「川口君と黒崎君と一緒に勉強することになってさ」
「僕と莉緒は萌音に便乗した感じかな」
「そう」
「……ふーん、じゃあ私も参加するわ。元々放課後は春人と一緒に勉強する予定だったから」
そう口にしつつ紗奈は俺の隣に立った。その表情はほんの少しだけ不満そうにも見えたが、多分気付いているのは長年付き合いがある俺だけに違いない。紗奈は何かの集まりに自分以外の女子がいると昔から何故かめちゃくちゃ不機嫌になっていたのだ。
ただし以前の紗奈なら俺の人間関係なんか一切お構いなしに断らせようとしてきていたため、その頃と比べると本当に大人になったと思う。




