第2話 どうせ俺には拒否権なんてないんだろ?
俺は紗奈に文句を言われつつも日誌をきっちりと終わらせてから、しっかりと職員室に日誌を提出して紗奈と一緒に帰り始める。
「春人って本当昔から細かいわよね、そんなんじゃモテないわよ?」
「俺的には紗奈が大雑把過ぎるとだけだと思うけどな」
二人で雑談しながら俺達は家の方向に向かって歩く。漫画やアニメに登場する幼馴染の場合は家が隣同士というパターンがほとんどだが現実は違い別にそんなことはない。まあ、めちゃくちゃ近所ではあるが。
「それより今日は駅前のアウトレットに寄って帰ろうと思うからあんたも付き合いなさい」
「どうせ俺には拒否権なんてないんだろ?」
「よく分かってるじゃないの、春人も私の扱いには流石に慣れたみたいね」
「十六年間も幼馴染もやってたら流石に慣れる」
帰り道にあるアウトレットへと寄ることになってしまったが、別に放課後の予定は特にないため特に問題はない。それから少しして倉敷駅前のアウトレットに到着した。元々このアウトレットは俺が生まれる少し前に経営不振で閉園した遊園地の跡地に建てられているためかなり広い。
「やっぱりこの時間帯は制服姿が多いな」
「そりゃ、放課後は皆んな遊びに来るわよ」
「まあ、この辺りの学生はここのアウトレットが最有力候補だよな」
東京や大阪、名古屋などのような大都市とは違って俺達の住む岡山県はいわゆる地方都市のため遊ぶところが限られてくる。だから倉敷市内の学生は水江にあるショッピングモールか、倉敷駅前にあるアウトレットで遊ぶパターンが多い。
ちなみに、紗奈が頻繁にアウトレットに寄りたがるため放課後よく付き合っている。紗奈は俺とは違って友達がたくさんいるのでそいつらと一緒に行けば良いと思うのだが、女子だけだとナンパされるらしく俺が付き合わされている。
「それで今日は何をする予定なんだ?」
「とりあえず友達が面白いって言ってた小説を買おうと思ってるのと、その他色々ショッピングって感じかしら」
ということはまた長い時間付き合わされることになりそうだ。紗奈のショッピングはめちゃくちゃ長いため家に帰るのはしばらく先になるに違いない。まあ、今日は金曜日であり、明日から二日間休みなためまだマシか。
「そう言えば紗奈はこの前の中間テストの結果はどうだったんだ?」
「ちょっと、嫌なことを思い出させないでよ」
「なるほど、あんまり良くなかったんだな」
「うるさい、そういう春人はどうだったのかしら?」
「俺は結構良かったぞ」
先日返却された中間テストの成績表に書かれていた順位は学内で上位二十パーセント以内だったので高校生活最初の中間テストの滑り出しとしては上々だ。
もっとも、俺達の通っている星稜高校は倉敷市内ではトップの偏差値を誇る進学校であり、油断していたらあっという間に転落させられることは容易に想像がつくため気は抜けない。
そんな話をしながらアウトレット内を二人で回る。紗奈の探していた小説は割とすぐに見つかったためそこは良かったが、その後のショッピングは想像していた通りめちゃくちゃ長かった。
何で女子ってこんなにショッピングに時間をかけるんだろうな。俺は欲しいものだけ買ったらさっさと帰るタイプなので理解できない。ようやく家に帰れると思った矢先、とんでもないトラブルが発生する。
「おい、紗奈。大丈夫か!?」
何と紗奈が突然意識を失ってその場に倒れ込んだのだ。突然のことに俺は慌てふためいたが、周りの助けを借りて何とか紗奈を病院に連れて行くことが出来た。
ただの貧血で深刻な病気ではなかったことだけが不幸中の幸いと言える。仕事を放り出して病院に来た紗奈のお父さんとお母さんも安心していたため一件落着だろう。この時の俺はまだ目覚めた紗奈の態度が一変することになるとは想像すらしていなかった。