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第14話 だって春人って手を離すと風船みたいにどこかへ飛んでいきそうじゃない

 しばらくして岡山駅に到着した俺達は瀬戸大橋線に乗り変えて四国方面へと移動を開始した。ゴールデンウィークの真っ只中ということで電車内は先程と同様でごった返している。

 相変わらず紗奈は密着してきていたため、普段なら瀬戸大橋の上を通過している際はちょっとテンションが高くなる俺もそれどころではなかった。

 ドキドキしていることを紗奈に悟られたくなかった俺は色々な感情を必死に押し殺す。だからようやく目的地である宇多津水族館に到着したころにはすでに疲れていた。


「せっかくこれからだって時にあんたは何でそんなに疲れたような顔をしてるわけ?」


「俺にも色々あるんだよ……」


 流石に紗奈のせいでドキドキさせられそうになったから必死に我慢していたなんて本人には言えるはずがない。そのためそう誤魔化すしかなかった。


「ふーん、まあいいわ。じゃあ早速入りましょう」


「……マジで最近ナチュラルに手を繋いでくるようになったよな」


 最近の紗奈はことあるごとに俺の手を取っている。あまりに頻度が多過ぎてもはや慣れつつあるレベルだ。


「だって春人って手を離すと風船みたいにどこかへ飛んでいきそうじゃない」


「どういうことかさっぱり分からないんだけど」


「分からなくても別にいいわよ」


 これ以上追及しても無意味なことは分かり切っていたため気かなかった。それから俺達は受付でチケットを見せて水族館の中に入る。


「予想はしてたけどやっぱり家族連れがめちゃくちゃ多いわね」


「動物園とか水族館は家族連れで来る定番の場所だからな」


「カップルも結構来てる感じかしら」


「どいつもこいつも幸せそうなオーラを出してるから今すぐ爆発して欲しい」


「相変わらず拗らせててちょっと安心したわ、そもそも今の私達だって周りからはそう見られてそうな気もするけど」


 何を馬鹿なことをと思ったがよくよく考えれば確かにそうだ。傍若無人で俺をまるで家来のように扱っていたあの頃とは違い、今の紗奈の振る舞いはかなり優しい。

 手まで繋いでいることを考えると側から見ればカップルに見えてもおかしくはない気がする。あれ、そう考えたら急に凄まじく恥ずかしくなってきたんだけど。


「さっきまで疲れたような顔をしていると思ったら、今度は急に赤くなってるし、今日の春人の顔はめちゃくちゃ忙しいわね」


「今日はそういう日ってことにしておいてくれ」


 俺は強引に話題を打ち切った。今までは女王様気質過ぎて紗奈を女性として全く意識していなかったが、ここ最近は変わりつつある。それを紗奈には気づかれたくなかった。それから俺と紗奈は水族館の中を二人で回り始める。


「めちゃくちゃたくさん魚がいるから見てて飽きないわ」


「一体何種類くらいいるんだろうな」


「確か館内にある水槽全体で四百種類くらいだったはずよ」


「へー、そんなにたくさんいるのか」


「ええ、やっぱり四国最大級の水族館を名乗るだけあるってことね」


 ちなみに中国四国地方というくくりにすると島根にある水族館が最大級だったはずだ。だが倉敷からは断然宇多津水族館の方が時間的に見ても金銭的に見ても行きやすい。そのため倉敷市民の多くはこちらにくるパターンが多いはずだ。

 そんなことを考えながら俺と紗奈は雑談をしながらゆっくりと館内を進む。サメやエイ、クラゲなど様々な種類の海の生物が入った水槽が俺達の目の前にあるため見ているだけで楽しい。ちょっと前であれば紗奈と一緒に水族館に来ても楽しめなかったと思うので良い変化だと思う。

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