星のない宇宙で⑧
その光景はメインブリッジに映されている。
「他次元生命体?そう言った?」サライが訊く。
「リインが言っていたトスーゴの敵か?」グレイが補足。
「ピンニョ?」シャーロットはわけがわからない。
「艦長!」
「エスパー数名と対ESP装備の装甲兵を向かわせろ。それまでは現場のボッケンに任せる」
そう言うと流はメインパネルを睨む。
医務室。
ピンニョは飛んでボッケンと男の間に着地。ガルムらは起き上がり唖然と見ている。
ピンニョはゆっくりと男のまわりを歩きながらしゃべる。
「こいつらはこの宇宙では他の”もの”に入らないと活動できない」
信じられない顔をする美理に、ピンニョはウインクして「本物はやっぱかわいいのう」
ようやく到着したヨキに「遅い!」と一喝。
「え?」ヨキは直感でその名を口にする。「パミィ?」
「呼び捨てにするな。わしの後ろにバリアーを張れ。美理ちゃんらを守れ」
「は、はい。師匠」ヨキは言われたとおりにする。
驚くボッケンを尻目にピンニョは言葉を続ける。
「偽りの体は入られやすい」
「そいつは・・」ボッケンが尋ねる。
「わかっている。だが一度入った奴らを排除するのは難しい。彼は・もう助からない」
「!」麗子はショックを受ける。
ピンニョいやパミィはキッと男を睨みつける。
「場所を変えるぞ」
次の瞬間。パミィと男の姿が消える。
ふたりは近くの木星型惑星にテレポートした。
<スペースインパルス>は逆噴射し制動をかける。
木星型惑星に地面は無い。水素を主体としたガスがあるだけだ。酸素もなく凄まじい気圧と低温の世界。人間いや普通の生物が生存できる環境ではない。
ふたりはESPバリアーを張って対峙する。
「どこでその身体を手に入れた?いつから中にいた?」
「・・・」
「なぜあの船を狙った?明のESPにひかれたのか?」
男は答えるかわりに念動力で竜巻を起こす。
パミィは飛んでかわす。飛ぶと言っても念動力で自分の身体を動かしている。
「はっ!」
パミィの手羽先いや羽根先から雷が放たれる。
男に命中。バリアーが解かれる。
男の身体は凍りつき体内の血液が沸騰し・・弾けた。
勝負はあっけなく着いた。
ピンニョはインパルスのメインブリッジに現れる。
銃を構えようとする乗員を制して流艦長が語りかける。
「あなたはパミィか」
「いかにも。久しぶりだな啓三」
「こんな対ESPシールドなど赤子の手をひねるようなものか」
「他のものよりは遥かにマシじゃ。この子をとがめないでくれ。わしが勝手に身体を借りたんじゃ」
「承知した。それよりも礼を言う。ありがとう。・・・あれが他次元生命体か?」
「さよう。この宇宙を狙う別の次元の存在だ。こちらでは奴らは肉体を持たない。こちらの”もの”に入り込んで活動する。今のわしのようにな。だが普通の生物には特別な障壁があり入りにくい。デコラスのように自ら受け入れるなら別じゃが。言わば心の壁、それが作られたモノには無いから入りやすい」
「作られたモノ、クローン・・」
「デコラスは受け入れたと言うのか」
「明はS級エスパーだ。クローンとは言えそれをいとも簡単に」
「奴らはまだESPの使い方を知らない。明のクローンである”彼”に全力でこられたらわしも無事ではすまなかった」
「パミィ、あなたも他次元生命体なのか?」
「いいや、わしは他次元生命体ではない。おっとそろそろお暇しよう。・・あと一つだけ、明は退艦させるな」
「!・・それはもうすぐ目覚めるからですか?」
「美理ちゃんが悲しむから」
・・・
「最後に明と話をさせてくれ」
医務室では麗子が泣きじゃくっていた。
マリアンヌがなだめるが、涙が止む気配は無い。
パミィは頭を下げて「すまん。だが彼を助けることは出来なかった。あのままでは多くの死傷者が出た」
麗子は黙ってうなずく。
「やったのはわしパミィじゃ。ピンニョにはなんの罪もない。嫌わないでくれ」
パミィはベッドに横たわる明の元に行き、その手に触れる。
何かをつぶやいたあと、傍にいる美理に語りかける。
「どんな状況にあっても希望を捨てるな。それが生きる糧となる」
「はい」
「じゃあねー」
ピンニョは意識を失う。
すぐに気がつき、あたりをきょろきょろ「あれ?」
後日ピンニョは精密検査を受けたが何も異常は見られなかった。