星のない宇宙で⑥
星のない空間を進む<スペースインパルス>に警報が鳴り響く。
美理の担当する第二サブレーダーはワープで接近する物体を捉える。
「次元レーダーに反応。ワープミサイルです。数400以上です」
「対次元迎撃戦用意。次元衝撃砲発射!」
「予測軌道プログラム作動。本艦近くに出る奴を優先して狙え」アランの指示。
「次元衝撃砲発射!」
後部上甲板より放たれた緑色のビームはワープして消えて行く。
ワープ中のミサイルに命中。爆発。しかし撃破できたのは半分足らず。
「来るぞ」
「ワープアウト予測ポイントを各砲座に伝達」
ワープアウトして来る200を越えるミサイル。
「各個に迎撃!」ロイの号令に続いて、
主砲。ミサイル。ホーミングアロー。全砲門が一斉に発射される。
「ミサイル発射ポイントを確認しました」
指向性が強いが探知距離の長い第一サブレーダーの出番。担当するのは索敵情報副長カノン。年齢不詳、緑色の長い髪の美少女。無駄に巨乳。
「ワープミサイルスタンバイ!発射後ワープで敵艦隊へ向かう」
シャーロットはワーププログラミングを組む。大忙しだ。
「ワープミサイル、次元衝撃砲、発射!」
ロイの号令と共に発射されたミサイルとビームは通常空間をしばらく進んだ後ワープして行く。
「ワーププログラミング完了」
「ワープ!」
はるか6光年先。
巨大な機動要塞<ドプラス>を中心とするトスーゴ艦隊。現れたミサイルとビームは約1/5を撃破。
続けて<スペースインパルス>が艦隊の真っ只中にワープして来る。
「攻撃開始!」
「全砲門一斉発射!」
リックは発射ボタンを押す。
主砲発射!それを皮切りにインパルスから四方八方に光の矢が放たれる。
次々とトスーゴ艦に命中。爆発。
トスーゴ艦隊と交戦。1対50。
<ドプラス>の回転砲塔がインパルスに襲いかかる。
サライは”シンクロ”操艦で紙一重で避ける。何発か命中するが、副作用の”フィードバック”は改良され極限まで軽減されている。インパルスは止まることはなくビームを回避しながら<ドプラス>に迫る。アッシュのサポートもあるが、明に匹敵する操艦だ。
「ウィングサーベル!レベル4!」パワーは増すが使用時間は短縮される。
インパルス両翼からの光の翼が<ドプラス>を両断する。
大爆発。
圧勝だった。だが流は腑に落ちない。
「順調すぎる・・仮にも神を名乗る敵にしては、手ごたえが無さすぎだ」
医務室。
「あーん」
明は口を開けない。仕方なく美理はスプーンを明の口に押し込む。上手に飲み込む。
「違う。こう。こう持って」
隣で麗子が2号にスプーンを持たせる。ちゃんと持たせてもすぐに握り直して口へ運ぶ。
「もう」
ふたりの少女の目が合う。苦笑。
「ねえ、この子の処遇どうなるか、艦長から聞いてない?」
「この前銀河連合本部に報告して、今日定期連絡だから、何か指示があると思うんだけど、まだ何も」
「どうなるんだろう」
「インパルスは突出して(銀河系から)遠くにいるから、退艦となると難しいかもって言っていた。でもこれからもっと戦闘は激しくなるだろうし」
「れこ。めし」
「はいはい」麗子はフォークに肉団子を刺して2号に渡す。
「! れこ?喋れるようになったの?」
「めしって最初に言った。次が私の名前。ねえ、2号って名前何とかならない?」
「そうだよねえ。かわいそうだよねえ。何かいいのないかな?ん-あきらじゃなくて・・きらら?」キラキラネーム。
「そうだ。麗子、アッシュさんとデートしたんだって?」
「マリアンヌさんのお店で一緒に飲んだだけだよ」(注:18歳より飲酒できる)
「それデートって言わない?」
聞き耳を立てているナトウは気が気でない。
「いいことだと思うよ」
「でもアッシュさん美理の事ばかり聞いてくるの」
そんなやり取りをQは黙って見ていたが、立ち上がり彼女らに近づく。
「美理ちゃん。ちょっといいかな」
Qは美理を診察室に連れて行く。
「副長が言っていた”記憶注入”やってみた。誰の記憶を使ったかは守秘義務で言えないが」
「はい・・」守秘義務なら赤の他人の美理に何をしたのかも言ってはいけない。
「結果があのざまだ。何も変わらない。前とは違った」
「・・・」
「この二か月半あらゆる手を尽くしてきた。だが明は目覚めない。インパルスはもうすぐアンドロメダ銀河に到達する。待っているのはトスーゴ第三艦隊との決戦だ。これまでにない激しいものになるだろう。明なら艦を降りないと言うだろうが、同意のないままこのまま乗せていていいのか?という意見が出ている。それに銀河連合本部ならもっと設備も整って・・・」Qは美理が泣いているのに気づく。
美理は失意のまま病室に戻る。途中から何も頭に入って来なかった。
明が一人眠っている。麗子と2号がいない。リハビリ?いや気を利かしてくれたのか。
美理は明のベッドの傍に座り、明の手を取る。
「いつまで寝てるのよ・・起きてよ、明くん。起きて・・」