死闘はてなく⑥
斬りかかるボッケン。
大剣で防ぐサムソン。
ボッケンは反動を利用し、後ろへ飛ぶ。
サムソンは逆に斬りつける。巨大な剣が来る。空気が震える。
いくらボッケンの顎や歯が強固でもこの剣は受け止められない。
ボッケンはステップで後退しつつかわす。壁に追い込まれる。
サムソンが突く。
ボッケンはその足元を駆け抜ける。
ターンして斬りかかる。
床に銃弾が命中する。サムソンの第三の腕からの銃撃。もう少し遅ければ餌食だった。
後頭部の目によりサムソンに死角はない。遠ければ銃撃、近ければ剣撃が来る。剣の間合いも敵の方が長い。
速さで翻弄して敵の懐に飛び込むしかない。だが自由に動けるのはサムソンが作った半径10mの空間だけだ。
ボッケンは目にも止まらぬ速さで一撃離脱の攻撃をくりかえす。
サムソンの反応速度は常人ではない。ボッケンの剣戟のほとんどを大剣で防ぐ。当たってもパーソナルバリアーのせいでかすり傷しか与えられない。
ボッケンがサムソンを引き離してくれたお蔭で味方は優勢だ。陸戦隊と協力し多くの敵を倒す。
マーチンはステルス爆弾の解除作業を続けていた。
異星の爆弾。星雲に入ったところで遭遇したマイクロブラックホール発生装置と見た。
爆発・暴走すればインパルスの艦尾約1/3は消滅する。
「ちょこまかと。その動きを封じるしかないな」
サムソンは小さな機械を床に置く。足でスイッチを入れる。
「!」
急にボッケンの動きが鈍る。身体が重い。思うように走れない。
「重力か」
この辺りだけ重力が5G程に増している。重力負荷。
一番影響を受けているのは体重のあるマーチンだ。
「う~ 動けん」つぶれている。
「カンナ!」重力負荷範囲外にいる部下を呼ぶ。
「俺の机の引き出しから黄色い袋を持って来てくれ」
「わかりました」
カンナは走って行く。敵に妨害されることなく控室へ。
サムソンは大剣を振りおろす。
ボッケンはかろうじて避ける。
サムソンは影響を受けて・・いるようで、大剣を持ち上げるのにもたつく。
「あの機械だ」
ボッケンは馬蹄ブーメランを飛ばす。
ブーメランは高度がみるみる落ちるが、かろうじて機械に届く。これを破壊する。
重力が元に戻る。
サムソンの攻撃をかわしつつ、ボッケンはその脇腹を斬る。
だがパーソナルバリアーは健在でかすり傷しか与えられない。
「飛び道具もあるのか」サムソンの口元が笑う。
カンナは黄色い袋を持って帰って来る。
マーチンはダメージを受けた腰をとんとんしながら「中身をくれ」
「はい」中から取り出したのは下着?白い紙のような素材。「何です?これ」
「オムツだ。マイクロブラックホール入りの。医務室からもらってきた。すごい技術だよな」
「・・未使用ですよね」
「穿いてみた。でも大も小もしていない」
「いやあああ」カンナは袋を投げつける。
デリカシーのない男は彼女が何で嫌がるのか分からないが、中身を取り出す。
「ブラックホールでもってブラックホールを制す」
なにやら回路を組み替えたりなんやかんやして爆弾を無効化させる。
「おしまい!」
それを聞いたボッケンは防御から一転して攻撃に出る。
ステップを使って斬り込んでは下がりまた斬り込む。
サムソンは防ぎきれずに腕や脇腹や首に傷を負うが、表面を削いだだけだ。しかし銃撃を跳ね返すバリアーがあるのに傷を負わせるのは凄いことだ。
「ならば」
「!」
ボッケンは目を疑った。
サムソンの構え。居合斬りの構えだ。大剣には鞘がないため納刀してはいないが。
サムソンがじりっじりっと歩み寄る。ボッケンは後退る。
「(間合いにさえ入らなければ)」
ボッケンは壁に追い込まれる。
「(右手だけであの大剣はふれない)よし!」
ボッケンは攻撃に転ずる。
サムソンはほくそ笑む。胸部から第四の腕が生える。大剣の柄を掴む。右と胸の二つの腕で大剣をふるう。
ボッケンの反射速度は人間の比ではない。避けて走り抜ける。それでも大剣はボッケンの臀部を掠め鮮血がほとばしる。
「ちっ」サムソンは背部の腕でビームマシンガンを連射。
ボッケンは銃弾を避けてUターン。再び一撃離脱。
大剣を避けるが左腕のパンチを喰らう。転倒する。
即座に飛び起き、銃撃を避ける。次の攻撃に転じる。
攻撃の応酬は次第にスピードを増す。ボッケンが凌駕する。
「うおおおおおお」サムソンは大剣を振り回す。
ボッケンは避けざるを得ない。じりっじりっと後退、壁が近づく。
ボッケンは180度ターンし、壁を垂直に駆け上がりバク宙、空中で逆さに斬り込む。
ボッケンの刀はサムソンの左腕に刺さる。だが浅い。
「!!」抜けない。
サムソンの右手がボッケンの後脚を掴む。
「捕えたぞ」
ブリッジへ進軍中の明と陸戦隊の前にチャザが連れて来られた。
女の子のような男の子。テレポートの使える数少ないエスパーの一人だ。ロミは不在、ヨキも忙しいので白羽の矢が立った。<那由他>と交信中。
『今言うたようにブリッジへ向かっているミサイルをテレポートで艦外へ排除してほしいねん』
「しかし私のESPは対ESPシールド下では使えません」
『30秒だけシールドを切るさかい、その間にお願いしま』
「ミサイルの位置は20m前方の壁の中です」
陸戦隊員がハンディレーダーを見せて説明する。
「大丈夫。で・き・る!」明が励ます。一応チャザの尊敬するS級エスパーだ。
「わかりました。やってみます」
チャザは精神統一する。両手を前に。壁の中を透視する。
「見えた!」
『えーか?ええのんか?ほならシールド切るで。3・2・1・・』
「やあっ!」力を込める。
ハンディレーダーからミサイルが消える。
数km離れた宇宙空間に現れる。それも敵艦の近く。成功だ。
「おおっ」と歓声が上がる。
『ありがとさん。ようやってくれた。次はわての所お願いしま・・』
メインコンピューター付近で大爆発が起きる。
時は30秒ほど戻る。
メインブリッジでは銃撃戦が続いていた。
敵は美理を撃てないだろう(から傍だと撃たれない)と考え、グレイは美理を守ると言う名目で近くにいた。狡猾。
美理はある匂いを感じる。どちらかというと不快な匂い。だがその原因がわからない。そばにいるグレイのおなら?
それは近くで銃を撃つグレイも同じ。お互い気を使い尋ねない。
「!」
その敵に気づいたピンニョは天井に向け羽根手裏剣を投げる。
そこは何もないはずだったが、手裏剣は何かに命中。ドサッと何かが床に落ちる。
光学迷彩が解けて緑色のトカゲ人が現れる。匂いの元だ。アルゴン。彼はふたりいた。
「対ESPシールド休止」
ドリルミサイル処理のため、対ESPシールドが消える。
アルゴンは美理に迫る。
「!!」
「お迎えに参りました」
彼の能力では対ESPシールドを破ってテレポートで美理を外へ連れ去る事はできなかった。そのためこのタイミングを狙っていた。
「きゃあ!」
ピンニョの羽根手裏剣、流とグレイの銃弾がアルゴンに命中する。袋叩き!
アルゴンはたまらず姿を消し、この場を離れる。
その時だった。激しい衝撃と震動が艦を襲った。
「メインコンピューター付近でドリルミサイルが爆発!」クリスが報告。
「片方が阻止されたらもう片方が爆発するようにプログラムされていたのか!」アランが激高。
「<那由他>の状況は?」流がアランに尋ねる。
「今のところ不明ですが、おそらく・・。サブコンピューターをフル稼働。当面シングルバリアーになります」
傷の痛みに堪えて操縦するサライであったが、操縦桿を握ったまま意識を失う。
ショーンが気づく。
「サライさん!」
エスパー戦団副団長のくせに対ESPシールドを破ってテレポートできないアルゴン。
話の都合とは言え、情けない。ロミでも可能と言っているのに(第6巻第2章)。クラスはA級?
リイン団長(SSS級)が特別で、まあ得意不得意があるという事で。




