星のない宇宙で①
第1章 星のない宇宙で
―宇宙暦500年6月―
惑星<ロトス=オリ>。アラン副長の故郷だ。
その空には双子星の<ロトス=リカ>が浮かぶ。銀河連合本部のある首都星である。
ペルセウス腕にあるこの星には地球人に似た50億の人々が暮らしている。
少年は空を見上げる。彼らには目がないため、正確には上を向くと言うべきか。
空が輝く。空間から眩い光が溢れる。
次の瞬間。<ロトス=リカ>は断末魔の悲鳴をあげる間もなく無数の破片に変わる。
その多くが隣の<ロトス=オリ>に降り注ぐ。
星は壊滅的な状況に陥る。
エスザレーヌ大統領は外遊先で故郷の最後を知る。
――――かくして銀河連合とトスーゴ第3艦隊は全面戦争に突入した。
“大災害”のあと、<銀河連合>の本部は臨時的に惑星<ユーブ>に移され、翌日には緊急の会議が開かれた。会議は数日間続いた。
野球場ほどの空間に数え切れない椅子。その一つ一つに議員が座る。ヒューマノイド、爬虫類、鳥類、昆虫、機械、植物、妖怪にしか見えないもの・・さまざまな種族。実際に出席している者リモートで参加している者、区別はつかない。
「彼らの力は本物です。あの兵器はアンドロメダ銀河から放たれたものと判明しています。まさに神の雷。我々に勝ち目はありません。これ以上の犠牲が出る前に直ちに降伏すべきです」
「ちょっと待て。あんな手痛い攻撃を受けたのにか?」
「そうだ。星が一つ滅びたのだぞ。いや二つだ。<ロトス=オリ>も壊滅に近い」
「その前にも奴らの奇襲で数多の星が滅んでいる」
「ではあの兵器にどう立ち向かうおつもりです?」
「神には勝てない」
「いや徹底抗戦だ」
「降伏すべきだ。もう一度アリア司令官に連絡を試みて・・」
「特使を送って和平交渉を」
「相手は自称”神”だぞ。相手にされるわけがない」
「あんな神がいるものか」
「古来より神は我々に試練を与えてきた」
「試練?あれは殺戮だ。虐殺だ」
ぱん。誰かが手を叩く。
視線が集まる先、エスザレーヌ大統領は長い金髪をかきあげる。破壊された<ロトス=リカ>出身の年齢不詳のヒューマノイド美女。
「戦うにせよ降伏するにせよ、相手をよく知らなければ始まらない。まずは情報収集だ」
エスザレーヌは右隣を見る。長い白髭を携えた老人アステラ。同じく<ロトス=リカ>出身で”銀河の知恵袋”の異名を持つ賢者だ。
「各星系に残るトスーゴに関する情報を集めてください」
「はっ、畏まりました」
今度は左隣の中年男性に。副大統領のラプトン。地球の元軍需産業CEOだ。
「例の新兵器はどうなっていますか?」
「全工場フル稼働で製造しております。5ターン(約150日)ください」
「遅い。3ターンで揃えてください。では特務艦<スペースインパルス>流艦長、お願いします」
呼ばれた流啓三が立ち上がる。少し痩せたせいで眼光は鋭さを増している。
「これから聴いていただくのはトスーゴ第三艦隊エスパー戦団団長リインと本艦の弓月明副航行長とのESP戦のボイスレコーダーです」
<スペースインパルス>からのカメラ映像と共に“リインとの会話“が公開された。
聴き終えた後、しばらく誰も声を発する事が出来なかった。
「月を動かすエスパー。そんな者が存在するのか」
「いや、そのリインに彼は勝った。彼は今?」
「意識不明です」流が答える。
「再起不能なのか?もったいない」
そう発言した議員を流は睨みつける。
「<銀河連合>の医療機関に移してはどうか?」
「本艦の医療設備は最新です。それにリモートで銀河中の名医に診ていただいています」
「彼がリインを倒したから敵は攻撃してきたのではないのか?」
「それは・・」
「それを言っちゃーおしまいよ」
茶化したのは髭の紳士。地球のクイーン銀連(銀河連合)大使。シャーロットの父親だ。
「それは事実かもしれないが、予測不能だった」助け舟を出す。
別の議員が「敵の本拠はやはりアンドロメダ銀河にあるらしい」
「暗黒星がトスーゴではなく、その他次元生命体とやらによるものと分かったのは興味深い」
「全ては誤解から始まっている。話し合う余地はあるはずだ」
無言のエスザレーヌ。
「だが我々は多くの同胞を失った。世論が納得すると思うかね?」
「彼らの司令官も妹を失っている。もはや戦いは避けようがない」
「いや、戦いはすでに始まっている」
「それよりも・・流艦長。あなたの妻はトスーゴだったそうだな」
ザワザワ・・
「家族の情報はすべて提供しました」
「信用できるのか?君が敵と内通していないという保証は無い」
ザワザワ・・
エスザレーヌは立ち上がる。
「皆さんはお忘れですか?トスーゴに最も損害を与えているのは流艦長の<スペースインパルス>です」周囲を見渡して「銀河連合大統領の権限で、罰は無し。トスーゴと戦うのに彼と彼の艦は必要です」
「・・・」
会議は終わった。
流啓三は立ち上がる。会議場を出ようとしてラプトン副大統領に声をかけられる。
「ちょっといいか?その弓月副航行長の詳細な資料を頂けないだろうか」
「明の資料はすべて提出しています」
「いやもっと他の、例えばゲノム情報とか」
「ゲノム?何のために?」
「彼は素晴らしい兵士だ。このまま無駄にするのは惜しい」
「クローンを作るのに必要なのですよね」
振り向くとクイーン大使が立っていた。ラプトンはこそこそと退散する。
「死の商人め」クイーンが吐き捨てる。
だがトスーゴと戦うためにはその死の商人の力を借りなければならないのが現状だ。
「本当なのか?クイーン」
「奴ならやりかねん。倫理より金儲け優先だ」
「・・・」
「それより望ちゃん(孫)は元気か?」デレっとじいちゃんの顔になる。
「ああ。いろいろ検査を受けているがケロッとしている」
「そうか、会いたいなあ」
エスザレーヌが近づいて来る。
ふたりは敬礼する。
「流艦長。これより貴公には<スペースインパルス>で出航してもらう」
「どこへ」
エスザレーヌはにっこりと微笑み、答えた。
「アンドロメダ銀河」
ロトス星系の秘密
双子惑星<ロトス=オリ>と<ロトス=リカ>。
最初の設定では<ロトス=オリカ>という一つの惑星でした。
後ろから読むと・・・