流血のアンドロメダ⑧
<スペースインパルス>居住区・ミクロ化シティ。
瓦礫と化した建物。
シャーロットと望は以前美理からもらった“ステルスかっぱ”(光学迷彩で姿を消す)を被って隠れている。葵とははぐれてしまった。無事だといいが。
すぐ傍をレオンが通る。
「大きな声出しちゃダメよ。望」
「・・・」
レオンが通り過ぎる。
「・・ふう」ステルスかっぱを脱ぐ。
「聞き分けのいい子だ」護衛の陸戦隊員は望の頭をなでる。
望はニコニコ。
「いつもは違います。危険を察知しているのかしら」
「それにしても・・」
破壊されつくした住処に心が痛む。
遠くで銃声。爆発音。建物の倒壊音。
望は空に手を伸ばし呼ぶように喋る。「あー」
「え?」シャーロットはそれが「明」という意味だと知っている。
「(明が来てくれたの?)」
前述のようにミクロ化シティ内は1/8に縮小されている。体積なら1/512だ。
トスーゴ軍は戦車を繰り出す。反重力で飛行も可能。空中で発砲。
避難している人々に命中。一瞬で幾つもの命が消える。
さらにレオンが襲いかかる。戦闘と言うには一方的すぎる。
敵の小隊長が命令する。
「撃て!皆殺しにしろ!」
その額に穴。倒れる。 狙撃したのはリック。
リックのいるビルへ向け砲撃が来る。
リックは弾幕を張り、砲弾・ビームを防ぐ。そして逃げる。
ガガガガガガ・・・・
機銃掃射を避け、ボッケンは空中戦車の死角へ回り込む。
戦車も旋回するが追いつけない。
瓦礫と化した建物をぴょんぴょん飛びながら、徐々に高度を上げ接近する。
ジャンプ。空中で戦車を一刀両断。
ボッケンが着地した背後で戦車は爆発を起こす。
シュバッ! 別の戦車を陸戦隊のパワードスーツがバズーカで撃破する。
破壊され地形が変わっているとはいえ、地の利はこちらにあった。
廃墟の街で明は初めてレオンと対決する。
次々と獣が襲い来る。
ボッケンから訊いていたが速すぎる。ESPが使えない今は直感で闘うしかない。
それでも銃は当たるし、接近して来た所をビームブレードで斬れる。
「あいつ本当にESP使えないのか?」ヨキが呆れる。
ガルム陸戦隊隊長指揮下の本隊は街中で敵と交戦中。
ビルの上にレオンの群れが現れる。一斉に壁を下って向かって来る。
ガルムが叫ぶ。
「撃ちまくれ!こいつは当たれば倒せる!」
陸戦隊パワードスーツの総攻撃。
銃弾を受けレオンは次々と倒れるが、一頭は防衛線を突破し迫る。
「くそお!」
ガルムは突進して来たレオンの角を間一髪つかむ。真剣白刃取り。
「撃て!」仲間に撃たせる。
銃撃を受けてレオンが崩れる。
「隊長!」
「かすり傷だ。気を抜くな!まだまだ敵はいるぞ!非戦闘員の避難はどうなっている?」
「8割方完了しています。第一出口を明たちが解放したので助かりました」
「弓月明?あいつが復帰したのか」
にっ。ガルムの笑みはちょっとこわい。
その時連絡が入る。ガルムは「わかった。信号弾を上げろ」
ミクロ化シティの各所で色んな色の信号弾が上がる。一つは集合場所、他はダミーだ。
集合場所の艦内学校は小高い丘の上にある。いやあった。校舎は破壊され瓦礫と化している。美理や麗子が見たら何と言うだろう。
「ガルム隊長!」先程の陸戦隊員が望を抱っこして現れる。
パワードスーツや装甲兵を見た望は「ロボ!ロボ!」と大興奮。
ガルムは「護衛対象を確保。これより護送する」小声で報告する。
その目の前でその陸戦隊員が倒れる。
風が通り過ぎる。
レオンがその角で望の服を引っかけて走り去る。
「望!のぞみいー!」シャーロットの悲痛な叫び。
当の望はきゃっきゃっと嬉しそう。人質を考慮してレオンの速度は遅め。
行く手に明。銃を構える。が、さすがに撃てない。
その明を敵の狙撃兵が狙う。
その頭部に脳波誘導ブーメランが命中。投げたのはヨキ。
レオンは明を避けようとしたところ、後ろから来たボッケンに斬られる。
ボッケンは空中で望を咥えてUターン。
遊ぼうとその頬をぺちぺちする望を母親の許へ送り届ける。
明たちも合流する。ガルムが歓迎のハイタッチ。正直痛い。
「あー」望が手を伸ばす。
「おう!」明の指をつかむ。握手?
「やっと起きた」シャーロットが皮肉っぽく言う。
明はうなずく。ちょっと照れくさい。
「完全復活って感じじゃないみたいね」
「まだESPが使えない」
「・・・」
「まあ昔に戻っただけだが、何か面倒だ。人間楽しちゃいけないって事か」
「感動の再会のところ申し訳ないが、敵の本隊が迫って来ている」ガルムが水を差す。
丘から見下ろす先、ラカンを先頭に数十体の敵パワードスーツとレオンがゆっくりと歩み寄る。
シャーロットと望は味方部隊の真ん中に案内される。
5人程の非戦闘員がいる。葵と再会、無事を喜び合う。
ガルムはヨキにESPバリアーをいつでも張れるよう指示する。さらに極秘の作戦を耳打ちする。驚くヨキを無視して、ガルムは檄を飛ばす。
「敵の目的が拉致なら重火器は使えん。油断はできないが勝機はある」
「来るぞ!」
明たちは銃を構える。
アンドロメダ銀河の目前、<悪魔の目>にまた光が現れ、消える。
それは幾人かの命が消える輝き。
数え切れぬ光の瞬きは絶えることなく続く。




