流血のアンドロメダ⑦
信じられない表情の麗子を残して、パジャマ姿の明はベッドから飛び出す。
目にも止まらぬ速さで次々と敵兵を撃ち抜く。
敵兵は衝撃で倒れただけですぐに起き上がる。
「パラライザーか(麗子らしい)」
明は銃を左手に持ち替え、敵兵の装甲のうすい顔面を狙い撃つ。
素早く動いて別の敵兵の懐に入る。顔面に右パンチを叩き込む。K.O.
「ふっ(昔の自分もそうか)」銃はパラライザー専用だ。敵の銃を奪う事も考えたが、認証等で使えないリスクがあるのでやめた。
「明!」
Qが拳銃を投げる。下手。ちょっと遠い。明はジャンプ。
敵兵たちは明を狙う。連射可能なビームマシンガン。撃たれたら最後だ。
敵が引き金を引くより先に明は拳銃をキャッチ、そのまま空中で発砲。
さらに身体をひねり後方の敵兵二人を撃ち抜く。そして空きベッドに背中から倒れ込む。
敵の位置を確認した。あと四、五人。
明はベッドを倒して盾にする。こんなものじゃ防げないのは分かっている。
敵に向けベッドを蹴る。
銃撃でベッドは粉々になる。だが視界は奪った。
明は飛び出す。
一気に間合いを詰め、敵兵の喉元を左肘打ち。続けてパラライザーのグリップで顔面を砕く。その敵兵を盾にして二連射で二人倒す。
「動くな!」銀河共通語?
敵兵はマリアンヌ師長に銃を突きつける。明に銃を捨てるよう促す。
明は右手で拳銃をぽいっと投げる。つづけて左のパラライザーを投げつける。
敵兵が驚いた一瞬を逃さず、明は飛ぶ。
自分が投げた拳銃を空中で掴み、撃つ。
ひとりで十人近い敵兵をすべて倒す。
簡単に制圧できると思っていたのか、パワードスーツやレオンがいなかったのは幸いだった。
半月前。
ピンニョの身体を借りたパミィは明にテレパシーで語りかける。
≪もう身体の傷は癒えたんだろ?≫
≪リインを殺したことを悔やんでいるのか?≫
≪お前は優しすぎる≫
≪いつまでうじうじ後悔しとる。後悔しても過去は変えられない。お前を待っている者の事を考えてみい。お前はあの子のために戦うと誓ったんじゃないのか?≫
≪起きろ!今起きないと一生後悔することになる≫
それは一瞬のできごとだった。
明はつぶやく。
「師匠。今起きました。少し遅かったかもしれませんが」
明はESPを使わなかった。いや使えなかった。
医務室は負傷者の治療でてんやわんやだ。
明はスペーススーツに着替える。自分のエスパーガンをチェック、メーターが低い。
「明さん。ちゃんと手足は動きますか?」カーテン越しに麗子が尋ねる。
「ああ」カーテンを開ける。「大丈夫だ」
「3ヶ月も意識がなかったのですから、いきなり戦いに参加されるのは無茶です。いくら美理が手足を動かしていたといっても・・」
「え?」
「筋肉が衰えるのを防ぐために、リハビリマシン以外に実際に動かしていました」
「・・・」
熱い想いがこみ上げて来る。戦えたのは彼女のおかげだった。
「私も手伝いましたよ」と麗子は言ったが明には聞こえてない。
「だめだ。ブリッジに(通信が)繋がらん。居住ブロックで大きな戦闘中らしいが」
「先生。どうもESPが使えないみたいなんです。テレポートどころか、麗子ちゃんのスカートすら動かせない」
「先生、殴ってもいいですか?」
「今生きているのも奇跡だったんだぞ。次第に回復して来ると思うが」
「はあ」エスパーガンは普通のレイガンとして使用可能だ。「なんとかなるか」ホルスターにしまう。
ヨキとリックが医務室に応援に来る。他にも数名、装甲兵もいる。
「あ~!」「明!?」偶然の再会。
「大丈夫なのか?」
「ああ。心配かけたな。これからどこへ?」
「居住区へ応援に行く。ボッケンは先行している」
「ここの防衛はもう大丈夫ですね。じゃあ、俺行きます。居住区通ってブリッジへ」
「ガルムが防衛線を敷いている。一番の激戦区だぞ」
「わかっています」
「パラライザーは使うなよ。これは戦争だ。苦しまぬように殺せ」
「先生。(とても医師の言葉とは・・)」
そう言う麗子をマリアンヌはいいのよと制する。
「迷っていたら殺られる。今は考えるな。・・死ぬな!敵を殺して生き延びろ!生きて、後で後悔すればいい」
「ありがとうございます。先生」走り出す。
礼をしてヨキ達もつづく。
「気をつけて・あ(美理に伝えなくちゃ)」
見送る麗子は思い出したように通信機を手に取る。
メインブリッジ。
「次元レーダーに感!右上方に新たなトスーゴ艦隊です」美理が叫ぶ。
敵艦隊がワープアウトする。約5000隻。駆逐艦を主体とした高機動艦隊だ。
銀河連合艦隊はただちに迎撃する。
敵艦隊はヒットアンドアウェイ、つまり一回攻撃後ワープで逃走。先程からこの繰り返しだ。
「これもリモート艦隊だ。コントロール源を探せ!」
「白色矮星がじゃまで・・」カノンの言い訳。レーダーは敵の方が優れているのか?
「旗艦より入電。艦隊針路002」ショーンが報告。
「002?白色矮星に近づけと言うのか?レーダーが使えなくなるぞ」
「リモート機はここで待機せよとのことです」
「なるほど敵味方ともリモコンを使えなくする気か」
「敵のリモート性能が上だった場合、不利になりますが」アランが補足。
「了解。針路002」サライが操縦桿を動かす。
『戦闘機隊第三陣発艦!』フォアーロン提督の命令。
空母から有人の戦闘機が飛び立つ。約3万機。空母周囲には帆船型イージス艦が多数配備されており損傷は少ない。
リュウら有人の<スペースコンドル隊>はそのまま艦隊に同行する。
外から見るインパルスの損傷はこれまでにないものだ。痛々しい。
キークら遠隔操縦の<スペースコンドル隊>も艦隊を見送る。
やがて”シンクロ”は解除され、パイロット達は遠隔操縦室で目覚める。
キークはロミに呼ばれ、控室に入る。そこには物言わぬ双子の兄がいた。
「ミザール!」
通路には陸戦隊装甲兵の屍が数多く転がる。
居住区の入り口。ラカン隊第7連隊が守備する。
ボッケンは攻めあぐねていた。
通路の角からちょっとのぞくだけで激しい銃撃が来る。床にはステルス地雷が仕掛けられている。ボッケンの目ならその位置がわかるが、避けて走れば銃撃の餌食だ。地雷を撃たれる危険もある。敵にはレオンもいるが地雷のためかこちらに攻めて来ない。
居住区では今も激しい戦闘が行われている。急がなければ。焦る。
気配を感じてボッケンは振り向く。
「よ!」明が手を上げて挨拶。
「!!」さすがのボッケンもびくっとなる。「あ、兄きぃ!?・・」大きな瞳がうるうる。
「話はあとだ。ここを突破するぞ。ヨキ!」
「おう。まかされて」ヨキは明とボッケンにタッチ「行くよ」
ふたりを入り口にテレポート。対ESPシールド下だと数十mが限界だ。今は触れなくてもテレポートできるが、つい癖で。
明は至近距離で銃を連射。ボッケンは刀を咥えて回転斬り。
突然現れた敵に第7連隊が壊滅させられるのに30秒もかからなかった。
メインブリッジ。
通信補佐のピンニョの許に通信が入る。
「え?麗子ちゃん?これ緊急ホットラインだよ?怒られ・いいの?・・・んーじゃ流すよ」スピーカーに切り替える。「美理ちゃん!麗子ちゃんから」
「え?」
『やっと繋がった。美理聞こえてる?明さん、目が覚めたの。居住区通ってそっちへ行くって』麗子の声。
「!」驚く美理。「え?・本当?・・・」涙があふれる。
『もうすぐ会えるよ。すみません皆さん。切ります』
誰も非難する者はいない。
嬉しそうなグレイ「よかったな」
「はい」
流啓三にも笑みがこぼれる。
美理は胸に手を当て、つぶやく。
「もうすぐ会える」
明とボッケンは居住区の入口にいる。
後続の仲間のためにボッケンは設置されたステルス地雷のマーキングをしている。地雷は後で処理班の装甲兵が片付けてくれるはずだ。
「こいつ?」明はレオンの死体を蹴りながら訊く。「そんなに強いのか?」
「いくら兄きの動体視力が良くても目では絶対に追えない。直感で動いて。狭い通路と違って広い場所だとより厄介だと思う」
「!」首のないレオンが動く。斬られた前脚が少し生えてきている。
「こいつ再生している!」明は銃で心臓部を撃ち抜く。
コアを破壊されたレオンは沈黙する。
とどめを刺さないと再生する。この事実をガルム陸戦隊隊長に報告する。
報告中にリックやヨキたちが入口に到着。共に居住区へ。
そこはすでに戦場だった。




