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38色々知らない事ばかりで驚きます


 プリムローズはカイトと一緒に縁結び処を出ると取りあえずレゴマールたちが行ったカフェとは反対方向に歩きだした。

 カイトは横に並んで歩きながら話す場所を探しているらしく辺りをきょろきょろ見回している。

 「カイトそれで話ってどんな?」

 「ああ、前も言ったけどちょっと人には聞かれたくないんだ。どこか人のいない場所がいいんだけど」

 「カイト付き合おうって話なら断ったでしょ」

 「ちがっ!そんな話じゃない。大切な話なんだ。いいからカフェにでも行こう」

 (いったいどんな話なの?それにしても…待て待て、カフェには野郎どもがいるはず…ちょっとまずいんじゃぁ?)

 「そうだ。だったら私が住んでる屋敷は?今は誰もいないし私の部屋でなら誰も聞く心配もないと思うけど」

 プリムローズはそう言う事ならと自分の部屋に誘う。

 「ああ、そうだな。それがいいかも知れないな。でもいいのか女が男を部屋に入れるなんて」

 「だってカイトとは友達だし、それに大切な話もあるんでしょ?」

 「ああ、じゃあ、そうするか。すまん。でも、勘違いするなよ。俺は話がしたいだけで…」

 「わかってるって」

 そこで私たちは回れ右をして屋敷に向かって歩き始めた。


 「いいのよ。そんな事よりカイトは知ってた?第2王太子のセザリオ殿下が私に婚約を申し込みたいと思っていたって」

 プリムローズは誰かに聞きたくてたまらなかった。

 この3年とにかく何の情報も入らない世界にいて確かに衣食住に困ることもなかったけれど、自由はほとんどなかったのだ。

 何か情報を知りたいと思っても仕方がないだろう。

 「ああ、そう言えばそんな事を聞いた事があったような…でも辺境伯はプリムローズと嫡男のジルスを結婚させたがっていると聞いていたけど」

 「息子がいたの?初めて知ったわ。それに会った事もないけど」

 「ジルスは片目を怪我でなくして今は辺境伯騎士団の執務長をしているらしい。滅多に家族には近づかないみたいだ。プリムローズと結婚させれば竜族との関係がうまく行くと考えていたんだろう。でも生贄になると決まって話は頓挫した」

 「カイトよくそんな話知ってるわね。私なんかマグダが亡くなってすぐにあの屋敷に連れて行かれて…」

 「ああ。ちょうどいい。俺はその話をしようと思っていたんだ」


 そこで屋敷について部屋に入った。


 「お茶でも?」

 「いや、また邪魔が入ると面倒だから。早く本題に入ろう」

 カイトがそう言うのでプリムローズはソファーに向かいに座った。


 「プリムローズはマグダが何をしていたか覚えているか?」

 「ええ、マグダは竜族の長で100歳近くてせぶりの森を守っていた。マグダのおかげで森は安全で守られているってみんなが言っていた。でもマグダが死んでその後はどうなったのか知ってる?私はすぐに辺境伯の所に連れて行かれてしまったからずっと気になっていたの」

 「いいか良く聞いてくれプリムローズ」

 カイトはソファーから前に出てプリムローズの手をぎゅっと握る。

 そんな事をされると嫌でも緊張してしまう。

 プリムローズは思わずごくりとつばを飲み込む。


 「落ち着いて聞いてほしい。マグダは殺されたんだ。薬を盛られた…」

 「うそ!マグダが殺された?病気じゃなくて…でもどうして…」

 プリムローズの胸が短剣で突き刺されたみたいにズキズキ痛んだ。

 殺された…そんな。マグダは確かに息をするのも苦しそうにしてもがいて亡くなって行ったのだ。

 それが誰かの仕業だったなんて。許せない。そんなの絶対に…

 激しい憎悪が沸き上がる。

 「ああ、わかるよ。プリムローズが怒る気持ち。でもそれより聞いてほしい事がある」

 カイトは何かを決心したような顔をしている。

 プリムローズもそんなカイトを見たのは初めてで彼の言う事に耳を傾けた。


 「ラルフスコット辺境伯の異母兄にライゼウスと言う男がいるんだが…こいつは辺境伯が後を継いだことを妬んでいて何かとオデル領内で騒ぎ起こしてばかりで、そいつが竜族をせぶりの森から追い出そうとして…あいつ…そうすれば竜族を操れるとでも思ったんだろうな。それに宝珠の事もあるし…」

 「宝珠って?」

 「ああ、覚えてないだろうな。いいかプリムローズ。マグダはそんな計画があると知ってプリムローズの記憶を消したんだ。覚えていないだろうけどマグダはせぶりの森で宝珠を守っていた。それは300年前竜人から授かったもので、エステファニアの宝珠と言うものなんだ。メルクーリ国との戦いでゼフェリス国がもうメルクーリ国を加護しないと決まってその時の竜帝が竜族を守る加護をと与えて下さったもので、それは代々マグダの一族が守り続けて来た。ライゼウスがせぶりの森からみんなを追い出そうとしていると分かってマグダは宝珠をどこかに隠したんだ。宝珠は長の跡継ぎが18歳になるまで引き継ぐことが出来ないと決まっていているから…でも、マグダはその場所を君に託したはずなんだ。だけど君が捕まってもしありかを話してしまったらとマグダは君の記憶を消した」


 プリムローズはカイトの言っていることを理解したが…脳内にはそんな記憶はこれっぽっちもない。

 「じゃあ、どうやって宝珠を探すの?私の記憶にそんな記憶はないわ…でも、その宝珠が竜族を守る秘宝なんでしょう?マグダはどうするつもりだったのかしら」

 「ああ、その事は俺が頼まれたんだ。だけど一度目は君を死なせた。二度目は生贄になってしまうと決まって…でも、今度こそマグダの意志を果たしたい。俺はいざとなると臆病でプリムローズを助けれなくてほんとにごめん。でも、君を今度こそマグダのお墓に連れて行く。マグダは俺に言ったんだ。プリムローズが18歳になったら自分の墓の前に連れてきてほしいと、そうすれば君の記憶が戻ってすべてが明らかになると、そして竜族の長としてプリムローズにはせぶりの森や竜族を守ってほしいと伝えるように頼まれた。だから、今すぐにでもせぶりの森に出発したいくらいなんだ。最初にプリムローズが来た時はあの人が一緒だったし、昨日はたくさん人がいたし、なかなかふたりきりになるチャンスがなかっただろう?だから遅くなった。すまん。ほんとに。こんな頼りない俺だけど絶対君を守る。だから一緒に来てくれないか?」

 

 プリムローズは驚いたのなんの。

 マグダが殺されたことも、そんな話があった事も、宝珠の事なんかちっとも覚えていなかったが、一番驚いたのはカイトの前世のプリムローズの時の記憶があると言う事だ。

 「カイト。今一度私を死なせたって言ったわよね?と言うことはあなたにも前世の記憶があるって事?」

 「ああ、生贄になるって知った君は屋敷から逃げ出した。俺が気づいた時には馬車で逃げていて俺は後を追ったが、そこで追っていた奴らに俺も殺されたんだ」

 「そんな…カイトまで死んでしまうなんて…でも、転生したって事よね?」

 「おお、気づいたらニップ商会と言うところで仕立て屋をしていた」

 「信じられない…それで私と出会うようにしたのね。話は大体分かったわ。でも、カイト少し時間が必要よ」

 (だって、仕事の事も片付けなきゃならないし、それに有給休暇ってとれるかな?この世界にそんなものないよね。それに私が竜族の長って…いきなりそんな事言われても…どうしよう)


 「バーン!お前ら閉め切った部屋で何をしていた?」

 いきなり扉が開かれアルナンドが入って来た。

 彼は肩を怒らせふつふつと憤怒の滾った顔で怒鳴りつけた。

 「ちょっとアルナンド!いくらなんでも失礼じゃ…」

 プリムローズがそう言いかけるとすぐにアルナンドが言う。

 「俺も行くからな」

 「はっ、どこにです?」

 「決まってるだろ。そのマグダって人の墓にだ!」

 アルナンドはカイトがプリムローズを好きらしいとは気づいていた。(そんな男とふたりきりで行かせると思うか普通。だろ?)

 「それって話を立ち聞きしてたって事ですよね?もぉ、ほんとに信じられない」

 今度はプリムローズがアルナンドを睨み返す。

 アルナンドは知らん顔でそっと顔を背けた。








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