エンドル戦役 ⑷
晴天の下、若干の青さが残る畑の麦が、そよ風に揺れている。
エランドルク征伐軍は、麦畑を貫く街道を真っ直ぐに進む。
やがて、街道の先に、いかにも急ごしらえの石材と木材で出来た門が見えてくる。周りは木の柵が立ててあり、門をくぐらないと町に入れないようになっている。
先頭が、門の前で止まった。
後方から、指揮官と伝令兵が馬で駆けてくる。
兜の顔だけ出している指揮官は、苛立ちを露わにし、騎馬隊に言う。
「何をしている。先へ進め。閊えておるぞ」
騎馬隊隊長は、門を見据えたまま、言う。
「最後通牒をしないのですか?」
兜で表情は分からないが、何処か不満げな声色だった。
指揮官は、きょろりと辺りを見回し、
「誰もおらん」
と言って、進む、の一択であることを示した後、伝令兵を残して、後方に戻った。
確かに門の周辺には誰もいない。キンレイを入れない為だけの門であろう。しかし、破れない門ではない。周囲の木柵と言い、企みを感じる。
「畑を焼きましょうか」
隊長の右後ろにいる副隊長が言って来た。
キンレイの騎馬隊は、本来であれば、速力を活かした機動部隊である。
征伐軍の第一の目的は速やかにエンドルを制圧し、エランドルクへ侵入する為の足掛かりにする事。この状況に於いて、騎馬隊は、歩兵のそれよりも強固な鎧と、馬による突破力を見込まれて先頭にいる。
とはいえ、この門は、馬で蹴飛ばせば開く、という訳でもない。にも拘らず、指揮官のあの言いよう。誰の圧力が掛かっているのか知らんが、えらく急かしてくる。
隊長は、考える。
副隊長の言いたいことは分かる。いつも華々しく活躍する場所を与えられている騎馬隊が、門を壊すなどという地味で面倒な作業はしたくない。畑に火を着けて、それで人が出てくれば、そこを狩ればよい。その方が楽だ。と、言う事だろう。
隊長は、同意しなかった。
「あちらの兵力は約千。火を着けた所で、挑発には乗るまい。エンドルを制圧した後に、奴らにきっちりと収穫させ、こちらが貰い受ける」
「はっ」
副隊長は、受け入れるしかなかった。
工作班が、荷車を押して、前に出て来た。荷車には、火薬の入った袋、斧、大槌、油壷、縄、等が乗っている。
「こいつがいいや」
力自慢の騎士一人と、工作班の一人が、それぞれ斧と大槌を持って、門の前に立った。
ドコッ!ズシッ!
重量感のある音が、門の前に響く。
ドコ!ドカッ!!
皆、のんびりと、門が破られるのを待っている。
ドコン!!バキッ!
音の変わりように、後方の歩兵が、期待の眼差しを向ける。
ベキ!バキ!
門扉に、穴が開いた。斧が閂をぶち叩く。
ガン!ガン!ドカァ!!
門が、破られた。