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終章 ⑵ キンレイの”王国”

 それから、幾度か冬が過ぎ、何度目かの春を迎えた。


 その日、キンレイ帝国にある最古の教会が老朽化により解体されることになり、工事がはじまった。


 神官、石工、住民が、手で一つ一つ、解体していく。壁の欠片を有難く貰う者もいる。


 小さな、救世主キンレイの石像が運び出された後、床に固定されていた木製の台座も解体された。その中に年季の入った、両手ですくえる位の大きさの木箱が納められていた。神官は、身に覚えがなく、中を確認する為、木箱を開いた。中には大切に折り畳まれた古い紙が入っていた。その紙自体も、かなり古く、昨日今日入れられたものでない事は明白だった。

 神官は、慎重に紙を開いた。文章が書いてあり、目を通す。




「神官様?」

住民は怪訝に呼び掛けた。

 彼は、息をしていなかった。目を見開いたまま、固まっている。

 住民は神官が死んだのではないかと思った。

「神官様!?」

 神官に、瞬きがあった。死んではいなかった。

 住民の一人が、神官の手の中にある紙の、上の方に書いてある名前を読み取った。

「”マルク”、、、これは、、弟子に宛てた手紙ですか?救世主キンレイの」

 それから、その現場は大騒ぎになった。


 キンレイの手紙が発見された事も大事件だったが、問題はその内容だった。

 キンレイ帝国の根底を揺るがす内容だった。

 神官は、本音を言えば、手紙を隠滅したかったが、既に衆目に晒されたため、叶わなかった。


 手紙の信憑性を疑う者も当然いた。発見された台座は、教会建立当時の物ではない、床や台座は、木製の為、何度か改築されている、キンレイの時代の物とは言い切れない、というものである。また、千年以上前の紙が無事に残るものか、という疑問もあった。この疑問は当然であった。


 神学者、古文書、歴史の専門家などによる鑑定が行われた。

 三年の時間をかけ、導き出された答えは―――『本物』であった。


 まず、手紙の入っていた木箱は、キンレイの時代のものと見て、差し支えないと判断された。この木箱に使われている木材は、キンレイの時代からあり、千年以上形が保持されることも確認されていた。これの中にあったからこそ、手紙は無事に後世に残ったとされた。

 手紙そのものの材質も当時から使われているもので、文面においても、歴史的齟齬が無いとされ、当時の者が書いたと見て差し支えなかった。

 筆跡に関しては、比較検討できるものがなかったが、文面には救世主キンレイの独特の言い回しが使われており、総合して、キンレイ本人が弟子のマルクに宛てて書いたと判断された。


 帝国、皇教会は騒然となった。

 皇教会には、ハスネルが最高神官に就任した当時から、改革の一環として教典解釈に関する委員会が設置されていたが、それでも、受け入れがたい者は多かった。

 多くの者が、偽物であって欲しいと願っていた。それを裏切られた。

 弟子に宛てた手紙は、三章25節のキンレイの言葉の意味が、共有説の解釈で間違っていなかった事を完全に証明していた。

 自分たちの信じていたものが、根底から覆ったのだ。

 ヴァリスマリス皇帝は、

「粛々と受け入れる」

と声明を出したが、更に数年、この騒ぎは、収まらなかった。

 しかし、帝国による、マシリアヌ大陸における侵略戦争は、ぱったりとなくなった。

 

 手紙騒動が落ち着いた頃、属州オリビスが独立を宣言した。

 オリビスは港を整備し、経済的に自立した。


 これより更に数年後、皇教会は、三章25節における教典解釈を正式に訂正した。これにより、帝国は、世界統一という国家目標を永久に取り下げた。


 帝国は、自ら血を流しながらも、数百年をかけて、全ての属州を解放した。


 キンレイ帝国は、キンレイ共和国と、なった。



 

 完

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