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⑹ 屈辱

 「陛下」


 真夜中。静かな、抑えた声が、ヴァリスマリスを呼んだ。

 ヴァリスマリスは、ぱっと目を開くと、飛び起きるように上半身を起こし、闇の中にヴァイオスを探した。

「どうした」

「夜分に申し訳ありません。お伝えした方が良いかと」

「前置きは良い。どうした」

「征伐軍は、一旦イルム砦まで後退しました。エランドルクが、カリヴァを使用した模様」

 ヴァリスマリスは、息を飲んだ。カリヴァ?あれは、

「使えない武器と聞いていたが」

「分かりませんが、結果的に砦まで下がりました」

 ヴァリスマリスは、黙り込んだ。問題はこの後だ。


 ルデレカが、戸惑いながら上半身を起こし、ヴァリスマリスを見た。

「陛下」

 ヴァリスマリスは、愛しくルデレカを見つめ、微笑む。

「話を聞いてくれるか?」

そう言って、今夜までのいきさつを話し始めた。


 

 マルウスは、軍本部に戻ると、ハイセル周辺から他方へ熱死病が広まるのを防ぐ為、小一時間でおよそ百人の部隊を整え、速やかに本部を出て行った。司令部長官のガルスニキスをはじめ、本部の者たちは、その手際の良さに唖然として見ているばかりだった。


 ヴァリスマリスは、マルウスが出発し、落ち着いた頃合いを見計らって、補佐官のヴァイオスと共に軍本部に赴いた。征伐軍をイルム砦に後退させる、という話を通す為である。

 

 ガルスニキスは、皇妃ルデレカの祖父である。財力があり、凡庸で、何より、”名誉を重んじる”男であった。支持者は多いが、実力者は少ない。


 皇帝と補佐官は、長官の執務室に通された。

 皇帝は、長官と向かい合ってソファに座り、ヴァイオスは、皇帝の後ろに立った。

 皇帝が、話を切り出す。

「マルウスが、東部へ向かったと思うが」

「ええ」

「どの程度、感染が広まっているか、又、これから何処まで広がるか、未知数の為、エランドルク攻略は一旦延ばそうと思う」

 ガルスニキスは、沈黙した。ガルスニキスは、マルウスよりも歳上で、染みと皺の多い顔には、年月を重ねた者だけが醸し出す貫禄があった。

 ヴァリスマリスの心臓は、踊り狂っていたが、平静を装った。

 ガルスニキスが、口を開く。

「まあ、仕方がないでしょうな」

 ヴァリスマリスは、内心ほっとして、続ける。

「そこで、兵士たちは、イルム砦まで下げようと思う」

 ガルスニキスは、不思議そうな顔をする。

「征伐軍は、今日にでもエンドルを制圧するでしょう。そうなれば下がる必要は無いのでは」

 ヴァリスマリスは、黙り込んだ。

 ガルスニキスは、気付く。

「陛下、延ばすと言われるが、どの位、延ばす気ですか」

 ヴァリスマリスは、心を決めて、言い放つ。

「十年だ」

即ち、もう止める、と言っていた。

 ガルスニキスは、驚きを露わにした。

「いや、、はや、、。陛下、気は確かですか」

「誰も、朦朧となど、していない」

「とんだバカ婿だ」

ガルスニキスは、はっきりと皇帝を見下した。

 ヴァリスマリスは、一瞬で怒りを頂点に昇らせる。鋭くガルスニキスを睨む。

「何だと」

 ガルスニキスは、気の毒そうに顔をにやつかせる。

「これでも気を遣って差し上げているのですよ。出したばかりの兵を下げてしまっては、貴方の立場はどうなります。陛下、貴方は、全てを失いますよ」

 ヴァリスマリスは、沈黙した。ガルスニキスの言う全て、とは、命も含んでいた。

 ガルスニキスは、勝ち誇ったように微笑む。

「今のは聞かなかったことにしましょう。陛下は、お疲れの様です。どうか、宮殿に帰られて、ゆっくり休まれて下さい。後はこちらでやりますから」

 ヴァリスマリスは、大人しく帰るしかなかった。


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