⑵ 闇とナギ
シドウェルは、食堂を出ると、館の裏手の出入り口から外に出た。
館の裏側は、庭になっていて、死んだキンレイ兵の装備を剥がして、埋めていた。装備の内、修復できる物は隣の商館に運び、修復した後、使用する手筈になっている。
シドウェルの生まれ育った地域では、死体は埋葬が一般的だった。場所によっては、風葬、鳥葬、水葬などあるが、少なくともエンドルの様な町で死体を放置は出来ない。
数が増えて来たら、町外れの森に埋めるしかない。運ぶのが大変だ。
死体を埋める係の兵士たちは、暗がりの中で、何故か、中には入らずに、建物の壁際に腰を下ろして休んでいた。裏手はあまり灯りが届かず、にも拘らず、彼らが好んで闇の中にいる理由が、シドウェルには分かる気がした。
「お前ら、飯食ったか」
シドウェルが、声を掛けた。
兵士たちは、食った、と言う者や、あまり腹が減ってなくて、と、答える者といた。
「もっと派手な仕事させて下さいよ」と、言う者もいたが、シドウェルは、「まあ、考えておくよ」と曖昧に答えるしかなかった。
「もう、今日はいいぞ。中で休め」
そう言われて、兵士たちは、やっと、のそのそと入って行く。だが一人、立ち上がろうとしない者がいた。まだ若い兵士だった。
「どうした」
内心、無理もないと思いながら、何でもない事の様な調子で、シドウェルが訊いた。
兵士は、庭の盛り上がった土を見つめながら答える。
「俺たち、なにしてるんですかね・・」
「死体を埋めてる。大事な仕事だ」
シドウェルの言葉に、兵士は黙っている。
「考えてもみろ。道に死体がごろごろしてたら、誰も通れなくなる」
兵士は、目が覚めた様にシドウェルを見た。
「そういえば、そうですね。土嚢袋みたいに積みますか?」
ひんやりとした空気が流れた。兵士が本気で言っているのか、冗談なのか、シドウェルには分からなかった。
「やめとこう。火に油だ」
「そっか・・。そうですね」
そう言った瞬間、若い兵士の中に、閉ざしていた感情が噴き出し、涙が溢れてきた。必死で声を殺すが、涙は止められない。
シドウェルは、兵士に歩み寄って跪くと、腕を回し、彼の体をしっかりと抱いた。兵士は、安心したように、シドウェルの胸の中で嗚咽した。
暫く泣いて、兵士は、気持ちが落ち着いたのか、「おやすみなさい」と言って、中に入って行った。
シドウェルは、闇の中に立ち尽くして、溜息をついた。
カリヴァの扱いに慣れているからと、指揮を買って出た。
どういう状況になるか、想像は出来ていたが、それでもやはり、きつい。
こちらも数十人、負傷者が出た。
キンレイの死者は、その数をはるかに超える。とは言え、全体で言えば、大した数ではない。たかだか三万分の千だ。風前の灯なのは、こちらの方。情けをかけている余裕はない。
カリヴァの存在を知られた以上、もう、あちらの油断は、期待できない。さて、どうするか。
「シドウェル」
闇の中から、抑えた声が聞こえた。
シドウェルは、声の方に目を向ける。自分の部下ではない。イザリア様が使っている”東の者”だ。
「どうした」
抑えた声で、シドウェルが訊いた。
闇から、抑えた声が、答える。
「属州のハイセルで、熱死病が広まっている」
シドウェルは、目を見開いた。
「何人死んだ」
「不明だが、軍本部が部隊を派遣した」
シドウェルは、黙り込んだ。キンレイは人の流出を防いで感染を止める気だ。
「分かった。知らせてくれてありがとう」
「ついでだよ」声が言う。「初戦の勝利おめでとう」
少し、明るくなった声に、シドウェルは思わず顔を向けたが、もう声の主は消えていた。




